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Architests / For Those That Wish to Exist

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アーキテクツは、2004年に双子の兄弟ダンとトム・サールによって結成された、イーストサセックスのブライトン出身のUKのメタルコアバンドです。デビュー当時はThe Dillinger Escape Planなどに影響された攻撃性が高く、リズムが複雑なカオティックなサウンドでしたが、だんだんメロディアスな要素を取り入れたポストハードコア、メロディックハードコア的な音像に変化。その後、メインソングライターの一人で創設メンバーでもあったトム・サールを皮膚がんとの闘病の末に喪うという悲劇に見舞われながらも活動を継続し、2021年リリースの本作では初の全英チャート1位を獲得しています。今のUKメタル界の勢い、復権を体現するバンドの一つ。

本作は9枚目のアルバムで、メディアによってメタルコア、オルタナティヴメタル、プログレッシブメタル、ポストハードコア等に分類されていますが、さまざまな音楽要素を取り入れつつもモダンなアグレッションを追求した作品と評価されている様子。評価もおおむね好意的でKerrang!が最高点(★★★★★)をつけたほか、Metacriticでも80点をマークしています。録音時期は2019年~2020年。UKメタルサウンドの最新系を聞いてみます。

活動国:UK
ジャンル:メタルコア、オルタナティヴメタル、プログレッシブメタル、ポストハードコア
活動年:2004-
リリース:2021年2月26日
メンバー:
 Dan Searle – drums, percussion, programming (2004–present)
 Sam Carter – lead vocals (2007–present)
 Alex "Ali" Dean – bass (2006–2011, 2011–present)
 Adam Christianson – rhythm guitar (2015–present)
 Josh Middleton – lead guitar (2017–present)

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総合評価 ★★★★☆

面白かった。改めて聞くときちんとUKロックの流れを汲んでいるというか、ポストブリットポップのバンド群のメロディセンス、90年代後半から00年代のUKロックバンド的なメロディセンスを持ちつつ、サウンドの攻撃性、激烈さを高める手法は流石トップレベルの技量を持っている。音の振れ幅が大きく、音そのもので感情を揺さぶる、盛り上げる手法にたけているが、惜しいのは歌メロがひねりがあまりない、UKロックの流れは組んでいるのだけれどちょっとひねくれた展開とか、ブラックユーモアみたいな感覚が少ないこと。歌メロそのものはけっこう素直で、弾き語りとかでも成り立つシンプルで良いメロディが多いのだけれど、メロディそのものの引っ掛かり、予想外の展開、要所要所に出てくる不協和音感、みたいなものが少ない気がする。13曲目とかひねくれていていい感じなのだけれど。全体として見ると単曲のキャラ立ちがやや弱いかな、という印象も受ける。とはいえ、序盤からテンション高く中盤でさらに盛り上がり、終盤まで緊張感を絶やさない流石のクオリティ。今のUKの音、メタルサウンドが良く分かる良盤。

1. "Do You Dream of Armageddon?" 1:38 ★★★☆

オーケストレーション、いや、シンセ音か。宇宙空間のような、浮遊する音。ボーカルが入ってきて、リズムも入ってくる。SF映画のオープニング的な音像。ジャケットからして教会でたたずむ宇宙飛行士だし、アルバムにはゴシック、クワイア的な音像とSF的な要素が入っているのだろうか。ジャケットのイメージを高めるいいイントロ。

2. "Black Lungs" 3:51 ★★★★

グルーヴィーなリズムパターンからグルーヴィーなリフへ。低音が強調されているモダンメタルの音作り。ハードコアなスクリームが入ってきて、メロディアスなブリッジ~コーラスへ。これはUSで売れているバンド群にも近い展開。ブレイクリンベンジャミンとか、トレモンティとか。ただ、アグレッションのパートの攻撃性は強めですね。この振れ幅、攻撃性の高いところはとにかく激烈、というのがUK的かも。ふり幅が極端。日本にもこういうバンドいましたよね。ラウドロック系というか。いかにもイマドキのモダンメタル、という趣。

3. "Giving Blood" 3:32 ★★★★

メロディアスなボーカルライン、フックがありキャッチーなメロディだが攻撃的な音像で続いてく。リンキンパーク的というか。メロコア、いや、メロディックハードコアをもっと音像をかっちりさせた感じ。ラップパートはないけれど。しかし改めて考えるとリンキンパークは発明だったんだなぁ。キッドロックもそうだけれど。途中、幽玄で浮遊するようなパートに。このあたりはゴシックメタル、90年代UKメタルのパラダイスロストとか、あのあたりからの流れも感じるな。この幽玄さはUSではなかなか出せない。ハキハキしたコーラスになるとそれほど特異性はなくなるが。

4. "Discourse Is Dead" 3:46 ★★★★

メジャーコードで解放感があるコード進行ながら音像はアグレッション強め、歌い方もスクリームが強いが、これだけスクリームしていても聞きやすく感じるというのは考えてみると凄いな。ややカオティックな、ハードコアな音像ながらシンセの音などでうまく浮遊感、空間の余白を作っていて、どこか荘厳な感じを残している。シンセの音が背景に渦巻いているのが大きいんだな。ギターではなくキーボードの音による渦ではあるがシューゲイズの手法でもある。シューゲイズ、アシッドな感覚があるのUKの流れを感じる。USでグランジに行っているとき、UKはアシッド、マッドチェスターだったからね。それがブリットポップに繋がっていく。それをさらに引き継いで、アグレッションを足したというか00年代のUSのニューメタル、リンキンパークとか、あとはその後のメタルコアの手法を取り入れたのがアーキテクツとかブリングミーザホライゾンとかの現役世代なのかな。

5. "Dead Butterflies" 4:02 ★★★★☆

壮大さが増した。大仰なイントロ。これはドラマティック。そこから浮遊感のあるパートへ。スピリチュアライズドの宇宙遊泳に入っている曲みたいな曲構造に轟音ギターが入ってくる、みたいな。これはUK的なサウンド。曲構成も緊迫感があり、リフやメロディが多層に重なりながら盛り上がっていく感覚がある。音の迫力も曲の途中でだんだんと上がってくる。しかし、こういうオーケストレーションを使って盛り上げる手法は今のUKの流行なのかな。ジャンルは違うがLittle Simzの新譜もオーケストラの使い方がうまかった。UKのオーケストレーションはやはりドイツのバンドとは違うんだよね。うーん、オーケストラというより室内楽的というべきか。あるいは映画音楽。

6. "An Ordinary Extinction" 4:07 ★★★★☆

デジタルな感じ。前の曲から歌メロの魅力が増してきたな。音の迫力が増してきた、アルバムが盛り上がってきた感じがする。静か目のヴァースからスクリームを開放するブリッジ~コーラス。ボーカルパフォーマンスの熱が伝わってくる。ちょっとボーカルミックスが大きめになった気がする。この曲はボーカルが前面に出てくる。メロディそのものはある程度ベタなのだけれど、勢いと確信をもって鳴らされるサウンドに迫力がある。次々と音も重なってくるし、勢いがあるバンドの音像、という感じ。お、勢いで押し続けて終わるのかと思っていたら途中で浮遊感あるパートへ。やや音圧が引く。押し続けるだけでなく緩急も曲内にある。まだアルバム中盤だからな。最後はかなりスクリームが強めのボーカルに。

7. "Impermanence" (featuring Winston McCall of Parkway Drive) 4:02 ★★★★★

前の曲のスクリーム強めのボーカルスタイルを引き継いでスタート。おお、初期リンキンパークのハイテンションな瞬間みたいだ。さっきから「リンキンパークみたい」と言っているが、あのテンションとか空気感が出せるバンドは少ない(本人たちですら初期にしか出せなかった)。時代を経ている分、アグレッションはこちらの方が上。機材も音響も編曲技術も向上というか蓄積があるから、その先に進んでいる。流れるようなメロディ、メロディが展開し続けてだんだんと盛り上げていく。わかりやすいフレーズ、コーラスがあるというよりブリッジからコーラスにかけて展開し続けている感じ。オーケストレーションが入ってきて空間を埋めていく。音圧が高まっていく。テンションが高い。エモ的でもある。映画音楽的なオーケストレーションを使って盛り上げるのはエモ(マイケミカルロマンスとか)が一時期多用していた印象。あれはどのあたりから来た流れなのだろう。出所は別な気がする。ゴシックなのかな。あるいはシンフォニックブラックとか、クレイドルオブフィルスだったりして。

8. "Flight Without Feathers" 3:48 ★★★★

少し一休み、浮遊感があるバラード。ややヒップホップというか、R&Bのような節回し。ビートは跳ねていないが、ちょっとポップな感じを取り入れた感じがする曲。現代を生きるバンド感がする。

9. "Little Wonder" (featuring Mike Kerr of Royal Blood) 3:47 ★★★★☆

お、デジタルなべース、Museみたいだな。ロイヤルブラッドのマイクカーがゲスト。ベースとドラムが骨格を作っている曲、という感じもするな。コーラスになると上音、シンセ音が空間を埋めに来る。歌メロのフックが強い。ああ、こういうメロディもUK的だよなぁ。ブリットポップ的かも。

10. "Animals" 4:04 ★★★★

リードトラックになっていた曲。ボーカルはやや浮遊感がある歌い方。リフはミドルテンポでマーチング的、整然と行進していくようなミドルテンポの感覚。歌メロが強調されている。アグレッションは控えめ。コーラスではそれなりにスクリームするが。聞き苦しさ(圧迫感、威圧感)、攻撃性は少なめ。ややプログメタル的な感触もある。メロコア、USっぽさもあるメロディ。そういえばリリースがメロコアの殿堂、エピタフからなんだよな。

11. "Libertine" 4:01 ★★★★

流れるようなメロディ、少し手触りが良いメロディというか、音作りもなめらかなトラック。少し浮遊感があるトラック。優美なシンセ音が響く。ビートも控えめで、アグレッションはあまりない。ただ、SEやコード進行などで緊迫感はある、ダークSFな感じの曲。

12. "Goliath" (featuring Simon Neil of Biffy Clyro) 4:17 ★★★★☆

攻撃性が戻ってきた。刻むリフ。ただ、前の曲もビートは弱かったが音圧は強かったのでテンション的にはそれほど強く緩急はついていない。ゲストボーカルでビッフィークライロのサイモンニールが参加しているよう。そういえばビッフィークライロってメタル系なのかなぁ。あまりきちんと聞いていないが来年のダウンロードUK、最終日のトリなんだよね。2日目がアイアンメイデンで3日目がビッフィークライロ、という。そういう括りのバンドなんだっけなぁ。今度聞いてみよう。

この曲はそれほど新機軸は感じない、他の曲に近いが、歌メロに対するバックトラックの装飾が豪華な感じ。後半に向けてメロディ、コーラスが多重に絡み合い盛り上がっていく。オーケストレーションも凝っている。こういう短めのフレーズを組み合わせる、ミニマルな反復手法がうまいな。ライヒとか、単純なフレーズを組み合わせていくことで和音感が生まれ、どこかキャッチーな響きになるというか、盛り上がっていく。

13. "Demi God" 4:26 ★★★★☆

やや壮大なイントロ。ほんの少しアラビックな感覚がある、砂漠っぽいシンセフレーズが入る。地上の砂漠というより火星とか? どこか近未来、SF的な、きちんと整理整頓された、テクノロジーで統制された印象がある音作りではある。これはメロコアっぽいコーラスだな。だけれど、UK的な感覚がある。ブリットポップ、マッドチェスターな感覚。Verveあたりにもセンスというか。そういえばXTCにもDear Godという曲があったな。曲そのものは全然似ていないが、XTC的なひねくれたセンスもある(ブリットポップ自体、XTC的なセンスが強い)。

14. "Meteor" 4:01 ★★★★☆

お、再び盛り上がる感じに。つかみが強いイントロ。前の曲からの緩急がついている。メロディアスかつ適度なスピード。歌メロはニューコア的な、フックが効いたイマドキな感じ。うーん、こういうのが今のUKのトレンドというか、フックのあるメロディなんだろうなぁ。UKロックっぽいメロディと言われてみたらそうか。ただ、ちょっと素直というかひねりが少ないんだよなぁ。もうちょっとひねりが効いている方が好み(1曲前はメロディにひねりが効いていた)。ただ、テンションは高くて気持ちは盛り上がる。

15. "Dying Is Absolutely Safe" (featuring Liam Kearley of Black Peaks) 4:59 ★★★★

アコースティックな音像。メロウなメロディが流れていく。悪くないメロディなのだけれど、なんというかキレイすぎるというか、もっと不協和音があってもいいのになぁ。あるいはちょっとひねったコードとか、予想外の展開とか。メロディそのものはかなり素直に、きれいに流れている。音には引っ掛かりがあるが、曲構造そのものはかなり素直。お、この曲は後半でコードチェンジというか、雰囲気が変わったな。これはブリットポップ感、中期以降のOASIS感もある。中期以降、というところが惜しいが。

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