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就労Bを東京で開所!6ヶ月で100名以上問い合わせが来るまでにした20の施策【福祉×マーケティング】

2023年9月に「パパゲーノ Work & Recovery」という就労継続支援B型の指定を東京都より取得し、約半年間運営してきました。精神障害・発達障害のある方を中心に、企業で雇用契約を結び働くのは困難だけど就労したいと考えている方が、パソコンを使い企業のDX支援に関わる仕事で活躍いただいてます。

お陰様で、開所から6ヶ月で100人以上の方からパパゲーノで働きたいとお問い合わせをいただいてます。利用者獲得が課題の福祉施設も多いと聞くため、参考材料としてパパゲーノが実施してきたマーケティング施策をご紹介します。

【本記事の想定読者】
・就労支援施設を立ち上げようとしている方
・就労支援施設の利用者獲得施策に悩んでいる方
・就労支援業界のマーケティングの正攻法を学びたい方


数字で見るパパゲーノの利用者獲得

まずは2023年9月に開所した「パパゲーノ Work & Recovery」の利用者獲得に関する数字を共有します。

前提:障害福祉サービス利用の流れ

障害福祉サービスは相談支援事業所によるサービス等利用計画をもとに受給者証を取得することで利用できます。そのため、利用者獲得のルートは「利用者本人から」もしくは「相談支援事業所のスタッフからの紹介」の2つが主になります。とりわけ、紹介経由の方が制度や本人の希望も理解した上で紹介いただいているケースが多いため、正式利用には繋がりやすいです。

厚生労働省「障害福祉サービスの 利用について」

流入元

  • LITALICO仕事ナビ:40名

  • 相談支援員からの紹介:17名

  • パパゲーノのホームページ:10名

  • 就労支援施設からの紹介:9名

  • 医療機関・主治医からの紹介:7名

  • 広報媒体・チラシ:6名

  • その他:11名

数としては、LITALICO仕事ナビからのお問い合わせが多いですが、見学、体験利用、正式利用へのコンバージョン率はLITALICO仕事ナビ経由が1番低いです。

9月、10月は広告投資を少ししていたので問い合わせ数も多いです。11月以降はほとんど広告投資をしていないので、LITALICO仕事ナビと紹介が中心です。

問い合わせから契約までのファネル

  • お問い合わせ:100名

  • 見学:60名

  • 体験利用:40名

  • 正式利用希望:24名

  • 契約済:17名

お問い合せから「40%」が体験利用に進み、体験利用すると半分以上の方は正式利用の契約をいただくというイメージです。

契約までにかかる平均期間

  • 平均:74日

  • 中央値:70日

就労継続支援B型を利用するためには、お住まいの地域の自治体に受給者証を申請し取得する必要があります。その前段階として、サービス等利用計画を相談支援事業所に作成してもらいます。

残念ながら、相談支援事業所が全く見つからない方や、計画作成に1,2ヶ月待ったり自治体の審査に時間がかかるケースも少なくなく、正式契約まで平均で74日かかっています。

既に就労継続支援B型の受給者証を取得していて、他のB型からパパゲーノに移動する方はお問い合わせから1ヶ月以内に正式契約をすることもあります。それを踏まえると、長い方はお問合せから正式契約まで4,5ヶ月かかっていることになります。

パパゲーノの広告宣伝費

月ごとの広告宣伝費の推移は下記のとおりです。かなり予算は少なく抑えて、お金のかからない施策を中心に実行してきています。

  • 2023年7月:0円

  • 2023年8月:90,609円

  • 2023年9月:161,034円

  • 2023年10月:107,521円

  • 2023年11月:76,985円

  • 2023年12月:27,280円

  • 2024年1月:27,280円

  • 2024年2月:27,280円

2023年12月以降は、LITALICO仕事ナビの掲載&かんたん請求ソフトの利用料である月額27,280円しか広告費は使っていません。

月ごとの広告宣伝費の推移

利用者獲得20の施策

マーケティングの基本方針として、以下のようなことを考えていました。

  • オンラインより、オフラインの施策を強化する

  • BtoCのマーケティング施策よりも「BtoBtoC」の施策に注力する(相談支援事業所やメンタルクリニックからの紹介獲得の基盤を作る)

  • とにかく足を動かして、地域の施設と「顔の見える関係」を作る

  • オフィスに見学に来てくれる支援者さんを1人でも増やす

  • 開所前後の広告投資は「30〜40万円」くらいしか使わない

  • 何があたるかわからないので、地域に根ざした媒体等多角的なチャネルを試してCPAをみてリソース配分は随時見直していく

具体的に実施した施策を1つずつ紹介します。

【0】クラウドファンディング

利用者獲得が目的ではありませんが、就労継続支援B型の設立に際して「クラウドファンディング」を実施して185名から支援を集めていました。これにより、福祉・メンタルヘルスに関心のある方に応援いただけたのは、広報の基盤としてすごく大きかったなと思います。福祉関係者、障害当事者、研究者などそれぞれの立場から事業所の支援方針に多角的なフィードバックをいただく機会にもなりました。

【1】100施設以上に内覧会の案内電話

まずは近隣の相談支援事業所、メンタルクリニック、就労移行支援、就労継続支援、グループホーム等の施設をリストアップして、パンフレットを郵送し電話して行きました。

ちなみに、三つ折りのパンフレットは「Canva」のテンプレートを使うと誰でも簡単にデザインできるのでCanvaを使うのがおすすめです。

「新しくパソコンを使った就労Bを開所したので、ぜひ見学に来てほしい!」とひたすらお願いしていきました。近隣の相談支援事業所、メンタルクリニック、松沢病院のデイケア、地域活動支援センター、などにオフィス見学に来ていただいてました。

【2】スーパーやコンビニに飛び込み営業

地域で暮らしている利用者候補の方と支援者にリーチするため、スーパーやコンビニにパンフレットを配置できるよう飛び込み営業をしていました。障害福祉施設のパンフレットを置いてくれる場所はあまり多くないと思いますが、個人経営の飲食店で理念共感いただける方などは巻き込めると良いかと思います。(僕らは残念ながらあんまり成果にはつながらなかったです)

【3】就労支援の研修会に全社員で参加

地域ごとに就労支援施設の勉強会や、自治体主催のコミュニティがあるのでそこにアクセスすることは大切にしていました。杉並区には「すぎなみ仕事ネット」という勉強会があるので、全社員で参加して名刺交換とお礼メールを徹底したり、担当者ごとの顔の見える関係作りを注力していました。

福祉や医療業界はいわゆる「エコーチェンバー現象」が働きやすい狭い業界なので、新参者や株式会社に対して冷たい部分があります。最初は値踏みするような目で見られることが少なくありません。ですが、一度対面で会って顔の見える関係を担当者ベースで作っていくと、打ち解けやすいです。地道にオフラインの場に出向き、地域からの信頼を作っていくことが大切です。

【4】開所のプレスリリース配信

就労継続支援B型の指定取得の確実性が高まった現地調査後に、プレスリリースを配信しました。2023年8月17日でした。

現地調査前の集客は東京都より禁止されています。少し前まではもっと緩かったらしいのですが、現在は大々的な広報は現地調査前にはできないので、開所直前からしか利用者獲得に向けた施策は動けません。

プレスリリースはただ5W1Hをまとめて配信するだけだと無風で終わります。事前に記者さんとの関係構築も重ねた上で根回ししておくことは必須です。

今回の開所リリースは運良くホームページから正面突破でプレスリリースを共有し企画営業していた東京新聞さんに取り上げていただき、そこからのお問い合わせも多くいただきました。

【5】絵本「飛べない鳥のかけるん」のプレゼント

パパゲーノで初めて制作した絵本「飛べない鳥のかけるん」を増刷して、クラファンの返礼品にしていました。また、福祉施設やメンタルクリニックの方が来所した際には、記憶に留めてもらいやすいよう絵本をプレゼントしていました。SNSで絵本のプレゼントキャンペーンもしていました。

【6】京王線 八幡山駅にポスター掲示

2万円ちょっとで八幡山駅のポスター広告を出稿できることがわかり、出稿しました。主な目的は「松沢病院など近隣の医師、看護師、ソーシャルワーカーにIT系の就労Bが八幡山に開所した事実を知ってもらうこと」でした。そのため「リカバリー」という専門用語を前面に押し出した広告にしていました。

【7】オウンドメディア「リカバリー辞典」

自社のホームページ内に、精神障害とリカバリーに関連するWEBメディアを立ち上げてコンテンツ制作をしていきました。SEOは短期の成果が出にくいので、SEOも狙いつつ「SNSでシェアされやすいニッチなコンテンツ」を狙っていました。

用語解説系としては、特に注力して以下の3つの記事を書いて、実際読んだ方からお問い合わせをいただいてます。

精神障害のリカバリーとは?
IPS援助付き雇用とは?
就労継続支援B型とは?

他には、就労支援施設やピア団体の取材記事を書くことで、シェアの協力をお願いしていました。

【8】Google広告

Google広告は約10万円を投資しましたが、1件もお問い合わせの獲得には繋がりませんでした。運用方法に改善余地はあるものの、そもそもオンラインでの利用者獲得は投資対効果を良くすることが困難と判断して撤退しました。

なお、前情報として、IT系の就労継続支援B型でオンライン広告の予算を数百万円単位で投資して成果を出している事業所や、就労移行支援施設で月10万円ほどの広告で15名ほど利用希望の問い合わせ獲得を得ている話も聞いたことがあります。うまくやれば成果は全然出せると思います。

パパゲーノとしては、BtoBtoCの施策に注力し持続的な集客基盤を作りたかったので、Google広告は撤退することを早々に決めてしまいました。

【9】LITALICO仕事ナビ

月額2.5万円ほどで、かんたん請求ソフトとLITLAICO仕事ナビへの掲載ができます。お問い合わせ数としては、半年で40名からLITLAICO仕事ナビ経由で獲得することができたので、CPAは最も良いチャネルの1つだと思います。

随時内容をアップデートしたり、ブログ投稿をして、なるべく掲載順位が上がるようにお祈りしています。

【10】杉並区の広報誌に4ヶ月掲載

オフライン媒体で使えるチャネルの1つとして、地域の広報誌の情報を調べて広告枠がかなり安かったので4ヶ月掲載していました。

【11】11ヶ所の郵便局にパンフレット設置

杉並・世田谷の11箇所の郵便局に2週間ほどパンフレットを配置しました。こちらも1番の目的は「松沢病院など近隣の医師、看護師、ソーシャルワーカーにIT系の就労Bが八幡山に開所した事実を知ってもらうこと」でした。松沢病院の目の前にある郵便局にパンフレットを配置していたため、松沢病院の看護師の知り合いが「パパゲーノのパンフレットを郵便局で見つけたよ!」とDMで教えてくれたりもしました。

【12】映画「人生、ここにあり!」の上映会

トミーズアクションクラブという任意団体の映画上映会プロジェクトで、資金調達周りをパパゲーノで担当しています。その一環で、僕たちの事業所でも映画を上映することにしました。

映画「人生、ここにあり!」はまさに就労支援に関わるすべての人に見ていただきたい映画です。精神医学のメッカと呼ばれ作業療法の発祥の地でもある松沢病院がある八幡山で、「人生、ここにあり!」の上映会をできたのは個人的には象徴的で嬉しい出来事でした。

FAX DMを郵送して、コールし、映画の案内をしていきました。ちなみにFAXは、eFAXのようなメールでPDFファイルを送付するとFAX送付できるWEBサービスと、GASを組み合わせると原稿内容を個別化したPDFを自動生成して一括送付する仕組みを作ることができます。

【13】ピアサポート団体への取材・関係構築

近隣のピアサポート団体をリストアップして、すべてに取材・見学の依頼をしていました。お返事をいただいた団体さんは訪問して取材し記事を書いていました。また、ピア団体のSNSアカウントをフォローしている方への「いいね・フォロー」回りもコツコツとやっていました。

【14】地域の関係機関への取材・訪問

杉並区の就労継続支援B型を中心に、地域の関連施設への取材のアポをとって記事で紹介する試みも随時実施していました。取材してたまっていたインタビュー音声を、開所後の就労Bの利用者さんに文字起こしを手伝ってもらったりもして少しずつ執筆しています。

実際、取材記事を書くとSNSで記事を紹介してくださることも多く、パパゲーノについてじわじわと業界内で認知を広めることに役立ちました。

【15】リカバリー全国フォーラム2023に参加

池袋で開催されたリカバリー全国フォーラム2023にパパゲーノの千葉さんと一緒に参加して、当事者・支援者それぞれアクティブに活動されている方と出会うことができました。

トミーズアクションクラブのみなさんと懇親会もできました!

【16】ウェルサーチさんに取材をお願いして掲載

福祉系のWEBメディアとして、ウェルサーチさんに取材をお願いして、記事掲載していただきました。他にも福祉系のWEBメディアには一通り企画営業のメールやDMを入れていました。

【17】松沢病院のYouTubeライブ出演

世界メンタルヘルスデーに開始されていた松沢病院のYouTubeライブに、なぜか1人だけ地域住民代表として出演するという不思議なコラボをすることができました。院内のソーシャルワーカーさんと繋がる貴重な機会になりました。

【18】メンタルヘルス・アイデアソン2023の開催

「メンタルヘルス」「福祉」と「生成AI」に興味のある人を集めたかったため、アイデアソンをオフィスで開催しました。有料イベントでしたが盛況でホッとしております。

【19】うつCAFE@パパゲーノの開催

利用者獲得の成果を見越してのイベントという訳ではなかったのですが、うつCAFEは多くの若者がSNSで繋がっているようで、イベント開催日以降ホームページ経由で若い方からのお問い合わせが一時的に増えていました。

このイベントで出会った、みるくまのしっぽさんのYouTubeチャンネルにゲスト出演させてもらい、就労支援についての解説をしたりもしました。

【20】合同見学会の開催

「個別に見学の時間をもらうのは申し訳ないけれど、合同での見学会があればパパゲーノのオフィスをぜひ見てみたい」という声をよくいただいてました。そのため、対象を広く誰でも参加できる合同見学会を2日に分けて開催しました。

開所から数ヶ月経過したタイミングだったため、改めて近隣の相談支援事業所、メンタルクリニック、デイケア等のうちまだ関係構築できていない事業所さんに一通り電話して見学会の案内をしていました。直接的な成果に繋がらなくとも、定期的に相談支援事業所やメンタルクリニックさんに連絡する口実を作っていくのは大事だなと思います。

支援を届けるべき人に届ける

福祉施設における「マーケティング」は支援を届けるべき人に届ける取り組みです。どんな人を対象にしているのか?その人はどこにいるのか?どうやったらパパゲーノに興味を持ってもらえるのか?をゼロベースで必死に考え試行錯誤してきました。

  • こんな就Bをまさに探していました!

  • 他の事業所と悩んだけれど、やっぱりパパゲーノにします!

  • 遠方だけど通いたいです!

という嬉しい声もいただくことが増えてきました。実際支援現場に立っている中でも「パパゲーノだから価値提供できる方に来ていただいている」という実感があります。

当たり前のことを愚直にやっただけではありますが、1つでも参考になる部分があれば幸いです。各地域でまだ満たされていないニーズが、みなさんのマーケティングの努力で充足していくことを心より願っています。

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