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Derek Bailey - Carpal Tunnel

2005年、本作はいわゆる遺作ということになる。カバーアートとアルバムタイトルから手首の神経の病の中での記録であることが分かる。楽器を操る上では非常に厳しい症状と言わざるを得ない。本作は楽器を使う事と同時に非音楽的なアプローチである事にこだわり続けたデレクベイリーの生涯そのものと言える強い精神性と思念が凝縮されたドキュメンタリーだ。

冒頭、Explanation & Thanksで、デレクベイリーらしい冷徹な姿勢のままその症状が語られる。ソロアルバムとしては久しぶりの作品になるがその事の意味がここに集約されている。従って冒頭からこのアルバムに込められた意味が全て込められている。その後、楽曲はある時期からの経過時間に合わせたタイトルが付されたトラックが続く。どうしても症状を想像しながら聴いてしまう。そのため、一進一退しつつも徐々に弾けなくなっていく様が浮かんでくる。同時にこの人の求道的な強さを感じざるを得ない。

After 5 Weeksは、弾き始めのさまざまな音の質感がこの人のこれまでの信念をもった活動の全てを集約しているようにも思える。鳴らされる音のリズムとパッセージからコンディションの落ち着きを感じる。非音楽的なノンイデオムにこだわり続ける事でむしろヒューマニティ溢れる表現になっているところがとても素晴らしい。4分半あたり以降、時折でギターの鳴りが少し変わる。元々エフェクターが接続されていたのだろう、フットペダルで切り替えたり戻したりしているのかもしれない。

After 12 Weeksは、残響フィードバックが多い。静寂を含めてやれることを全て試す覚醒した様子が窺える一方で、分かりやすさや優しさのような響きもある。これはとても不思議なことだ。

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