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川遊びでのリスク②~死に至る事故とレスキュー方法を知る〜

今回は、前回に引き続き、川遊びでのリスクについて、より詳しくお伝えできればと思います。

前回も書きましたが、川には「水」があります。水があるということは息ができない=「溺死」と、水が冷たい=「低体温症」の2つの大きなリスクがあります。

溺死は当然ですが、重度の低体温症も命に関わります。

川で遭難した場合、低体温症なら1時間で死亡、溺れて息ができなければ1分で死亡と言われています。

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低体温症の危険

ハイポサミア(低体温症)とは
ハイポサミアとは、人体から体温が奪われることによって、次第に身体の各所に悪影響が現れることをいいます。重症に至ると、治療が極めて困難になり、生死にかかわってきます。
川などの水中では、流れがあることにより熱の損失が大きく、たとえ20℃以上の水温でも、ハイポサミアは発生します。

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ハイポサミアの段階
初期
寒気、鳥肌、身体の震え、手足のしびれ
中期
震えが止まらない、会話が困難、思考がもうろう、全身運動ができない、意気消沈した態度
重症
震えが止まる、皮膚はむくれ青白く、歩行困難、混乱、異常な行動、筋肉硬直、意識もうろう、感覚麻痺、意識不明、心肺機能不全、死亡

ハイポサミアの対処
初期~中期
乾いた衣服に着替えさせる。
温かい場所に移動する。
可能なら運動させる。
飲み物を飲ませる。(アルコール、カフェインは危険)
温まった人間を一緒に寝袋に入るなど。

重症の状態に至った被害者の対処については、非常に難しく対処法を熟知した人が実行する以外はかえって危険になります。原則として、病院への搬送を試み、救急隊員の指示に従ってください


ウェットスーツの重要性

低体温症を防ぐという意味でのウェアは、ウェットスーツが最適だと思われます。その理由について、以下で説明します。

水中での熱の伝導率は、空気中の25倍。
例えば、20℃の空気中に裸でいるのと、20℃の水中に裸でいるのでは、水中の方が25倍の早さで体温が奪われていく、ということです。

そんな水中で、低体温症を防ぐためには、水に体温を奪われないようにするため、水の冷たさをできる限り身体に伝えないようにしたいわけです。

その点、ウェットスーツの素材であるネオプレン(合成ゴム)は熱を遮断するという特徴があります。なので、水の冷たさが身体に伝わることを防いでくれます。

そしてもう一つ、ウェットスーツの機能で重要なことは、一旦水に入るとぬるま湯に浸かっているのと同じ状態になり、保温状態が保てるということです。

どういうことかというと、ウェットスーツを着用するとゴム素材が、身体に密着します。※身体に合ったウェットスーツを着ていることが前提。

その状態で、水に入ることにより、身体とウェットスーツのわずかな隙間に水が入り込む(毛細管現象がおこる)ことにより、薄い水の膜が内側に張られることになる。

これにより、ウェットスーツ内部は密閉状態になる。ウェットスーツと身体の間には空気がなくなり、冷たい水が入らなくなります。

毛細管現象でウェットスーツ内部に染み入った水分は自身の体温で温められる。そして、ゴムの特性である断熱効果により水中の冷たさは内側には伝わらない

これが低体温症を防ぐという意味での、ウェットスーツの最大の利点です。


溺死につながる危険な水理現象

カッパ伝説の正体
昔から、川遊びしていた子どもが水中に引きずり込まれて、浮いてこなかった…という水難事故があった際、”カッパの仕業だ”と言われることがあります。

そんなカッパ伝説ですが、川には「ダウンフォース」と呼ばれる川底に向かう流れが起きる場所があり、水面から見てもわからないような流れが形成されていることがあります。

”カッパがよく出る”といわれる川は、ダウンフォースが形成されている箇所がある、という説明ができると思います。

ダウンフォースが形成されるエディライン
流れが速い川の真ん中に、大きな岩があるところを想像してみてください。

川の真ん中に岩があると、水の流れは岩にぶつかり、岩の両側に流れようとするのはわかりますよね。岩の両側に流れた水は、岩が無いところより流速は早く流量も多くなっています。
その岩の際(きわ)のところと、岩の裏側だけ、他の箇所とは違った流れが生み出されます。

岩の際の流れをエディラインといい、岩の裏の流れ(淀み)をエディといいます。

エディライン(岩の際)は、ダウンフォースが形成されます。
エディ(岩の裏)は、上流に向かう流れが形成され、渦のようになっています。

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ここに、人がライフジャケット着用せずに入ってしまうと、ダウンフォースで川底に沈められ浮上してきたとしても、エディの渦で戻されて、ダウンフォースで川底に沈められる。という無限ループになってしまう。

ライフジャケットを着用していれば、浮上のタイミングで、頭が水上に出てくる可能性が高まるので、外から見えるかもしれません。

ですが、ライフジャケットを着用していないと、水面まで浮上できないままダウンフォースと、エディの無限ループにはまり、誰にも発見してもらえない可能性があります。

これが、カッパ伝説の正体と言えます。


人が出れなくなるホール(循環流)

こちらも、ダウンフォース同様、溺死の危険性がある水理現象ですが、ホールについては前回記事内に「【川の危険予知⑤】人工物|堰堤」の章で書いていますので、ご確認いただければと思います。

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レスキュー方法の優先順位

最後に、大事な人が川に取り残されてしまったら、私たちは何をすればよいのか、について書いておきたいと思います。

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前章で書いたような危険な水理現象、危険なダウンフォースや、ホールなどにより人が捕捉されてしまった場合、基本的に泳いで助けに行くことはありません。そんなことをすれば、助けにいった側も、危険な状態になることは言うまでもありません。

では、どうすればよいのか。ここからはとても重要な、レスキュー方法の優先順位を紹介したいと思います。

レスキュー方法の優先順位

①Rearch(差し伸べる)
パイプ、長い棒、釣り竿、パドルなどを、救助する側が安全な場所から差し伸べ、要救助者が掴んだことを確認して引き寄せる。

②Throw(投げる)
ロープを投げる。川の救助用ロープがあればベスト。これも、救助する側が安全を確保できる場所から、ロープを投げる。ロープは要救助者に絡まる危険性があるため、少しリスクが上がる。

③Row(漕ぐ、ボート使用)
ボートなどで漕いで、要救助者までアクセスする。この時点で救助する側にスキルが必要になってくる。ボートとは言え、救助側が川に入ることになるので、危険度は各段に高まる。

④Go&Tow(泳いで行く、歩いていく、引いてかえる)※一般の方厳禁
ボートなどが無い場合や、ボートがあっても無理な場合、最終手段として人が川に直接入り、助けに行くという方法がありますが、これは、トレーニングされた救急隊員やラフティングガイドだとしても、かなり危険ですので、一般の方は絶対に行ってはなりません

おわかりかと思いますが、救助スキルがなく専門家でもない私たちができることは、①Rearch(差し伸べる)もしくは②Throw(投げる)のみとなります。
川でのレスキューにおいては、①もしくは②までで完結させないと、救助する側の安全は確保できません

トレーニングされたラフティングガイドでさえ、救助する側が川に入らない方法で安全にレスキューすることを、第一に考えます。

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上記の資料内では、僕が紹介した①Rearch(差し伸べる)以前に、声をかける浮くものを投げるとあります。

これは、要救助者が自分で泳げる、もしくは、浮くものに捕まるなどの行為をできる年齢であったり状態であれば、是非行ってください。状況に応じて適切な方法を選択していればいいと思います。

原則として、救助する側の危険度が低い順から、順番に行っていくべきだと考えてください。


まとめ

レスキューの項目でお伝えしたように、事故に遭ってしまったら、自分の安全を確保しつつ、助ける方法は限られています。

一番大事なのは、事故に遭わないようにすること。そのために、ライフジャケットを着用して、危険なところには近寄らないことです。ライフジャケットを着用しているだけで、命が助かる確率は上がります。

もし、子どもを遊ばせて、親は川に入らないとしても、いつでも救助体制を取れるように、親もライフジャケットを着用し、可能ならレスキュー用のロープを携帯しておいてください。

そして、親は、遊んでいる子どもより下流にいること。もし子どもが流された際、親が上流にいては、ロープを投げることもできません。

そして、万が一、事故に遭遇したら、自分の安全を確保した上で、できる限りのことをする。繰り返しますが、”川に入らずにどうやったら助けることができるか”を考えていただければと思います。

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以上です。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

少しでも、これからの皆様の川遊びの際の参考になれば幸いです。

(表紙写真:Yuya Nojiri、文中の写真:全て河川財団「No More 水難事故2020」より引用)

より詳しく知りたい方は、以下をご覧ください。わかりやすく、とてもよくまとまっています。河川財団「No More 水難事故2020」


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