見出し画像

Omnium Gatherum / Origin

オムニアム・ギャザラムは、1996年秋に設立されたフィンランドの5ピースのメロディックデスメタルバンドです。他の多くの北欧メロデスバンドと同様に、アルバムリリースを重なるにつれてプログレッシブな要素が増えている様子。どんなバンドでもそうですが、作品を重ねるうちにマンネリを防ぐために音楽性を変化させる、新しい要素を取り入れて変化していきます。北欧エクストリームメタル、メロデスはシーン全体でだんだんとプログレッシブな方向に発展、移行してきた印象です。

本作は3年ぶり、9枚目のアルバム。前作からセンチュリーメディアに移籍し、本作がメジャー2作目のリリースです。本作のミックスダウンはスウェーデンのヘヴィ・メタル・エンジニアの第一人者として知られるJens Bogren(OPETH、SYMPHONY X、ARCH ENEMY、DARK TRANQUILLITY、BABYMETAL etc.)が担当。彼らはオリジナル・スタイル"AORDM"(=Adult Oriented Death Metal)を標榜しており、その路線を進めた作品のようです。フィンランドのバンドながら今まで知らず。以前のフィンランド特集でもノーチェックでした。今回TIDAL(ストリーミングサービス)のレコメンドに出てきたので調べたところフィンランドメロデス界では現行のトップバンドの一つのようです。確かに、PVも力を入れて作られているし本数も多い、センチュリーメディアも力を入れている感じがします。

活動国:フィンランド
ジャンル:メロディックデスメタル
活動年:1996-
リリース:2021年11月5日
メンバー:
 Markus Vanhala –リードギター (1996年–現在)
 Aapo Koivisto –キーボード、バックボーカル (2005年–現在)
 Jukka Pelkonen –リードボーカル (2006年–現在)
 MikkoKivistö–ベース (2020–現在)
 Atte Pesonen-ドラム ( 2021-現在)

総合評価 ★★★★☆

ユニークな音像を持ったバンド。暴虐なメロデスでありながら耳障りがなめらかというか、聞きやすさがある。特に前半は聞きやすい。前半はちょっと日本のゲームミュージックやアニソンを連想する音像も出てくる。後半になるにつれてだんだんアグレッションが強まっていき、6-7の流れと本編最後の9曲目では王道メロデス的な音像に。このバンドの特異性というか、単曲でのハイライトは8かな。特徴が詰まっている。面白いバンド。モダンな音作りではあるがUKのメタルコアなどとは違い、あくまで北欧、フィンランドのバンドなのでメロディはもっとクサメロでメロディアス。ものすごくどこかに振り切ったわけではないが、むしろ「どこかが破綻しない」中できちんとメロデス、エクストリームメタルをやっている、統制された激烈音楽。

1.Emergence 2:36 ★★★★

比較的穏やかなスタート、AORDMというのは伊達じゃないな。ミドルテンポ。お、ザクザクしたギターが入ってきた。ただ、どこかクールでメランコリックなキーボード音も入ってきてやや幽玄な感じがする。女神転生のサントラ的な感じも受ける音。ちょっとレトロなデジタル感というか。ギターにはディストーションがあるものの、ややフュージョン的インストともいえる爽やかなギターフレーズ。面白い音像。この曲はインストのオープニングだな。

2.Prime 5:24 ★★★★☆

キーボードのフレーズから、ややアグレッションが増したがどこか華やかさもあるリフへ。激烈に走っていかず、ちょっとした浮遊感、アーバンなポップさがあるメロディ。お、とはいえちょっとやる気を出してきた。ドラムの連打、そしてボーカル。ボーカルはグロウルスタイルだ。暴虐性を感じさせる音が増えてくるが、アンビエント感のあるギター音やキーボードなどが入りやや全体的な音像を鎮めている。コーラスでは流石に激烈性が表に出てくるが、そうした暴虐性をなんとか抑えよう、取り繕おうとしているようにも感じる。面白い音。一見静謐だが激情が内側で滾っているような感覚。表現方法は違うがEmma Ruth Rundle & Thouにもそんな感覚があったな。だんだんとメロディアスさが増してくる。ボーカルはしっかりグロウル、Amorphisにも近い感覚だがあれよりもっとスムーズな響き、スムーズジャズ、まさにアダルトオリエンテッドなサウンドトリートメントが施されている。今回、バンドからはサウンドエンジニア「デフレパートのようなビッグサウンド」を依頼したらしいが、そういわれてみたらそうかも。滑らかなサウンドプロダクション。

3.Paragon 4:13 ★★★★☆

だんだんと高まってくるリフ。ドラムの手数も多いが、控えめというか角を抑えたサウンドプロダクション。ギターの波、グロウルが入ると流石に荒々しさが出てくるが。お、音の壁のようなギター。こういうギターサウンドはシューゲイズ以降なのかな。アトモスフェリックでキラキラしたサウンド、コーラスが差し込んでくる。gojiraのAnother World的な、反復するミニマルなリフ。ああ、フランスのバンドにも近いかもな。あのあたりも独特な音響を持っている。そこにフィンランドのメロディセンスが乗っている。この曲はけっこうドラムが安定したツーバスを叩いている。一定のリズム、ジャーマン的。

4.Reckoning 5:15 ★★★★☆

なんというか、ちょっとアニソン的な感じもあるんだよな。日本のアニメ音楽は北欧メタルには影響を与えているのかも。メロディアスでドラマティックだから。最近のアニメは音楽的にも冒険している、日本のシーンの中ではアニメとゲームは職業音楽家が自由にやれて注目も浴びやすいジャンルだからね。このバンドは音像はかなり洗練というか、一部80sっぽい華やかさとか、あるいはゲームやアニメのようなポップなフック、わかりやすい大仰さがあるけれど、メインボーカルは頑なにグロウル、メロデススタイルをブラしていないのが面白いな。個性。「メロデス」というジャンルのままで拡張している。ちょっとこの曲のギターサウンドはプログメタルというかドリームシアター、ジョンペトルーシ的。

5.Fortitude 6:20 ★★★★☆

幽玄なイントロ、メロディアスで少し変わったコード進行の上をメロディアスなギターが揺蕩う。ボーカルが入ってくると景色が変わる。同じく北欧のSoenとかLeprousとかにも近い浮遊感かもな。ボーカルスタイルが完全にグロウルなだけで。ボーカルがグロウルに変わることで全体的な印象としてはだいぶ質感が変わっている。間奏などでも雰囲気は変わらず、浮遊感があるバッキングに激情感があるボーカル。多層的な世界が織り成されていく。

6.Friction 4:54 ★★★★☆

ブリッジミュートが効いたザクザクしたリフ。インテレクチュアルスラッシュ的なリフ。ややプログメタル的というべきか。ただ、変拍子感はそこまでなく、ビートは一定。メロディアスだけれどやや断片的で、ミニマルなフレーズを組み合わせたようなギターメロディが乗る。多層化されたハーモニー。クリーントーンのハーモニーとグロウルのメインボーカルが絡み合う。メロディアスなボーカルメロディはすべてハーモニーパートが担当している。比較的王道パワーメタル的な曲構成。けっこう、冒頭からぐわっと盛り上がるよりは曲の中でドラマが展開していく、じっくり聞かせて盛り上げるパターンが多く感じる。聴いているうちにじわじわ熱量が高まってくるタイプのバンド。

7.Tempest 5:59 ★★★★★

だんだん抒情性と暴虐性が増してきた。北欧メロデス感、同郷のSwallow The SunやWinterSunあたりにも近い抒情性を感じる曲。前曲といいこの曲といい、比較的王道パターンな感じ。今のモダンな北欧メロデスの佳曲。ドラマ構築力が高くサウンドプロダクションが練られているので聞きやすい。後半激走性が増してくる。アトモスフェリックブラック的な、バタバタしたドラム。そこまで激烈に叩きまくるタイプではなくかっちりした一定のリズムを叩く傾向があるが、この曲は緩急をつけて、けっこう手数多く暴れている。後半になってテンションが上がってきた。ちょっとケルティックというか、ケルト、ノルウェー、ロシアに通じるどこか哀愁があるフィンランドらしいメロディ。

8.Unity 6:20 ★★★★☆

ヘヴィでスロウだがキャッチーな感じのリフ。和音が解放感がある音で構成されている。そこにつぶれたようなグロウルボーカルが入ってくる。音響的に美醜というか、それらが対比されるのではなく溶け合って、一つの中間色のようになっているのが面白い。全体としてボーカルだけ浮いている、とかそういうことはないんだよな。全体的な音像の一体感があり、そこには浮遊感と暴虐感、洗練と土着・原始が共存している。総体としては一つ一つには尖った要素が結構入っているのに耳障りが良い。キーボードも入っているがいわゆるディスコ感、80s感はそこまで強くない。それよりはギターサウンドの滑らかさ、美しさが聞きやすさを演出している。Dark TranquillityやAmorphisも近作ではこういう質感があるが、それらに比べても洗練されているのと、メロディセンスはいわゆる「泣きのメロデス」「フィンランド臭メロ」感が色濃く残っている。単曲で言えばハイライト的な曲でこのバンドの良さが詰まっている。

9.Solemn 8:46 ★★★★★

アンビエントなイントロから激烈なリフへ。ただ、どこか悠然として壮大な感じがある。Devin Townsend的かもしれない。この曲はドラムが性急に手数多く叩いている。ただ、サウンドトリートメント、音響的な洗練であまりドラムは前面には出てこない。お、途中からツービート的な、Dimmu Borgir的なビートに。オーケストレーションは入っていないがシンフォニックブラック的な壮大さがある。ギターメロディが勇壮。テンポが速く、全体として音のテンションが高いな。これは洗練より邪悪さ、暴虐性が勝っている。音像は洗練されているものの曲構成の暴虐さがそれを突き破っている。最後8分あるが、ほぼほぼ疾走し続ける、それほどの長さを感じさせない曲。音圧や熱量的に「最後にドカンと盛り上がって終わる」感じのクライマックス。

10.Bonus Track - In Front Of Me 4:46 ★★★★☆

本編は前で終わり、ボーナストラック。イスラエルのサイケデリックトランスユニット、INFECTED MUSHROOMのカバー。加工されたボーカルと激烈性のあるリフ。むしろ、音の洗練感が減り、暴虐性、ザクザクしたモダンなヘヴィネスが強調されている。ボートラなのでミックスが多少違うのだろうか。もともと曲構成そのものは暴虐性が高い曲も多かったので、そういう感覚が前に出てくる。この曲はカバー曲だが、編曲によって結構ヘヴィなパートはアグレッションが強調されている。実験精神を感じるが、わざわざカバーするだけあってカッコいい出来。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?