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じぃじかっけぇ!(2024.05.06)

先日のこと。妻の実家の庭で子供たちを遊ばせていると、大きなスズメバチが一匹フラフラと飛んできて、家の軒下でなにやらやっている。お尻の先をちょんちょんとしたりして、私と長男はピンと来た。

「巣を作ってやがる!」

巣を作られては甚だ危険である。断固阻止せねばならない。私と長男はなんとかその斥候のようなスズメバチの息の根を止めて、巣作りを最初期の段階で食い止めようと試みたが、とても危ない。下手に手を出して反撃に合ったらシャレにならない。

虫取り網で捕らえて動きを止め、しかる後に退治する方法を考えた。ちょうど虫取り網は手頃なものを持っていたのだが、何せ軒下は凹凸だらけ。振り下ろした虫取り網の隙間から逃げ出したスズメバチに刺されでもしたらと思うと恐ろしい。

そこへばぁば(義母)がやってきて、キンチョールをスズメバチの1.5m程下から噴射したのだが、全く届かない。キンチョールの白い霧はあえなく風に流されて、ばぁばの頭にフワ~っと降りかかった。そしてばぁばは「届かんわ!」と言って、諦めてしまった。

それから私はすぐに「ノズルの長い殺虫剤を見つけるべきだ」と思い至ったが、その在処はばぁばにも分からない。そもそもこの家にあるかどうかも判然としない。

戦況は硬直した。相変わらずスズメバチは軒下でのんびり尻を振っている。今は一匹だから良いが、目を離した隙に大勢の仲間とともに巣作りを進められたらたまらない。

軒下のスズメバチを指をくわえて見上げている私たち。長男はとても不安そうにしている。スズメバチの恐ろしさをいつも読んでるVSシリーズの本などで熟知しているのだ。

そこへ飄々とした面持ちで軽トラに乘って帰ってきたじぃじ(義父)。事のあらましを伝えると、傍らに立てかけてあった虫取り網をひょいと取って、スズメバチを一瞥すると次の瞬間、まるで手練れの侍が刀を振るうように虫取り網を一閃!あっけなくスズメバチを捕らえてしまった。

網の中でもがくスズメバチ。逃げ出せないのを確認するとじぃじは農業倉庫の棚の中から黄色と赤にカラーリングされたいかにも強力そうな殺虫剤をスズメバチめがけてシュッと一振りした。スズメバチは一瞬もがいたが、すぐに動きを鈍らせて、やがて息絶えてしまった。

あまりにも鮮やかなじぃじの退治劇に、私たちは唖然とする以外になかった。そして長男が沈黙を破るように声を上げた。

「じぃじかっけぇ!」


その通りだと思った。

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