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ニューメキシコの D ・H・ロレンス

昨年の後半から日本国内のライター・イン・レジデンスを巡る状況に変化の兆しが現れている。

その皮切りとなったのは、万城目学が城崎温泉に招かれて執筆した『城崎裁判』である。

「温泉街での逗留執筆」というひじょうに日本らしいやり方で、当代きっての人気作家がレジデンスした訳だ。

さらに今年に入って開催された「おおいたトイレンナーレ2015」の基軸となる作品、小野正嗣の「再訪のとき」もレジデンスに関連づけて考えることが出来るだろう。

この状況は20世紀初頭のアメリカの状況に似ているかも知れない。

ちょうど先日、地元図書館で『ニューメキシコの D ・H・ロレンス』(アーサー・J ・バックラック・著 彩流社 2014年)を発見し、読みはじめたところだ。

この本は1922年から半年づつ、三度にわたって、『チャタレイ夫人の恋人』で知られる英国人小説家、D ・H・ロレンスがニューメキシコ州のタオスにレジデンスしたときのことをまとめた研究書である。

これまで(翻訳本も含めて)日本語で書かれたライター・イン・レジデンスの本はなかったと思われるため、(誰も注目してはいないと思うが)画期的な一冊と言える。

原著はかなり薄いらしく、ページ数を稼ぐためか、訳書の後半は訳者による詳細な解説が附されている。

1920年代といえば、全米最古のレジデンス施設「マクダウェル・コロニー」(1908年設立)が既に立ち上がってはいたものの、現代的な意味でのレジデンス・プログラムが登場する半世紀前だ。この時代のレジデンスの様子を教えてくれる本はじつに貴重である。

まだ半分程度しか読んでいないのだが、レジデンス中のロレンスはじつに嫌な奴で、タオスに招いてくれた資産家をモデルにしてネイティブアメリカンによる白人の生け贄の儀式の話を書いたり、モデルにした友人・知人を不愉快にさせるような小説をいくつも書いてひんしゅくを買っていたらしい。

この本に関して残念なのは、ロレンスがタオスに来て作品を書き始めた時期がいつなのか、書いていないことだ。個人的には知らない土地を舞台にした作品を描くには1年は必要だと考えているのだが、ロレンスは短編ばかりを書く、という方法で「一年の壁」を突破しているようだ。しかしタオスに着いてから最初の作品を描くまでに何ヶ月(あるいは何週間)要したのか書かれていないのは、残念だ。

今までは「レジデンス」をキーワードにして、ライター・イン・レジデンスのリサーチをしていた。

しかし、もしかしたら「特定の作家の研究書」というカテゴリーを探せば、レジデンス中の作家の行状を分析した本が、結構あるのかも知れない。

#ライター・イン・レジデンス #D・H・ロレンス #ニューメキシコ #タオス

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