見出し画像

ホー・ツーニェン「エージェントのA 」展東京都現代美術館2024/4/6~7/7その1

 ホー・ツーニェン の映像インスタレーション作品の展覧会です。 
ホー氏の新作「TIMEのT」と、2021年に発表された山口情報芸術センター(YCAM)と共同制作の大作「ヴォイス オブ ヴォイド 虚無の声」、他に「東南アジア批評辞典」(2017年~)、「一頭あるいは数頭のトラ」など数本の映像作品が鑑賞できます。


 タイトル「エージェントのA A for Agents」 から察するに、「ヴォイス オブ ヴォイド 虚無の声」をも含めて、この展覧会全体が「東南アジアの批評辞典」(CDOSEA , The critical dictionary of south-east asia) の一部として、展示されていると思われます。

 作品群の特徴と魅力は、

  • 表現しようとしているものが “ 歴史 ” や “ 時間の流れ ” “ 哲学 ”といった 実体のないものであること

  • 以下にあげる要素とそのバリエーションが複合的に組み合わされて生み出される訴求力。鑑賞者は思わず作品に引き込まれ釘付けにされます。

    • 2枚のスクリーンに投影される映像 ・・・実写、ニュース映像、既存の映画、テレビ番組、教育ビデオ、CGアニメ、セル画風アニメ、VR等々。

    • 文章・・・論考、会話、手紙文、伝承ものがり等々。

    • それを読み上げるナレーション・・・朗読、演説、解説、詩吟、謡い、ささやき声、早口等々

 映像作品や現代アートはあまり好みでない、普段そういったジャンルの展覧会には行かない、という方も、

・読書が好きな方、ガツッと読み応えのある文章を読みたい方、読んで考えることが好きな方

・朗読、あるいは詩吟、謡曲などを仕事にしている方、文章を読み上げる声の抑揚やスピード、声色が及ぼす影響について興味のある方

・日本を含め東南アジアの近現代史に興味がある方

・西田幾多郎 ( 1870~1945 ) の哲学と京都学派とよばれる知識人の論考に興味のある方。
「ヴォイス オブ ヴォイド 虚無の声」では、1941年(昭和16)日本の真珠湾攻撃の直前、11月末に京都円山の料亭「左阿彌」の茶室で雑誌「中央公論」主催で開かれた、京都学派の知識人四人(高坂正昭、西谷啓治、高山岩男、鈴木重高) による座談会の記録「世界史的立場と日本」(雑誌「中央公論」1942年新年号掲載)のテキストを中心に、西田幾多郎「日本文化の問題」、田辺元「死生(抜粋)」、三木清「支那事変の世界史的意義」、戸坂潤「平和論の考察」、大家益造「短歌集 アジアの砂」の各テキストが素材として使用されています。大家益造の短歌集は1971年刊行ですが、他のテキストは全て1938〜1943年の間に発表されたものです。
 詳細は作品内で語られていますので、ここでは省略します。

VR体験コーナーの前に
資料展示あり

 以上に一つでも当てはまる方にとって、とても面白い内容であるはずです。観に行くことをおすすめします。

 映像上映は1時間交代で、「TIMEのT」他 と「ヴォイス オブ ヴォイド 虚無の声」が交互に上映されています。
この上映タイムテーブルが美術館公式HPに載っていない点、会場内で目につきにくい所に掲示してある点について、私は鑑賞者に対して不親切だと感じました。
 とくに「ヴォイス オブ ヴォイド 虚無の声」は、映像インスタレーションとVR体験をセットで鑑賞するべき作品だと考えるからです。
しかし、「あえてそこに意味を見出すとしたらこういうことかな」と考えたことがありますので次回記事に記します。

 映像をじっくり見ていると、あっという間に数時間たってしまいます。
 限られた滞在時間しかない場合や、会期中一度しかMOTに行くことが出来ない方へ向けて、私が独断と偏見でお勧めする「会場の巡り方」を紹介します。

鑑賞に十分時間がとれない方のために 展示会場の巡り方

  1. 「ヴォイス オブ ヴォイド 虚無の声」のVR体験を予約する。予約の仕方は都立現代美術館公式HP参照。体験は30分まで。途中で止めることができる。同じ日に複数回予約することは可能。

  2. 一番目の展示作品である「東南アジアの批評辞典」(CDOSEA)は、インターネットで「字幕なし版」が見られるので、家で見て予習the critical dictionary of south-east asia (cdosea.org) 会場で「字幕あり版」を気になるアルファベットの分だけ鑑賞する。

  3. 静止画像の展示はすっとばして通り抜け、先に映像上映している部屋をまわる。映像上映の部屋は三つ。入り口に上映作品の表示がある。展示室内は自由に歩けるが、部屋から部屋へは一方向に進み逆戻りは出来ない。一巡すると入口に戻り、また入ることが可能。何周でもできる。

  4. 最初の部屋が「TIMEのT」の上映時間帯であれば、最低20分は鑑賞する。エンドレスに続く作品で、連続上映時間はMAX1時間。違う上映時間帯に見たら、別の映像が流れていたので、全て見るのにどれくらいかかるかは不明。展示解説を読むと、動画とテキストが新たに組み合わされて生成されている?
     二番目の部屋で上映の「一頭あるいは数頭のトラ  」は見逃してはいけない。チラシにのっている宇宙に浮かぶトラが出てくる作品。時間があれば続いて上映される「ウタマ」を見て、その違いを味わう。時間に余裕があれば三番目の上映会場の「名前」「名のない人」を鑑賞する。

  5. 「ヴォイス オブ ヴォイド 虚無の声」を初めて鑑賞する場合、映像インスタレーションとVR を続けて鑑賞することをおすすめする。「TIME」の時間帯に、「ヴォイス オブ ヴォイド 虚無の声」のVR体験を予約した方は、映像も画像も見ずに、先にVR体験コーナーに直行して、資料展示を観て順番を待つ。「エージェントのA」展は当日に限り再入場可なので、VR予約時間まで、別フロアの展示を見に行ってもよいかと思う。 VRは一人30分まで体験できるので、自分のタイミングで姿勢を変えて時間いっぱい鑑賞することをおすすめする。
    座った姿勢でスタートし、京都学派四天王の座談会に参加する。ペンを走らせるように腕を動かすと速記者大家益造になれる。座禅のようにじっと体を動かさずにいると、西田幾多郎の声が聞こえ、立ち上がると、田辺元の「空」、ゆっくりと座る姿勢に戻り、さらに寝そべると三木清と戸坂潤「監獄」が体験できる。三木清と戸坂潤は、頭を左向きにするか右向きにするかで、変えられる。
     とくに「空」は最後まで体験することをおすすめする。

    写真は、VRの西田幾多郎「坐禅」の映像。ここへ行かなかった人は多いのではと思う。座った状態でしばらく静止していると切り替わる。

頭にディスプレイを被るのが苦手な方は、VR映像の上映部屋があるのでそちらで鑑賞可能

6.「ヴォイス オブ ヴォイド 虚無の声」の上映時間帯であれば、映像上映の部屋だけを回り、一通り見たのち続けて体験コーナーへ行く。VR体験が先で映像が後も良いと思う。ちなみに、映像インスタレーションはすべて7分45秒。一番目の部屋「左阿彌の茶室」、二番目の部屋「空」は必見。一時間の間に繰り返し上映されている。VRをすべて体験しようとすると2時間30分かかる。

7.「TIMEのT」の映像をふまえて、静止画展示の部屋を鑑賞。解説を読み、じっくり考える。

各部屋の入口に
上映中の作品名が表示されている
Were tigermen~
われわれはトラ人間~

 鑑賞に予想外に時間がかかってしまったために ( 流れる時間が早い… )、同時開催の「翻訳できない 私の言葉」「サエボーグ」「津田道子“The Life is Delaying” 」面白そうな展示だったのに、時間が無くて見られませんでした。
後ろ髪ひかれる思いで帰りました。

二回目の鑑賞が半額になる券があります。係の人に申し出ると頂けます。二回目に使用後は回収されますが、また頂けます。

エンドレス

次回記事に続きます。「エージェントのA」展感想を記します。


読んで頂いてありがとうございます。サポートは、次の記事を書くための資料や交通費に充てる予定です。