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ディズニーランドとジャック・ケルアック-5/5

●抜け落ちた個人史

 オーランドのケルアック・ハウスが顧みられなかったのは、ケルアックのイメージがフロリダと結びつかなかったのが一因だろう。繰り返しになるが、三度に渡る「路上」の旅で、彼はフロリダに立ち寄っていない。

 かといってビートニクスの中心地だったサンフランシスコやニューヨークにも長い間住んでいたわけではない。

 マサチューセッツ州ローウェルの生家に言及する研究者は多い。活気はないものの、調和に満ちた地方の工業都市ローウェルは、つねにケルアックの拠り所であった。この町はケルアック本人が複数の作品で回想していることからも、大きな存在としていつも心にあったものと考えて間違いない。

 しかしその一方で、この伝説的な作家はことある毎にフロリダにやってくるのである。姉夫婦の存在のみならず、フロリダにはケルアックを引き留めるようななにかがあったに違いない。しかし他人にはそれが分からなかったのだろう。だからこそ、フロリダと作家の蜜月は容易に忘れ去られたのだ。

 最後にモニカ・ウェンデルがこの家で書き上げた詩を紹介して、本稿を締めくくろう。

誕生日の詩

誰も知らないこと。1950年代の主婦が私の中にいて
アンフェタミンを愛用してる。あなたも好き?
ビリビリ? うざったい鼻水? そんな感じ?
濃い口紅を部屋で見つけて塗った
ケルアックの亡霊に会ったときにね。彼は私が
傷ついているようだ、と言った。お腹を出して、べとべとした肌。分かるでしょう、
私は思った。多数決しましょう。すぐに決めましょう
彼は腕を翼のように拡げる。まず羽が、
翔ぶという思いより先に。もし
眠りに落ちたとしても、きっと目覚めてしまったでしょう。私は目を覚ましたわ、クリス
そうして私たちは彼の絵を見たの。海草のような縞模様
クラゲ。あごの痛み。絵の中では
何も変わらない たとえ何度
絵を見ても 展示壁に手を伸ばし
キャンバスの向きを変え、もう一度離れて眺めない限りは。ケルアックの言葉
今日は僕の誕生日、でも誰も覚えていないんだ
クリスはまた眠りに落ちた。私は二人の間で横になる
私はずっと彼の寝息を聴いていた。二日が過ぎ
安眠が訪れると、クリスが言ったわ 私の身体のなかで
電流が走るのを感じたよ、ただそこに横たわっていただけなのにね、と
あの時間は過ぎ去っていったの 彼が立てる寝息と
ケルアックの声、私自身の歯ぎしりを
耳にしているうちに。レースのカーテンがひとりでにちぎれ
元のままに縫い合わさっていく 何度も 何度も 何度も 

(詩の翻訳協力:古川喬士 増山士郎)

*註 クリスはモニカのボーイフレンド

#ケルアック #旅 #ビートニクス #文学 #ノンフィクション


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