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美術科の授業でも、FilmEducationを〜鎌倉市立手広中学校の実践から②

こんにちは。F.ラボアンバサダーの高村ミチカです。小学校教員を11年経験後、現在はフリーランスライター/編集として活動をしています。元教員だからこそ、学校と学校の外側をつなぐ学びの結び目のような存在でありたい。「本物の学び」を引き出すお手伝いをしたい。そんな思いで、F.ラボアンバサダーを務めています。

前回の記事では、鎌倉市立手広中学校の「非言語だけで映像表現をしよう!」の実践についてお伝えしました。


通常行っている「非言語だけで映像表現をしよう!」のプログラムは、総合的な学習の時間での実践が多いのですが、実は手広中学校では、美術科の授業の一環として取り組みました。

そこで、本記事ではFilmEducationと美術科の関係について紐解いていきます。

美術科の授業で、FilmEducation?

なぜ美術科の授業で、映像表現を扱うのか。

中学校学習指導要領美術編には次のような記述があります。

2 第2の内容の指導については、次の事項に配慮するものとする。
 (1)各学年の「A表現」の指導に当たっては、生徒の学習経験や能力、発達特性等の実態を踏まえ、生徒が自分の表現意図に合う表現形式や技法、材料などを選択し創意工夫して表現できるように、次の事項に配慮すること。
イ 美術の表現の可能性を広げるために、写真・ビデオ・コンピュータ等の映像メディアの積極的な活用を図るようにすること。

中学校学習指導要領美術編(平成29年告示)

表現形式の一つとして、映像表現が明記されているのです。

さらに高等学校学習指導要領美術編では、各科目の中に明確に「映像表現」が位置付けられています。

第12 映像表現
1目標映像表現に関する学習を通して、造形的な見方・考え方を働かせ、専門的な美術に関する資質・能力を次のとおり育成することを目指す。
(1)映像表現の特性について理解を深めるとともに、専門的な技能を身に付けるようにする。
(2)表現及び鑑賞に関する創造的な思考力、判断力、表現力等を育成する。
(3)映像表現の可能性を追求する態度を養う。

高等学校学習指導要領(平成30年告示)

生まれた時から、タブレットやスマホでYouTubeやTikTokといったSNS動画のコンテンツを目にして育ってきた子どもたち。これほど身近な表現方法はないでしょう。しかも、1人1台タブレットの導入により、映像表現を取り扱う環境が整いました。

しかし、一方で見よう見まねで動画を作る。それっぽい体験をしておしまいになっていることが少なくありません。それでは、本当の学びにはなりません。

映像表現は、非言語(動画や静止画、サウンドなど)と言語(文字や言葉など)の掛け合わせで作られます。伝えたい意図に応じてそれらを掛け合わせながら表現する経験は、子どもたちの表現の幅を広げることに繋がるでしょう。また、アイデアを練ったり編集したりするなど、発想や設計の場面も大きな学びになるはずです。

映像を作って終わりではない。その先の学びへ

「『映像表現』って正直何をやったらいいのかイメージが湧かなくて、教科書の単元にあるようにミュージックビデオやクレイアニメーションを制作してみたけれどもう少し深めたいんだよね……」

美術科の先生からこんな声を聞きました。

絵画や工芸に比べて専門の先生が少ない「映像表現」の領域。まだ体系化されておらず、何から始めたらいいのかと悩む先生方も多いのではないでしょうか。

せっかく映像表現の授業をやってみようと思っても、子どもたちが普段慣れ親しんでいるYouTube動画の真似事になってしまう。子どもたちは活動を楽しんでいるし、できた作品に満足そうにしている。けれど、出来上がった作品を見ると、どれもどこかで見たことのある画一的な表現ばかり……。本当にこれでいいんだろうか。こんなモヤモヤを抱えている先生の話も聞きます。

1人1台タブレットが配備され、気軽に動画が撮れ、簡単に編集できるようになりました。動画を扱うことのハードルは下がったように思います。しかし、ただ動画を作っただけでは「映像表現」になりません。子どもたちの創造性を引き出すようなクリエイティブな学びの実現には、まだハードルがあるのが現状です。

FilmEducationは、映画監督であり教育者でもある山﨑カントクが長年実践してきたことを元に体系化した、子どもたちのクリエイティビティを引き出すための教育メソッド。ただ映像を作っておしまいではなく、その先の学びを大切にしています。

プロならではの専門知識とスキルを取り入れたメソッドだからこそ、子どもたちの興味・関心を刺激し主体的に学び合う姿を引き出します。また、どうやったら相手に「伝わる」映像になるのだろうと、自ら表現することを楽しみながら試行錯誤する子どもたちの姿につながるのです。


全校生徒の前でお話をする鈴野先生


今回、授業を一緒に行った手広中学校美術科の鈴野先生にお話を聞きました。

「構図の作り方や編集アプリの使い方などは勉強すれば私たちでも教えることができます。けれど、もっと専門的な視点で『映像は表現なんだ』と伝えてくれる方に授業をしてほしいと思い、カントクにワークショップをお願いをしました。それは、技術だけではなく、表現方法としての映像に出会わせたかったからです。スキルアップのワークショップをする方はたくさんいますが、表現者として子どもの学びの中に入って映像とは何なのかを説いてくださるのは監督しかいないと思いました」

映像制作を行うことは手段に過ぎません。
映像表現の本質を学ぶことで、これからの時代を生き抜くためのチカラをお届けする
映像を制作して終わりではない、その先の学びへつなげていく。
それがFilmEducationです。

表現の多様性を子どもたちに


さらに、映像の多様性を学校で教えることは、表現の多様性を守ることにつながるでしょう。映像表現は、言語表現と非言語表現の掛け合わせで無限に可能性が広がるもの。情報をただ消費するものではなく、間や余韻を楽しむなど、映像にはもっともっと多様性があるのです。

鈴野先生は、「美しいものあつめ」という鑑賞の課題を毎年実施されています。これまでは写真や実物などを使ってスケッチブックやスライドにまとめたりしていたのですが、今年は映像表現に挑戦したそうです。

自分が見つけた「美しいもの」を紹介し合う子どもたち

映像表現を授業に取り入れることで表現の可能性が広がったと、鈴野先生は言います。

「花火や空の移り変わりや水の流れなど、動画の方がより明らかになる美と、写真による一瞬の切り取りによる美がうまく合わさって、これまでにはない切り口でした。最後に谷川俊太郎さんの『うつくしい!』の朗読映像を紹介しましたが、子どもたちが『この映像が“美しいとは何か”をどのように伝えようとしているのか』という意図を感じとりながら見ている様子はちょっと予想外で、完成された表現には様々な可能性があることを思い知らされました」

映像表現を通して、表現の多様性を学んだ子どもたち。そんな子どもたちがこれからの日本の文化の多様性を育んでいくのだと信じています。

▼実際の作品を紹介



市の仕組みをうまく活用して、子どもの学びに還元する


ちなみに、今回のプログラム導入にあたって、鎌倉市が実施している「鎌倉スクールコラボファンド」を活用しています。「鎌倉スクールコラボファンド」とは、ふるさと納税の仕組みを活用したガバメントクラウドファンディングで、リアルな社会課題に基づくプロジェクト型学習やプログラミング学習、ICTを活用した個別最適な学び等を、学校が魅力的な人材・組織とのコラボレーションを通じて実現のための資金です。

プロを招いた授業をしたいと思っても、講師料や教材費などが気になってなかなか実現に至らないという先生も多いのではないでしょうか。

学校予算以外にも、教育委員会や自治体で支援金や補助金の仕組みを作っている場合があります。ぜひご自身の自治体で、使える制度がないか調べてみてください。

最後に、今回の授業を参観して印象的だったのは、校長先生も授業を見にきてくれて子どもたちの間に入っていたこと。そして、担任の先生方も一緒になって楽しんでくれていたこと。子どもたちの学びにつながる授業は、先生方が主体的に関わっているからこそ生まれるものだと改めて感じました。

さぁ、次はあなたの学校でFilmEducationを。



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