音彌

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音彌

小説を中心に、ときどきエッセイや書評、神社巡りの紀行文などを投稿しています。ツイッター https://twitter.com/otoya2019

マガジン

  • 皐月物語

    小学六年生の男の子、藤城皐月くんの恋愛物語。

  • 神社仏閣探訪

    神社や仏閣へ訪れた時に思ったことや、訪れた後に調べたことなどを書いています。

  • 執筆日記

    小説を書くにあたって考えたことを書き留めていこうと思っています。

  • 皐月物語 サイドストーリー

    小学生小説『皐月物語』のサイドストーリー。 主人公の藤城皐月以外の登場人物視点の物語や、本編の掘り下げ的な話をまとめてあります。

最近の記事

修学旅行前夜(皐月物語 128)

 藤城皐月と江嶋華鈴は二人だけの最後の修学旅行実行委員会を終え、4・5年生たちが授業を受けている静かな学校を出た。華鈴と一緒に下校するのはこれが最後になるのかもしれない。そう思うと皐月は明日の修学旅行がいつまでも来なければいいのにと、幼いことを考えた。  校門を出て左に曲がり、しばらく細い路地を歩いていると、華鈴に袖を引っ張られた。 「一緒に帰ろうって言ったのに、何も話さないんだね」  修学旅行が終われば華鈴と会う理由がなくなってしまう。皐月はそんなことを考えていたら寂しくな

    • 漣(皐月物語 127)

       藤城皐月は二日続けて学校帰りに明日美の家に通った。前の日はただ明日美に甘えるだけで家に帰ってしまったが、この日は二人でベッドで横になりながら小説を読んで過ごした。  皐月は太宰治の『人間失格』を読んでいた。再読だった。後ろの席の文学少女、吉口千由紀に「葉蔵みたいだね」と言われたことがずっと気になっていた。皐月は自分のどこがの主人公の大庭葉蔵と重なるのかを探ろうと、もう一度『人間失格』を読み返してみようと思った。 「高校では国語の授業で漱石を勉強するんだよね」  明日美は夏目

      • この涙はそんな美しいものではない(皐月物語 126)

         月曜日の朝、藤城皐月はいつもより遅く目を覚ました。通学服に着替えていると、洗面所からドライヤーの音が聞こえてきた。及川祐希の高校へ行く前のルーティーンだ。今週は皐月には修学旅行があり、祐希には文化祭がある。このビッグイベントを気分よく迎えたいので、昨夜のモヤモヤした気持ちを早めに解消しておこうと思い、皐月は祐希に絡みに行った。 「おはよう」 「おはよう。今朝は4人で食事みたいだよ。さっき小百合さんが台所に入って行った」  屈託のない祐希を見て、皐月は少し気が楽になった。制服

        • 救済の女神(皐月物語 125)

           夜も8時を過ぎると、豊川稲荷表参道の店のほとんどがシャッターを下ろしていた。満の駆るホンダ・ビートは人気のない道をゆっくりと走り、藤城皐月を小百合寮まで連れ帰った。玄関に行燈看板がぼんやりと灯っていた。 「百合姐さんに挨拶しておかないとね」  ヘッドライトを消してエンジンを切ると、車の中の二人は夜の静けさに包まれた。皐月が助手席から降りると、満も皐月に続いた。行燈の淡い光に照らされた満は一分の隙もないホステスの顔に変わっていた。 「ただいま~」  玄関の戸を開けると、楽器置

        修学旅行前夜(皐月物語 128)

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        記事

          若宮八幡社(名古屋総鎮守)

           春の陽気に誘われて、半袖に着替えて桜を見に行った。今年は名古屋市中区にある若宮八幡社という神社に行ってきた。  若宮八幡社は名古屋総鎮守ということで、名古屋市民の総氏神になる。名古屋と言えば熱田神宮が有名だが、熱田神宮と若宮八幡社は役割が違うようだ。  若宮八幡社は文武天皇の時代に創建された。大宝律令(701年)が完成した頃にできたらしい。  この神社は元の場所が現在と違い、那古野庄今市場といって、現在の名古屋城内にあった。名古屋城を築城する時に現在の地に移されたという。

          若宮八幡社(名古屋総鎮守)

          修学旅行ごっこ 7 東寺

           このコラムは小説『皐月物語』の中で修学旅行に行く小学生が立てた京都観光のプランを、著者が実際に行ってみて検証したものである。  今回は東寺を見て名古屋へ戻るまでを記していこうと思う。  まずは『皐月物語』の中で藤城皐月たちが作ったスケジュールの確認から。  実際に僕が僕の行程記録は次の通り。  今までに何度も京都旅行をしているが、東寺は行ったことがなかった。洛南方面だと伏見稲荷大社や平等院などは何度も行っていたが、東寺となると微妙にラインがずれているので、つい行かずに

          修学旅行ごっこ 7 東寺

          二人の秘密(皐月物語 124)

           満の運転するホンダ・ビートは大津通を進み、大須商店街の万松寺駐車場ビルに入ろうとしていた。駐車の順番待ちで MegaKebab の前で停まっていると、歩道を歩く人々が時折こちらを見てきた。だが藤城皐月には見世物になっているという感覚はなかった。目立ってもおかしくない自分たちに好奇の目を向けてこない無関心さが皐月には心地よかった。これが都会なのかと、皐月はすっかりこの街を気に入った。  時間は11時を少し回っていた。満は滑らかにビートを操り、立体駐車場のスロープをぐるぐると回

          二人の秘密(皐月物語 124)

          修学旅行ごっこ 6 伏見稲荷大社と伏見神宝神社

           このコラムは小説『皐月物語』の中で修学旅行に行く小学生が立てた京都観光のプランを、著者が実際に行ってみて検証したものである。  今回は伏見稲荷大社への到着から千本鳥居をくぐって伏見神宝神社へ行くまでを記していこうと思う。  まずは『皐月物語』の中で藤城皐月たちが作ったスケジュールの確認から。  実際に僕が歩いた時の記録は次の通り。  皐月たちの計画では龍谷大前深草駅で降りる予定だったが、僕は一つ手前の伏見稲荷駅で降りた。  伏見稲荷大社駅からは裏参道を歩いて行くと、伏

          修学旅行ごっこ 6 伏見稲荷大社と伏見神宝神社

          刺激的な新しい世界(皐月物語 123)

           いつもは夕食の時間の6時ギリギリに帰ってくる藤城皐月だが、この日は時間を余らせて早めに帰ってきた。玄関には一緒に住む及川祐希の外出用の可愛いスニーカーが出ていた。祐希は母の頼子が家にいる時は門限を守るようにしているので、祐希はすでに帰宅しているようだ。  皐月は買ってきた修学旅行に履いていく靴を箱から出して、下駄箱に入れた。家に上がると真っ先に台所にいる頼子のところへ行った。 「ただいま」 「おかえり。皐月ちゃん」 「美味しそうな匂いがするね。今まで家で食べたことのない料理

          刺激的な新しい世界(皐月物語 123)

          1話あたりの文字数が増えている

           最近、『皐月物語』の1話あたりの文字数が増えている。  直近10話の移動平均を出すと8421文字。連載を始めた時の最初の10話の移動平均が4773文字だったことを考えると物凄い増え方だ。  面白いから10話移動平均と50話移動平均のグラフを描いてみた。相場のチャート分析みたいだな。  1話あたりの文字数は何文字が読みやすくて最適なのだろうか? 2000文字くらいなら楽に読めるのかな? 500文字くらいなら隙間時間にサクサクと読めるのかな?  投稿サイトなら少ない文字数で

          1話あたりの文字数が増えている

          修学旅行ごっこ 5 下鴨神社と鴨川デルタ

           このコラムは小説『皐月物語』の中で修学旅行に行く小学生が立てた京都観光のプランを、著者が実際に行ってみて検証したものである。  今回は賀茂御祖神社(下鴨神社)への到着から鴨川デルタでお昼ごはんを食べ、出町柳駅へ戻るまでを記していこうと思う。  まずは『皐月物語』の中で藤城皐月たちが作ったスケジュールの確認から。  実際に僕が歩いた時の記録は次の通り。想定時刻より15分ほど前倒しとなった。  今回の旅だと昼食の時間が早くなりそうだったので、下鴨神社と鴨川デルタの順序を入

          修学旅行ごっこ 5 下鴨神社と鴨川デルタ

          消えそうな恋心(皐月物語 122)

           土曜日の朝、藤城皐月はいつもより少し遅い7時の起床だった。部屋着のまま洗面所に行くと、及川祐希が大きな鏡の前で髪を整えていた。 「おはよう、祐希。今日は学校休みなのに早いじゃん」  祐希はすでに着替え終えていた。今日は制服ではなく、私服を着ていた。アイボリーのマウンテンパーカーを羽織り、デニムのスキニーを合わせていて、すっかり秋の装いだ。 「おはよう。お母さん、まだ寝てるよ。皐月は朝ご飯どうする?」 「頼子さんが寝てるなら、パピヨンでモーニングかな。祐希も一緒に行く?」 「

          消えそうな恋心(皐月物語 122)

          修学旅行ごっこ 4 八坂神社から祇園まで

           このコラムは小説『皐月物語』の中で修学旅行に行く小学生が立てた京都観光のプランを、著者が実際に行ってみて検証したものである。  今回は最初の訪問地の八坂神社への到着から祇園を経て、次の訪問地の賀茂御祖神社(下鴨神社)へ至る祇園四条駅までを記していこうと思う。  まずは『皐月物語』の中で藤城皐月たちが作ったスケジュールの確認から。  実際に僕が歩いた時の記録は次の通り。想定時刻より20分ほど前倒しとなった。  まずは八坂神社から。  八坂神社は個人的に思い入れのある神

          修学旅行ごっこ 4 八坂神社から祇園まで

          破戒無慙ぎりぎり(皐月物語 121)

           児童会室を出た藤城皐月は6年4組の教室に戻る前に3組に立ち寄った。修学旅行実行委員の田中優史を訪ねたが、校庭に遊びに出ていたようなので、教室にいた中澤花桜里を呼び出した。 「どうしたの? 藤城君」 「バスレクのことでちょっと伝えておきたいことがあるんだ」  皐月は児童会室で副委員長の江嶋華鈴と話したことを花桜里に伝えた。花桜里によると、3組がバスレクをなしにしてバスの車内で音楽を流すことにするという話が進んでいるようだ。だが、花桜里も優史も著作権法のことは何も気にしていなか

          破戒無慙ぎりぎり(皐月物語 121)

          修学旅行ごっこ 3 清水寺から八坂神社

           このコラムは小説『皐月物語』の中で修学旅行に行く小学生が立てた京都観光のプランを、著者が実際に行ってみて検証したものである。  今回は最初の訪問地の清水寺への到着から、次の訪問地の八坂神社を出発するまでを記していこうと思う。  まずは『皐月物語』の中で藤城皐月たちが作ったスケジュールの確認から。  実際に僕が歩いた時の記録は次の通り。想定時間とだいぶズレがあった。  清水寺境内の行動の検証をしてみる。  皐月たちグループは清水寺での所要時間を1時間と見積もっていたが、

          修学旅行ごっこ 3 清水寺から八坂神社

          こんな言葉を聞く日が来るとは思わなかった (皐月物語 120)

           学校の帰り道、藤城皐月は通学路を逸れて豊川稲荷へ寄り道して、一人で境内を歩いていた。平日の奥の院は人がいなくて静かだ。皐月はついさっきまで自己嫌悪に苦しんでいたが、人気のない奥の院を歩いているうちに心が整ってきた。  皐月は人と一緒にいる時は頭がよく回る。だが情報を片端から捌いているうちに考えが浅くなりがちになってしまう。だからこうして一人で静かな所で思索に耽っていると、頭の中の霧が晴れるような感覚になる。  皐月は今日一日楽しく過ごしていたのに、帰りには気持ちが沈んでし

          こんな言葉を聞く日が来るとは思わなかった (皐月物語 120)