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新しい音楽頒布会 Vol.6 Skid Row/The Gang's All Here

今週の目玉:Skid Row/The Gang's All Here

スキッドロウが完全復活! 90年代、グラムメタル・ヘアメタルムーブメントシーンから現れた最後にして最大規模の成功を収めたスキッドロウが長い雌伏の時を経てついに復活です。

スキッドロウは直訳すると「ドヤ街」で、日雇い労働者やホームレスが住み着く危険な地域のこと。「LAのスキッドロウは治安が悪い」とかそういう使い方をします。バンド名からわかるようにかなりストリート寄りの名前、コンセプトのバンド。ギタリストのデイブ”スネイク”セイボとベーシストのレイチェルボランによって1986年に結成されたバンドです。1987年には看板ボーカリストとなるセバスチャンバックが加入し、1989年のデビューアルバム「Skid Row」は全米500万枚を売るメガヒットに。80年代のメタルムーブメントの中でもトップ10に入るほどの大成功を収めます。80年代に彼らより売れたのってガンズ、モトリー、ボンジョビ、ヨーロッパ、デフレパード、ホワイトスネイク、ヴァンヘイレン、エアロぐらいじゃないですかね。デビューアルバム~2ndアルバムの勢いは凄く、ラットやドッケンより売れました。デビュー曲の「Youth Gone Wild」はシーンの代表曲の一つ。

もともとスネイクはジョンボンジョビと幼馴染で、ボンジョビのオリジナルメンバー(前身となるワイルド・ワンズのメンバーだった)ともいえるボンジョビと所縁の深いアーティスト。初期はボンジョビのバックアップがあったおかげで「ボンジョビの弟分バンド」と扱われたりもしましたが、音楽性的にはけっこう離れているというかスキッドロウの方がだいぶハードです。90年代に入ると時代の空気に合わせてスラッシーに変化。2ndアルバム「Slave To The Grind(1991)」も大成功を収めます。

ただ、ここでグランジ・オルタナティブムーブメントの波が押し寄せます。彼らって音楽性的にはけっこうハードだったのでガンズみたいに生き残ってもおかしくはなかったんですけれど、「時代遅れ」のレッテルを張られてしまったのでしょう。また、タイミングも悪かった。3rdアルバムが出たタイミングが1995年。急激にグランジ化し問題作となった3rdアルバム「Subhuman Race(1995)」はそれまでの成功がうそのようにチャートアクションは低くほとんどヒットしませんでした(日本では6位、オーストラリアでは3位とアジア圏での人気は保たれましたが)。リアルタイムの評判も悪かった記憶がありますが、このアルバムを今聞くと80年代のメタルバンドがグランジ化したアルバムの中ではかなり完成度が高い。キャリアが浅かった分、音楽的な変化許容量も多かったのでしょう。ただ、時期が悪かった。カートコバーンの死とともにグランジムーブメントが終焉に向かっていったのが1994年で、グランジムーブメントにも乗り遅れたんですよね。二重の意味で時代遅れになってしまったのでしょう。

そしてバンドは瓦解。1996年に解散します。ここまで音楽性を変化するにはレコーディング中も緊張感が高かったでしょうし、そこで商業的に失敗したことでバンド内ストレスが臨界点を超えたのでしょう。そのあと、スネイクとボランは1999年に新ボーカリストJohnny Solingerを迎えて復活し、2003年、2006年とアルバムをリリースするも完全に無風、どんどん活動規模も縮小していきます。そしてボーカリストが2015年に脱退。そのあと、もとTNTのトニーハーネルを迎えて復活を試みるも1年も持たずにトニーハーネルは脱退。そのあとは元DragonForceのボーカリストであったZP De Villiers Theartを迎えるも音源はリリースせず、ZPハートも2022年3月に脱退。常に話題性のあるボーカリストを迎えてはいるもののなかなか新曲も出さず、復活もできずにいました。

そして2022年4月、新ボーカリストとして加入したのがスウェーデンのH.E.A.T.に在籍していたErik Grönwall(エリックグロンウォール)。彼はもともとTVのオーディション番組出身で、本国スウェーデンではアイドルとしてデビューし、そのあとハードロックシーンで頭角を現したスター性のある歌手です。アイドルとしてデビューした2009年のソロデビュー作ではスウェーデンチャートで1位を取るなど人気もありました。

アイドル時代のグロンウォール

そして、年齢も若いんですよね。スネイクとボランは1964年生まれ、セバスチャンバックも1968年生まれでオリジナルメンバーはだいたい50代、アラ環なのですがグロンウォールは1987年生まれ。一気に30代です。新しい血を入れてバンドも息を吹き返したのかついにニューアルバムをリリース。2006年以来16年ぶりのアルバムとなる本作が届けられました。

グロンウォールはめちゃくちゃ歌がうまい、声のレンジも広く、デビューの頃のセバスチャンバックに劣らない超絶ボーカリストです。ルックスも一気に華が出ました。本当にスター性がある。これで復活できなければどうしようもない、という背水の陣の覚悟を感じます。このアルバムからは「オリジネイターの矜持」というか、80年代組ならではの風格と本物感を持ちつつ新世代のフレッシュな感性も感じます。アルバム全体を通してがっかりする瞬間がない。もちろん、まったく新しい音像というわけではありませんが懐古だけにとどまらない、先に進む意思を感じます。

もともと、適度にヘヴィなんですよねスキッドロウって。最近、モトリークルーの再結成ツアーが話題を集めていましたし、PANTERAも最前線に戻ってきました。80年代後半~90年代組の再評価が進んでいる中、Skid Rowももう一度そこに戻ってほしい。新ボーカリストで華麗に復活した例だとJourneyが思い浮かびますが、スキッドロウも続けるか。やっぱり1st、2ndは今聞いても名盤だと思います。本作はさすがに時代のど真ん中にいた1st、2ndに比べると緊張感やカリスマ性は劣りますが、ここから再びメインストリームに戻ってほしいなと思います。


おススメ1:Red Hot Chilli Peppers/Return of the Dream Canteen

2022年、レッチリ2枚目のアルバム。もともと2022年中にLP7枚組40曲のアルバムを出す計画もあったそうで、さすがにそれはレーベルが許諾せずアルバム2枚を時間差で出す、ということになったよう。これを聞いて思い出すのはガンズのユーズユアイリュージョンですね。正直、曲によっては退屈です。だけれど、今年リリースされた2枚のアルバムを聞くと「今のレッチリ」はよくわかる。昔のレッチリに比べればそれは老成したというか枯れたところもあり、エネルギーは減ったように感じるけれどフラットに聞いてみればベースの音圧は強いしエネルギーはある。ただ、アルバム全体を通してみるとけっこうリラックスというか、自然体な感じがします。たぶんこの「自然体な感じ」を出したいんだろうなぁ、ロックアーティストとしてはメインストリームの真ん中にいながら、巨大なビジネスとしての音源リリースという側面も持ちながら自然体の自分たちも出したい、オーバープロデュースしたくないということで「大量にできた曲を発表する」という方法をとったんだろうなぁと思います。ジョンフルシアンテが脱退前に作った2枚組「スタディアム・アーケイディアム(2006)」も同様に雑多に詰め込まれたアルバムでしたが、あちらはそうはいってもきちんとプロデュースされていたのが本作はもっと粗削りな感じ。音としてはかなり洗練されているしプロデュースもされているのだけれど、曲そのものはあまり手が加えられていない感じがします。ただ、不思議と何度も聞きたくなるアルバム。緊張感がないなぁと感じるもその分聞き疲れずまた聞こうと思う。聞いているうちに「あれ、意外と濃密だな」と気づく。かと思えば「やっぱり中盤ダレるなぁ」と思ったり。このあたりの感覚がユーズユアイリュージョンそのままですね。これだけのベテランが創作意欲が活発なのはうれしい。



おススメ2:The 1975/Being Funny in a Foreign Language

UKの誇るThe 1975のニューアルバム。サマソニにヘッドライナーとして来日して話題になっていました。なんだかColdplayの新譜にも近い、ちょっと浮遊感のあるポップな音像。今のUKロックシーンはこういうモードなんですかね。Coldplayの新譜は不評だったように思うのだけれど。本作は評論家筋の評価も高くメタクリティックで82点。意外だったのはRYM(ユーザーレビューサイトだけれどレビューがかなり辛口)で過去最高の3.4を獲得しています。今までThe1975はRYMでは軒並み2点台だったので今作が最高点。マニアからも一般層からも評価されているようです。スムーズジャズのようなトランペットが入ったり、適度にアーバンで複雑さもある。昔のStingのソロみたいな空気感もありつつきちんとポップでアリーナロック感もある面白いアルバム。ちょっと音域が全体的に高くて低温の迫力に欠けるのが個人的な音響嗜好からするとマイナスですが、評価されているのが納得できるいいアルバム。音的にはちょっと80年代リバイバル感があります。ポストパンクサウンドがUKシーンで流行っているけれど、その流れの中にある。ポストパンク、ニューウェーブの頃のシンセポップ感を取り入れている。流すと良質な時間が得られます。


おススメ3:King Gizzard & The Lizard Wizard/Laminated Denim

2週連続リリース! 先週に続いてのリリースとなったのがオーストラリアのキングギザードアンドザウィザードリザードです。本作はLPというよりはEP、ミニアルバムで2曲30分のアルバム。この2曲目が名曲。プログレ、スペースロック、サイケデリックロック、ハードロックを飲み込んだ佳曲。ジャムバンドの面目躍如。適度に反復的で、とはいえきちんと歌メロもあり70年代クラシックハードロック的な魔力的な魅力がある。個人的にドツボの曲です。今年のリリースは多作ながら大外れがないですね。ハードロック味もあるジャムロックバンドとして完成の域に達しています。この後もまだリリースラッシュが続く様子。すごい。


おススメ4:M.I.A./Mata

今週最後は久しぶりのM.I.A.。ミアことMathangi " Maya " Arulpragasamはスリランカのタミル人の両親を持つタミル人で、ロンドンで生まれたものの生後6か月で母国スリランカに帰国。そのあとスリランカ内戦によって11歳の時にふたたび難民としてイギリスに戻ります。そんな彼女の音楽はインドやタミル語圏の強烈なビートを感じさせながらもUKのサウンドという特異性のあるもの。前作「AIM(2016)」が「ラストアルバム」という話でしたが、本作はそこから6年の時を経てリリースされたニューアルバム。彼女が一番新規性があり話題になっていたのはやはり2000年代。「Arular(2005)」「Kala(2007年)」の頃だと思いますが、本作はそのころに回帰したような音像。特に新規性はありませんがタミル語圏ポップスとUKシーンの音を融合したような面白いサウンドは健在です。むしろ本作はインド音楽好きに刺さるかも。5.Energy Freqとかかなりインド。初期ほどのインパクトはありませんが、やはりほかにない独特なサウンドだと思います。


以上、今週のおススメでした。それでは良いミュージックライフを。

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