2010年代インターネットカルチャーからみる日本文化の展望について
2022年1月7日にカナダ出身のアーティストThe Weekendが突如リリースしたアルバム「Dawn FM」の「Out Of Time」という曲で1983年に発売された亜蘭知子の「Midnight Pretenders」をサンプリングし、大きな話題を呼んだ。The WeekendはSpotify Daily Chartsで世界一位(2024年2月4日現在)を獲得するなど、世界的に有名なアーティストである。そうしたアーティストが日本の曲をサンプリングしたというのは日本文化の海外進出を考えるうえで無視はできないだろう。本論ではそうした「日本」をサンプリングして形成される音楽について、インターネットにみる日本文化の浸透から考察し、2020年代後半の展望について論じていく。
The Weekendが「Midnight Pretenders」をサンプリングした背景には、シティ・ポップブームがあるだろう。1970年代後半から80年代にかけて日本で流行した「都会的」なサウンドを基調とする音楽ジャンルで、山下達郎や竹内まりや、松原みきといったアーティストが有名である。YouTube上で公開されている松原みきの「真夜中のドア~stay with me」は1.3億回再生を超えており、その人気が伺えるだろう。
シティ・ポップの世界的ブームの一つのきっかけとして考えられるのが、フューチャーファンク(Future Funk)というジャンルだ。フューチャーファンクは2010年代前半ごろに流行し、シティ・ポップなどをサンプリングしながらファンクな4つ打ちとフィルターを多用した音楽だ。YouTubeを中心に形成されたジャンルで、アニメの映像とともに音楽が流れることを特徴とする。ここで着目したいのは、日本のシティ・ポップとともに昔のアニメの映像もサンプリングされるということだ。この点において明らかに「日本」を読み取ることができる。こうした背景を中心に世界的なシティ・ポップブームが形成されたのは間違いない。ここで指摘したいのは、インターネット上における日本の音楽の拡散において、「アニメ」と「音楽」の組み合わさったものが消費されているということだ。
「アニメ」と「音楽」の混合はLo-fi Hip Hopというジャンルにも指摘できる。Lo-fi Hip Hopとは、よれたビート、環境音やノイズなどがサンプリングされているのが特徴の音楽で、シティ・ポップやフューチャーファンクと同様、「日本」がサンプリングされている。そもそもLofi Hip Hopの人気は日本のアニメサウンドトラックやNujabesというDJの楽曲をサンプリングして形成された音楽ジャンルであるため、日本文化との関連性は高い。ここで一つのYouTubeアカウントを紹介したい。チャンネル登録者数32.9万人、総再生数約1億回(2024年2月4日現在)であるyotsu(@yot-su)というアカウントだ。このアカウントでは、既存のLofi系の音楽をもとに日本のアニメやドラマと組み合わせた動画を配信している。海外で人気のある「PERFECT BLUE」や「老人Z」といったアニメなどをサンプリングしており、フューチャーファンクとは違った形で「アニメ」と「音楽」の組み合わせによる消費が行われているのだ。
つまり、2010年代を中心に形成されたこれらの音楽ジャンル群というのは、「アニメ」と「音楽」の組み合わせによって成立していると指摘できるだろう。これこそがインターネットにおける日本文化の海外進出と言えるのではないだろうか。ここで言う「アニメ」はシティ・ポップから連想される1980年代から90年代のセル画アニメのことを指す。これは現代におけるYOASOBIと「推しの子」といった消費とは違った性質を持っている。インターネットの普及によって昔のアニメや音楽が発掘される中で形成されたジャンルであるからだ。
以上のように、2010年代から続く「アニメ」と「音楽」のサンプリングによる日本文化の海外進出を論じてきた。では2020年代後半にどのような展望を持てるだろうか。これまで紹介してきた音楽ジャンルは2024年現在、ブームが落ち着いたと言ってよい。Night TempoがX(2022年12月3日のポスト)で言及したように、シティ・ポップの世界的ブームは終わってしまったのだ。だが、本レポートで論じてきた「アニメ」と「音楽」のサンプリングの可能性は十分に残されている。YouTubeやXあるいはSoundCloudやSpotifyといったプラットフォームの進化によってこうした文化は広まっていった。2020年代後半においてもインターネットという特性を生かし、「日本」をサンプリングする日本文化の海外進出というのは行われていくことだろう。
〈参考〉
以下のリンクはすべて2024年2月4日閲覧のもの
Spotify(https://open.spotify.com/intl-ja/artist/1Xyo4u8uXC1ZmMpatF05PJ)
妹沢奈美「海外でシティポップよりも人気の日本音楽!? Lo-fiヒップホップとは」、集英社オンライン、2022年8月8日、https://shueisha.online/entertainment/39402?page=2
NHK「日本のシティ・ポップが世界で大ブームのワケを追え!」、2023年7月28日、
https://www.nhk.jp/p/ts/1M3MYJGG6G/blog/bl/pp2BabPyzp/bp/pd7VEBYK0z/
X(https://twitter.com/nighttempo/status/1598703329429065728)
Night Tempo夜韻(@nighttempo)「気づいた方もいると思いますけど、今年の後半からシティポップだけのインタビューは一切お断りしています。マツコさんの番組でもシティポップではなく、80sのJ-POPとして自分が好きな音楽の話をしました。トレンドが早い方はもう分かっていると思いますけど、世界のブームの流れはもう変わりました。」
Dr.ファンクシッテルー「いまさら聞けない「フューチャーファンク(Future Funk)」って何?」、note、2022年3月12日、https://note.com/drfunk/n/n1ee1f540f1fe
YouTubeの参考は以下のリンク
https://www.youtube.com/watch?v=Qm509gYHAe0
https://www.youtube.com/watch?v=VEe_yIbW64w
https://www.youtube.com/@yot-su/videos
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