🔎小説人圢論『春秋山荘遺文』      䞭川倚理の創䜜十幎 第䞀章『化鳥拟遺』④

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鉄の枝折り戞を開け、早足で庭に入るず、その螏み入れた足を拒むような山鳎りがした。短く䞀回、二回ず繰り返し、そしお烈颚が竹薮に吹き、雚音ずも霰の音ずも぀かない劇音が激しく葉を叩いた。嵐なのだろうか  。しかし芋䞊げればただ抜けるような青空があり、竹薮は颚に唞っお揺れおいる。癜の葉裏を隒めかせおいる竹薮は、その葉を散らし、雪のようにさわさわず降り泚いで庭を埋めた。写真機を構える人圢䜜家が芋え、被写䜓の鳥頭の老倩䜿たちが朚に立っお遠くを芋おいた。少女の人圢も居る 。人圢たちはふっずレンズを芋぀めた。芖線移動の最䞭に颚の音が消え、シャッタヌ音も聞こえなくなった。人圢たちは無音の䞭に浮いおいた。ず人圢のめぐりだけが明るんでいお あたりは薄墚色に昏さを増しおいく。Kは竹薮に正察しお床几を眮き、腰かけおずっずその様子を眺めおいた。このような颚景䞀生に二床ずあるたい。

頭に誰やらの声がする。
化鳥どもなにをもたもたしおいるか。この蟺りを支配しおきたのだろうおたえたち 蹎散らせ。雄の化鳥たちが雌に倉異するなどあり埗ぬこずだ いや確かに、しかしながら 珟実に起きおいるこずではないか 。鳥の姿をした少女の人圢たちに、老倩䜿の姿を借りたものたちに盗られおいるではないか。 いや倜にはたた回埩するやもしれぬ 支配はもどりたしょう。それにしおは雄の化鳥は苊しんでいる。蚀葉を棄おれば共存できるのでは いやそんなに簡単なこずではない。鎮たるのかなにを生ぬるいこずを 。氞代、ここは怚念の土地。䌏芋ず結んでの負の結界地。いやいたそこにいる鳥たちの声で朮目は倉わる。朮目は既に転䜍しおいる 倉化には具䜓が必芁、惹かれ同意する具䜓がいる。この䜜家はそれをもっおここに来た。だから堎は倉わる。聞きながらKは俯いおいた。Kは考える折り䞋を向く癖がある 。顔を䞊げた時、竹薮から人圢ず䜜家は消えおいた。

ずんずんず肩を叩かれた。
「ここで寝たら颚邪匕くよ。」
䜜家はもう垰り支床をしおいた。電波がないから山を䞋りお䜜業をするね。 SNSに写真を早く茉せたいから 明日たた早くに来たす。ずきっぱり蚀った。
自信あり気だ。よしよし。
䌚堎の展瀺の調敎をお願いしたすね。できるだけのこずはやったから。
朝たでには芋お盎しおおくよ。展瀺始たる前に決め蟌もう。Kが答えた。自分で蚭営し、庭で写真を撮り、電波のずどく宿に戻る 人圢䜜家のはさっず山を降りお行った。安祥寺川の脇道を歩き、毘沙門堂のほうぞ姿が消えるたでKはを芋送っおいた。
盞倉わらず電波はずどかないですね。ず、も身支床をしはじめおいた。JR山科駅から歩いお15分、タクシヌなら5分なのにね。毘沙門からこっち電波が匱い。庭だず゜フトバンクがかろうじお入る。山荘に入ったらからっきしどこも駄目。毘沙門ず山荘の間に結界があるんだろうね Sもたた倜を前に山を降りおいった。たた明日手䌝いにたいりたすず。

昌間の喧隒をよそに倜がくる。
十六倜あたりの月がさしのがっお、本来なら匕いた雚戞の隙間から光が挏れ入る時間なのに そう幎前に蚪れた時は月が山荘内を照らしおいた。い぀のたにか手入れをしない竹薮が増殖をしおいた。午の昏さがそのたた倜の暝さになっお い぀が明けるずもしれない。独り遺されお いや進んで残ったわけだが 庭の竹薮を芋お、そろそろ竹を切っお、少なくずも月の光ぐらいは入れなくおはず 癩王の人圢を䜜家が竹の芋晎らし台に䜜る、たた埌のこず。改めお決意を固めた。光りささぬこずをもっけの幞いに、庭の竹薮は、煩くも倜のお喋りをはじめた。
けけけけ、ずも けたけたけたずも聞こえる。䜙り気持ちの良い声ではない。鳎き声のようだが、鳥のそれずはだいぶ違う。昌間に竹薮に化鳥を眮き撮圱などしおいたからだろうか。倜も曎けお鳎き声はだれ憚るこずなく倧きくなっお姊しい。人が独り居るずいうのに、遠慮なしだな 。さらに 。
かんかんかんかん。骚を打ち鳎らす音も䞊空から聞こえる。
かんかんかんかん。
颚がたた竹の葉を振っおいく。攟眮されのび攟題になった竹薮は、月の圱を遮っお、闇を、完党暗転の闇を、庭にもたらす。午前䞉時、䜙りに匷い月の光りが、竹の葉の隙間を抜けた。ちらちらず銀の短冊のような䞉角の雪が降る。倜に光の雪が降る。月光の散乱。戊ぐ颚が銀の色をさらに散らしおいく。銀降る倜。Kはその光の䞭庭に立った。竹薮が党䜓霞んだ癜い光を垯びおいる。癜い花竹の竹が滅びる幎60幎に䞀床の 
けけけけ、け。声が降っお竹薮の根元にばさっず音を立お萜ちた。獣の気配。化鳥がいるのか 。䜜家が竹薮に残しおた人圢が萜ちたのか。竹薮にむンスタレヌションしおみようかず冗談では蚀っおいた。たさか ほんずうに 。竹薮に螏み入るず、声は鎮たり気配も消えた。しかし、どうにも 所圚が萜ち着かない。芋䞊げるず鬱蒌ずした竹薮に空はない。月も芋えない。そしお再び竹の癜い花が降り泚いできた。萜ちた蟺りには窪みが残っおいる。
「朮目に䌚えお良かった。䌝えおおこう。お前だけに 。ここ山科は叀の男たちが鳥になっお跋扈したずころ。ひず気の少ない山荘は、圌らの埅避所だった。そこに癜い鳥頭が䜕食わぬ顔で入っおきた。それは倉䜍だ。2000幎の颚が倉わる。地から颚に倉わるの。颚の節目も氎の流れも倉わる。だけれども黒い化鳥やもろもろ魍魎たちは、傷を負いながら最埌の戊いをするだろう。負けぬよう守護しおやれ。生きおいる限り。人もひずがたも 」
唖然ずしお聎きながら 虚空は降る花で充ち 耳を柄たしおももう声はしない 音なく花は散り、雑なる音を吞い取っお無音に包たれる身䜓。この身䜓は俺の身䜓か
そうしお時がたち、安祥寺川のせせらぐ音が、聞こえおくる頃に、倜告げ鳥の声がした ような気がした。倜気が山荘を぀぀む。獣たちが 声が退去する気配がする。倜気はさらに鎮たる。朝たでのここで䞀時 。そう決めおKは埮睡む。

倜を曝さらしお朝が来る。

明日になれば「化鳥」の展芧䌚がはじたる。たた違う日が明ける。特異に曎けた倜は、しだいしだいに明ける初日に曎新される。Kはただ寝おいる。

ずころで。
翌朝、Sは䜜家より早くに山荘の戞を叩いた。Kは囲炉裏端の寝袋から顔を出した。
「早いな、ずお぀もなく」
「もう六時ですよ」戞の倖からSの声がする。Kが閂をあけるず、Sは、さっず䞊がり蟌み雚戞をちゃっちゃず開け、光を入れた。そしお、すぐさた人圢の所ぞ向かい鎮たった ただただ人圢を眺めおいる。䜜家が来るたでの至犏の時間 。愛奜家の。Kはずいうず、竹薮の癜い花を確かめに庭に降りた。花は䞀぀も芋あたらなかった。竹薮の䞭腹あたりに立ち朚ず生えたたたの竹を柱にしお組んだ、茶の庵から声の気配がする。 庭垫のが、さあず圓然のように垭をすすめる。
「今日はいらっしゃるかず思っお」
庭石に枡した叀民家の叀板が怅子。坐っお杯をも぀ず、竹の葉からささず滎が杯に萜ちおきた。おっず。䞀煎、二煎、癜湯にも思える、それでいおしっかりした仄かな銙りず釜炒りの茶。さらに杯を重ねるず、癜から青ぞそしお黄色ぞず味は倉化する。昚倜は はこの山を越えた䞋の孊園で生たれ、孊園で育っお庭垫になっお、今もここにいる。
昚倜は 山がだいぶ荒れおたしたね。雚が降ったり月がさしたり。颚も䞊空をなにやら黒いものず枊巻いおいた。


厇埳院が化鳥をずもなっお埡陵めぐりでもしたいたような 。
『雚月物語』 はお。化鳥ず巡りをね しおたんでしょうね 確かに倧分荒れおいたした。しかし矎しい荒れ方でしたよ あ、そうそう。違う化鳥が、いた母屋にいたすよ。埌で芋おください。
さんの䜜品い぀も楜しみです。䜜品があるず空間が違いたすものね。建物も 。庭もそこに立぀人によっお景色が䞀倉したす。䜜った人よりも です。
 ですか。
母屋にを連れお入るず、Sが郚屋を出たずきの姿勢のたた人圢を芋おいた。脇に立぀ず立ち䞊がり 
「鳥なのに 」
「そう人圢ですよね。人間を暡したものが人圢ではないですが、おおたかに人間の姿をしおいるので、ひずがた 化鳥は、鳥の顔をしおいるのに、人圢。決しお鳥のオブゞェではなく。鳥が擬人化しおいるのでもない。他の人圢ず䞀緒の原理で人圢になっおいる。前髪ぱっ぀んの着物を着た人圢ず同じに 人圢。むしろ人圢力は匷いかもしれない。
そうしお、話しおいるうちに䜜家も姿をあらわした。
堎は間違いなく倉化する。倉化した䞊で、人圢も衚情を倉える。
堎を倉える力をもっおいるんですよ、この子たちは。
春秋山荘の持ち䞻のOが再びあらわれ癜茶を所望した。
「ずころでどうしおこんなに空気が倉わったのか山荘を移築しおもう50幎近くなるが こんなに良い気が流れおいるのははじめおかもしれない。さすがだなK 」
たた堎に気が倉わった話をしおいる。よほど気に入ったのだろう。Kは答えきれず そう自慢のように語るずその手の䞭から芋えおいたもの、ようやく手に入れおいる感芚がこがれ萜ちおいく。そう信じおいるので倚く語らない。語りたくない。なので独蚀になった。「たぶん堎のじんきが入れ替わっおいく最䞭なのでは 男じゃなくお女性に 。女性も男が䜜った女性じゃなくお ええい うたく蚀えない。こういう時に冎え冎えずした口䞊を述べたいものだが それは氞遠に難しい。倧野䞀雄の螊りではないが、男性で女性も、そしおしだいにどちらかも分からなくなるずころに たどり着く時代に 女性で人圢で人で 鳥。男は垌薄になっおいく。それが時代の颚 あず2000幎くらい吹いおくれたらよいものだが 。そんなこずでは やっぱりうたく蚀えたせん。自分のこずは分からない。だからきっず語らないほうが良いんでしょう。」
なじみのある倜が蚪れ、蚭営も終りをむかえた。朝に光が入っお、もう䞀床、確かめたら、展芧䌚がはじたる。今は、倜の垳に化鳥たちを蚱すずき。人の居ないずころで堎に溶けおもらう䞀倜。もしかしたら堎が人圢に溶けるのかもしれない。
「山、降りようか。」䜜家が満足そうに蚀う。
「うたくできたね。」
「うん、安心。」
倜の鳥矜口に立っお化鳥たちに堎を蚗す、倜を蚗す。人圢たちに倜を枡しお䜜家は山を降りる。静かな倜を いや隒乱もたた良し Kも䜜家もそう思っおいる。
いずれも人圢次第。人のやれるこずは終わった。

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