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技術の限界を超えて: Apple自動運転車プロジェクトの中止が示すもの

今週、次の記事が目に止まりました。

How Apple Sank About $1 Billion a Year Into a Car It Never Built
https://www.bloomberg.com/news/features/2024-03-06/apple-car-s-crash-design-details-tim-cook-s-indecision-failed-tesla-deal?srnd=technology-vp

Appleが「Titan」と呼ばれる自動運転車の開発を中止したという報道について、その経緯や原因を社員の匿名インタビューに基づいて書かれた記事です。

この記事を箇条書きで要約します。

  • Appleは過去10年間で自動運転車の開発に年間約10億ドルを投じたが、市場に出すことはなかった。

  • 2020年初めにアリゾナ州で「Bread Loaf」と呼ばれるミニバン型のプロトタイプをテスト。

  • プロトタイプはレベル5の完全自動運転を目指していたが、開発は現実の運転環境での課題に直面。

  • TeslaやMercedes-Benz、BMW、Volkswagen、McLaren Automotiveなどとのパートナーシップや買収を検討したが成立せず。

  • 複数のデザインと自動運転システムの試作に取り組むも、いずれも市場に出す段階には至らなかった。

  • 技術的な困難と自動車製造の厳しい経済性、方向性を決定できない経営層の失敗が原因。

  • 2024年2月27日に開発中止を社員に通告し、莫大な投資の後でプロジェクトを断念。

Appleの自動運転車プロジェクトの中止が報道され、これが莫大な利益をもたらすことが期待されていたため、このニュースが公になった後、Appleの株価は約7%下落しました。Appleの自動運転プロジェクトの中止は、複数の要因によるものです。技術的な挑戦、パートナーシップの成立不成立、そして最終的にはプロジェクト方向性に対する内部の合意形成の欠如が挙げられます。

この記事では、Appleがこの野心的なプロジェクトを中止に至った経緯と、その決断が私たちに教えてくれることについて考察します。完璧を求めるアプローチと段階的進歩の重要性、そして明確なビジョンを持つリーダーシップの役割に焦点を当てながら、技術開発の挑戦と教訓を探ります。

完璧主義を手放す: 段階的進歩の力

自動運転技術は、車両がどの程度自律して運転できるかによって、0から5までの異なるレベルに分類されます。
Appleは最初にレベル5、「完全自動運転」を目指しました。レベル5では、車両があらゆる状況下で自律的に運転を行うため、運転者が不要で、どんな環境でも自動で運転するように設計されています。当時、Appleのデザインチームは完全自動運転に対応した車両をデザインし、前面と背面を同一にし、窓を側面にのみ設けるというアプローチを取りました。これは人が運転するのに適していない設計でした。

一方、Teslaは完全自動運転を即時目指すのではなく、魅力的な電気自動車として市場に導入し、徐々にデータを収集しながら自動運転技術の向上を図っています。現在、Teslaの自動運転技術はレベル2「部分的自動運転」に位置付けられます。完全自動運転の技術的な困難と、市場でのTeslaのマーケットシェアを考慮すると、製品開発においては、初めから完璧を目指すのではなく、段階的に技術レベルを高めていくことが時には重要であることが示されます。

余談ですが、現在市場における自動運転のレベルは3で、「条件付き自動運転」に相当します。レベル3では、特定の条件下で車両が運転操作の全てを自動で行い、運転者の介入を必要としません。ただし、システムが運転者にコントロールを要求した場合、運転者は運転を引き継ぐ必要があります。自動運転レベル3を発表した企業には、ホンダやメルセデスベンツがあります。

ホンダが「自動運転レベル3」世界初となる訳
https://toyokeizai.net/articles/-/391441
メルセデスベンツの「レベル3」自動運転、米加州で初めて承認…2023年内に納車開始へ
https://response.jp/article/2023/06/13/372090.html

明確なビジョンを持つリーダーシップ: 方向性と決断の力

スティーブ・ジョブズが明確なビジョンを持つリーダーであったことは広く知られています。彼の革新的な思考と先見の明は、Appleを技術業界の先駆者に押し上げる原動力となりました。ジョブズはユーザー体験を最優先に考え、製品のデザインと機能性を綿密に統合し、市場に革命をもたらしました。彼の指導の下、AppleはiPod、iPhone、iPadといった画期的な製品を生み出し、世界中の人々の生活を変え、デジタルコンテンツの消費方法に革命を起こしました。

2011年にジョブズが亡くなって以降、Appleは彼の遺志を引き継ぎながらも、革新的な製品開発において挑戦に直面しています。確かに、Appleはジョブズの時代から引き続き技術者向け会議WWDCや新製品発表会で製品のアップデートを発表しています。しかし、これまでに見たことのない全く新しい製品の発表が少ないことから、一部ではジョブズのような革新的なリーダーシップの欠如が原因ではないかと考えられています。

Apple’s 10 Biggest Challenges, From AI to China
https://www.bloomberg.com/news/articles/2024-03-06/apple-s-10-biggest-challenges-from-ai-to-china-quicktake?srnd=technology-vp

ティム・クック、現在のAppleのCEOは、意思決定プロセスにおいてコンセンサス形成を重視しています。この手法は、企業の重要な決定の際に時々フラストレーションを生むことがあります。特に自動運転車プロジェクトのケースでは、プロジェクトリーダーが頻繁に交代し、自動運転技術の目標レベルの調整や研究開発の方向性の見直しに苦労しました。これらの挑戦は、最終的に10年以上にわたる努力の後、プロジェクトの中止という形で結実しました。この事例から、前例のない革新的なプロジェクトを市場に導入する過程において、明確なビジョンを持つリーダーシップの価値が浮き彫りになります。

まとめ

Appleの自動運転車プロジェクト「Titan」の中止は、技術開発の道のりが直線的ではなく、予期せぬ挑戦と複雑な決断が伴うことを我々に教えてくれます。このプロジェクトから得られる教訓は多岐に渡りますが、最も重要なのは、技術の最前線で成功を収めるためには、完璧主義を手放し、段階的な進歩を受け入れる柔軟性が必要であること、そして明確なビジョンと決断力を持ったリーダーシップが不可欠であることです。


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