vol.24 会計士とフリーランス社会
はじめに
私は2023年10月から独立し、ノマド会計士として特に場所を定めず仕事をしています。実際に色々なところに行き、さまざまな方に会ってきました。
お会いする方々と「お仕事は何をされていますか?」という質問を交わすことも多いのですが、「フリーランス」という表現を聞くことがあり、この言葉を何度も聞く中で、私自身はどのように回答するのが適切なのかを考えさせられました。
以前は所属していた会社や組織の名前を伝えればよかったのが、果たして今の自分は自営業なのか、個人事業主なのか、あるいはフリーランスなのか、時代の変化と共に分からなくなってきました。
そこで今回はフリーランスとは何なのか、その中での士業の位置付けを整理し、フリーランスの現況や今後、及びそのリスク管理に関し整理してみたいと思います。
1 フリーランスの定義
内閣官房、公正取引委員会、中小企業庁、厚生労働省の連名で策定された「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」(2021年3月26日)では、フリーランスを以下のように定義しています。
フリーランスという言葉は、中世イタリアやフランスの傭兵部隊からきていると言われています。報酬に納得ができれば、どの君主の旗の下でも戦う騎士のことを「free・lance (自由な槍)」と呼び、そこから派生して、会社に属さずに仕事を請け負う人をフリーランスと呼ぶようになりました。
2 自営業、個人事業主、フリーター等との違い
一方で従来から自営業、個人事業主、およびフリーターといった言葉があります。さらには最近であれば副業を行う方も増えてきました。以下これらとフリーランスとの違いを整理してみます。
自営業
独立して自分の事業を営み、収入や利益を獲得する働き方のこと
個人事業主
税法上の区分であり、法人化せずに個人として税務署に開業届を出している人のこと
法人経営者
個人ではなく株式会社や合同会社等、法人という組織を通じ事業を営む人のこと
フリーター
アルバイトやパートタイムで収入を得る人のこと
副業
本業とは別に収入を得ている仕事や労働のこと
フリーランスとの関係を図にまとめると以下のようになります。
3 フリーランスの仕事内容
以下は2023年9月に公正取引委員会、厚生労働省の共同で行われたフリーランスの業務及び就業環境に関する実態調査で示された回答者の属性ですが、実に多岐に渡っていることが分かると思います。
士業の方は「調査、研究、コンサルティング」や「税務・法務等行政専門サービス」に含まれ、私のような独立開業会計士の多くもこの中に位置付けられるものと考えます (もちろん士業の方々の中には幅広く色々なことをやっている人がいます)。
その他、私もノマド生活の中で色々な方に会ってきましたが、以下の職種の方は特に多いと感じます 。なお私の方で、回答者の属性をベースに大きく三つに分類しています。
デザイン系
デザイン制作、コンテンツ制作
カメラマン
映像・画像・音楽制作、編集
アニメーター、イラストレーター
IT系
ウェブサイトの作成・管理
情報検索、計算処理
プログラミング作業
アプリやシステムの設計、ソフトウェア開発、SE
ライティング系
ネーミングコピーライター
ライティング、記事等執筆業務
これらフリーランスの仕事内容はテクノロジーの進化や社会認識の変化と共に今後まだまだ広がっていくものと予想されます。
4 フリーランスの現況
日本のフリーランス人口に関する統計を検索すると、実に様々なものが出てきます。まだまだ正確な姿を捕捉するには時間がかかりそうです。
一方で以下の図は政府の統計データ (2017年) に作成されたものですが、我が国の労働人口構成がよくまとまっていると思います。
ここで「自営業者で雇人なし」をフリーランスをとみなせば2017年時点でフリーランスの数は400万人 (就業者の6.1%)ということになります。
最新の統計データ (2023年) を見ると、就業者数6,754万人に対しフリーランス(自営業者で雇人なし)の数は386万人 (就業者数の5.7%)となっており、フリーランス人口は若干減っているように見えます。
2019年末に発生した新型コロナウイルスの影響で、一部のフリーランスが廃業に追い込まれたことが背景にあるのかもしれません。
5 フリーランスの今後
フリーランスでは今後我が国でどうなっていくのでしょうか? 2023年時点で微減しているものの、今後は増加していくのではないかと考えます。
以下その背景を述べます。
(1) 米国の統計
フリーランス先進国といわれる米国では2023年にフリーランス人口が64百万人 (就業者数の38%)までに至っています。
米国でのフリーランス割合が4割近いことを鑑みると (日本は現状5-6%程度)、今後まだまだ日本のフリーランス人口のびしろはありそうです。
(2) インフラの進化
特にデジタルツールの普及がその背景にあります。Office365やGoogle Workspaceのようなビジネスアプリケーション、ビジネスマッチングサイト、SNS等を利用したネットワーキングが、場所を選ばずに仕事をすることを可能にしています。
また、全国各地で利用可能なコワーキングスペースも増えており、このようなハード面でのサポートもフリーランスの増加に寄与するでしょう。
個人的にはApple Vision Proの提唱する空間コンピューティングがフリーランスやノマドワーカーにどのような影響を与えるのか楽しみです。
(3) ライフステージと働き方の多様化
我々は人生100年時代の中で実に多くのライフイベントに遭遇します。
子育て
介護
病気
退職 (定年を含む)
学び直しなど
フリーランスであれば、時間の柔軟性を生かして、個人のライフスタイルに合わせた働き方が可能となります。
(4) 副業推進の動き
政府は2022年7月に副業・兼業の促進に関するガイドラインを改訂しており、国としても副業を推進していく動きを見せています。
副業を認める企業の報道を見聞きすることも増えました。
実際に私も副業でやっているというフリーランスの方に何人もお会いしています。
6 フリーランスのリスク
ではフリーランスになれば良いことばかりかというと当然そういうことにはなりません。ものごとにはメリットとデメリットがあります。
一般的にフリーランスのリスクと対応策としては以下が考えられます。
(1) 収入が不安定となる
フリーランスは業界の景気に左右され、収入が不安定になりがちです。仕事が多い時は収入が増えますが、業界が不景気になると収入が減少し、契約更新が困難になることもあります。収入の高低差が激しく、安定した収入を得るためには、取引先や業界を分散させ、広く人脈を築くことが重要です。
(2) 雑務が増加する
フリーランスは税務処理、請求書の作成と送付、債権管理など、仕事に関連する雑務を自分で対応しなければなりません。会社員の場合は雑務を他の部署が担当しますが、フリーランスはすべて自分で管理するため、雑務が重荷に感じる人もいます。これらの雑務には時間がかかり、日々の仕事以外にも時間を確保する必要があります。テクノロジーの発展と共にこのような雑務をサポートしてくれるクラウドサービスが多く登場しています。IT投資を行い雑務に対応することも重要でしょう。
(3) 自己管理が難しい
フリーランスは自分で仕事の進め方や時間管理を行う必要があります。会社員から転身した人は、上司や会社のルールのありがたみを感じることもあります。自分なりのペースや方法を掴むまでに時間がかかり、やる気を維持するためのメンタル管理も重要です。自分への日報等でどこに時間を使ったか日々振り返りを行い、自分の能力や案件規模を客観視して、自分自身のPDCAを回し続けることが重要になります。
(4) 営業活動
フリーランスは自分で営業して仕事を獲得する必要があります。スキルに自信があっても、案件獲得に不安を感じる人は多いです。中には人脈から仕事が得られる人もいますが、基本的には継続的な営業が必須で、高いコミュニケーション能力が求められます。仕事の生産性を高め、営業のための時間を確保することが重要です。
(5) 孤独
フリーランスは基本的に一人で作業を行い、仕事以外の雑務も自分で対応します。一人での作業が気楽だと感じる人もいますが、次第に孤独を感じることもあります。コワーキングスペースやカフェで作業しても、深いところで仕事の話ができる相手がいないことが孤独感を増大させます。人脈やネットワーキングの時間を計画的に捻出し、自分の日々のタスクに組み込むこんでいく必要があるでしょう。
7 まとめ
会計士 (独立士業) をフリーランスの中で再整理し、「会計士とフリーランス社会」としてまとめてみましたが、いかがでしたでしょうか?
「お仕事は何をされていますか?」という質問に対し、所属している企業や部署、そして資格ではなく、今後はより具体的な仕事内容やそこから生み出される価値を回答する時代が近づいてきているのかもしれません。
私も専門分野に加え、その周辺領域を含めた槍 (ランス)を磨き続け、社会に価値を貢献し続けていけるよう努力していきたいと思います。
おわりに
この記事が少しでもみなさまのお役に立てれば幸いです。ご意見や感想は、noteのコメント欄やX (@tadashiyano3) までお寄せください。
この記事に記載されている内容は、私の個人的な経験と見解に基づくものであり、過去に所属していた組織とは関係ございません。
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