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Persefone / Metanoia(2022、アンドラ公国)

プログレッシブメタルおススメ度 ★★★★☆

かなり神聖かつ荘厳なオープニングでスタートするアルバム。そこからデジタルビートが鳴り響き、だんだん加速していく。映画的なオープニングからゴリゴリのテクニカルプログメタルへ。今作はドラマティックさを増しているようだ。

Persefone(ペルセフォネ)はアンドラ公国のバンド。アンドラ公国というのはヨーロッパの小国でフランスとスペインの国境にある。中世の欧州封建国家は地方領主の連邦みたいなものだったが、そうした「地方領主」が主権を維持している珍しい例。こういう小国がいくつも欧州には残っている。ただ、今の元首はフランス大統領とスペインのウルヘル司教(司教区の長)の共同公(共同統治)であり、この両国の共同統治とも取れるが、実際にはほとんど関与せず駐在代理官なるものが実質的に首長的な役割を果たしている。人口77,000人、議会の人数は28人。小規模な地方都市、といった印象の国。

アンドラ公国

山間部にあるスキーリゾートであり、独立国ということを活かしてショッピングは免税。そのため観光立国として名を馳せている国でもある。

余談だが、アンドラ公国にはスパリゾート「カルデア」がある。なかなか面白い建物で某ゲームの「カルデア」を思わせる。

スパリゾート「カルデア」

で、アンドラ公国には「3つのメタルバンドがいる」らしい。昔読んだペルセフォネのインタビューでそんなことを言っていた。3つだったか4つだったか。。。とにかく少ないといえば少ないし、人口の割にはよくいるな、という感じかもしれない。その中ではこのペルセフォネが頭一つ抜けているというかほかのバンドは情報を知らない。スペインは独特のスパニッシュメタル、フランスも独特のフレンチメタルがあるが、音楽的にはフランスに近い耽美さを持ちつつ、スペインの直情性、土着的なメロディセンスも持っている、というのが特徴のバンドだろうか。もともとテクニカルデスメタルに分類されるバンドだが、極端にテクニカルではなく適度というか、どちらかといえば作編曲力やアルバム全体の構成で聴かせるタイプのバンド。もともとデスボイスや攻撃性だけに頼るわけではなくプログレッシブな色合いや叙情性も強く持っていたが本作はその色合いが強まっている。

出だしは比較的地味というか、このバンドの持ち味が薄まったような気もするけれど中盤、6曲目(Merkabah)に差し当る頃には切り刻むようなシュレッドリフとボーカル、リズムなどが複雑に絡み合い、重層化したような音世界が展開され、テクニカルながらどこか弾む感じもある独特の抒情性が立ち昇ってくる。この匙加減が個人的には好み。タイトルの『メルカバー』とはユダヤ教の神秘主義でエゼキエル書の第一章に書かれた『神の戦車』、『天の車』、あるいは『聖なる神の玉座』のことだそう。このバンドは神話や古代史から題材を取っている曲が多い。

即効性のある音楽と遅効性の音楽、というか、たとえば映画でもいきなり盛り上がる映画とだんだん盛り上がる映画があるけれど、これは中盤から盛り上がってくるタイプのアルバム。」前半の退屈さ」とか「平凡さ」が後半のカタルシスを産んだりもするので、常に「最初から盛り上がっているのが良い」というわけでもない。映画って映画館で見ると他のことができないといか強制的に集中させられるからある程度冒険ができる(だからTVやストリーミング向けとは違う物語の緩急のつけ方も可能)のだけれど、音楽もそういうところがあって「アルバム」というか「一定の時間」の耳を傾けてくれる、という前提で作るかどうかはだいぶ変わってくる。たとえば北インド音楽とか「即効性」ないもんね。だんだん盛り上がっていくわけで、プログというのも北インド音楽(ヒンドゥスターニー音楽)に快楽の構造としては近いところがあると思う。3分の体験、5分の体験、10分の体験、30分の体験、60分の体験は違うのだ。

今作はけっこうデジタルサウンド、無機質な音も目立つ。SF的な音というか。7曲目はデジタル、ミニマル的な世界に。Consciouness Pt.3とあるがPt1,2は入っていないので過去作からの連作かな(調べてみたら「Spiritual Migration(2013)」、2作前のアルバムに収録されているよう)。インスト曲ながらいわゆる「プログレッシブロック」のスタイルとデジタルサウンド、そしてデスメタル的なエッジのあるサウンドが絡み合う好物のインスト曲。かなりパートによってはメロディアスでプログレ色が強いバンドなんだよなぁ。この曲は名曲。11分6秒あり長さもプログレッシャー満足。

そして8-10はAnabasis Pt1-3という組曲。『アナバシス(Anabasis)』は古代ギリシアの軍人・著述家であるクセノポン(ソクラテスの弟子)の著書名で、ギリシア語で「上り」という意味。クセノポンがペルシア王の子キュロスが雇ったギリシア傭兵に参加した時の顛末を記した書物である。王位継承をめぐる兄弟の争いで、洋平として弟(キュロス)側についたクセノポンが敗戦し、流浪の年月を経てスパルタに帰り着いて再び雇用されるまでの記録である。戦史と流浪譚ですね。それを音像化しているのだろう。10000の兵が雇われたが、流浪の果てに5000にまで減ったという過酷な旅。

アナバシスで描かれたクセノポンの旅路

最後の組曲は冒頭の世界観に戻り、神聖で荘厳な雰囲気に。個人的には初回の感想としては6曲目、7曲目がクライマックスかな。独特な抒情性と攻撃性のバランスの良さ、神話や古代史をモチーフとした曲世界とそれを見事に音像化する力など一流バンドとしての佇まいが増しているけれど、ちょっと洗練されすぎて独特のアクが弱くなった気もする。でもいいアルバムだと思います。

アルバム全体はこちら。

しかし、現在ナパームレコード所属でそれなりに大規模に活動しているんですね。上でも1本紹介したが、そこそこちゃんとしたMVが複数本作られている。前作まではインディーズだったから本作からナパーム所属に。

けっこうMetallumでも過去作の評価がいいし(本作はまだ誰もレビューがない。今日リリースだし)、RYMでも過去作のアベレージ3.5越えとなかなか高評価(RYMは結構辛口なので、3.5以上はなかなか高得点)。

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