山本直海

山本直海

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  • 山尾悠子と中川多理をめぐるいくつかのことがら。

    春秋山荘からパラボリカビスへ。小鳥たちから夢の棲む街へ。

  • うつろう日乗ーもう一つのペヨトル工亡史

    今野裕一は、弟・今野真二に、母親と財産を合法的に占有されその全てに近づけなくなった。裁判所に成年後見人申請をおこなったが、今野真二の虚偽応答と、無視によって、申請は不成立になった。現在の法律運用では、今野裕一に何の権利もないと宣言された。今野裕一は鬱になり会社も止め蟄居しながら鬱鬱と日々を過ごしている。鍵をかけて密かに書いている鬱老日記を、サルベージして公開している。全てのひとは今野真二のように勝利者として生きるべきである。しかしその背後に敗残者がいるということも少しだけ忘れてはならない。人生の格差。

  • ペヨトル興亡史(Ⅱ)

最近の記事

🔴小説人形論『春秋山荘遺文』      中川多理の創作十年 第二章『小鳥たち』①

夜をこめて飛び続けた伝令たちは、冷え冷えとした朝に、空音をたて、それぞれの目的地に降りたった。 なんだってこんな時間に——。誰もがそう思ったが、それだけ緊急の用件なのだろう…と、自分に言い聞かせて鳥たちを迎え入れた。老大公妃の…我侭、単なる気まぐれではないのかという懸念が頭をちらついたが、口に出すものはいない。すべてを飲み込んだふりをして、忙しそうに廊下を走る者たちの足音が姦しい。そうして小鳥たちの物語がはじまる。 召集状がとどいたのは、北端の落石(おちいし)無線電信局とそ

    • 山尾悠子と中川多理を巡るいくつかのメモランダム②「徒然の問わず語りの独り言。」時には、自分でも文章をしたためたくなって…山本直海

      勅使川原三郎がシュルツの『マネキン人形論』を踊ったとき、確かに『大鰐通り』の骨董街の角を曲がって向こうに行った。小説に描かれていない角の向こうにも勅使川原の/シュルツの街は伸びていて、そこで勅使川原三郎は踊っていた。創作をもって作品をテーマにするというのはそういうことだ。 シュルツの言葉…文章、小説には身体がある。父親の欲望、欲望のエロスもある。勅使川原三郎はそこも踊った。でもシュルツの…とだけはいえない身体も欲望もエロスもある。誰の?もちろん踊っている身体の。舞台の上ではそ

      • 🔴小説人形論『春秋山荘遺文』      中川多理の創作十年 第一章『化鳥拾遺』④

        —— 鉄の枝折り戸を開け、早足で庭に入ると、その踏み入れた足を拒むような山鳴りがした。短く、一回、二回と繰り返し、そして烈風が竹薮に吹き、雨音とも霰の音ともつかない劇音が激しく葉を叩いた。嵐なのだろうか……。しかし見上げればただ抜けるような青空があり、竹薮は風に唸って揺れている。白の葉裏を騒めかせている竹薮は、その葉を散らし、雪のようにさわさわと降り注いで庭を埋めた。写真機を構える人形作家が見え、被写体の鳥頭の老天使たちが木に立って遠くを見ていた。少女の人形も居る…。人形たち

        • 🔴小説人形論『春秋山荘遺文』      中川多理の創作十年 第一章『化鳥拾遺』③

          雲が光を遮って、午後三時、山の端に陽が墜ち、一気に夜の気配がせまる。Kは席の外し時を探していた。[鳥]と[骨]には、他の作家にない特色があって、ずっと作り続けてきた。[化鳥]ではそれがより色濃くでている。設営も独り思う時間があれば、より深くすすむかもしれない。人形は作ってでき上がって、展示して、人気があればすぐに手元からいなくなる。どう見てもらうかという意匠を人形と対話する時間は、そんなに多くない。機会があればじっくりと……それも創造の一つでもある。Kはそう考えていた。独りに

        🔴小説人形論『春秋山荘遺文』      中川多理の創作十年 第二章『小鳥たち』①

        • 山尾悠子と中川多理を巡るいくつかのメモランダム②「徒然の問わず語りの独り言。」時には、自分でも文章をしたためたくなって…山本直海

        • 🔴小説人形論『春秋山荘遺文』      中川多理の創作十年 第一章『化鳥拾遺』④

        • 🔴小説人形論『春秋山荘遺文』      中川多理の創作十年 第一章『化鳥拾遺』③

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        • 山尾悠子と中川多理をめぐるいくつかのことがら。
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        • うつろう日乗ーもう一つのペヨトル工亡史
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          🔴小説人形論『春秋山荘遺文』      中川多理の創作十年 第一章『化鳥拾遺』②

          風も吹いていないのに、カサカサと薄葉紙が揺らいだ。人形が荷を解かれたがっている。作業を再開…と、みなが手を動かしはじめた。ところで、タイトルは作家が決めた。少し異論を唱えてみたが揺るがなかった。『化鳥』は澁澤龍彦のエッセイにある、泉鏡花の小説もある…「どちらかといえば、澁澤龍彦。でも中身は…そうでもない」澁澤龍彦で育った澁澤第一世代でもあるが、Kはいまは澁澤、第一とは思っていない。文字に書かれた少女の扱いと、澁澤の現実と乖離は、大きい。この山荘で作家が『化鳥』を感じた、そこか

          🔴小説人形論『春秋山荘遺文』      中川多理の創作十年 第一章『化鳥拾遺』②

          山尾悠子と中川多理を巡るいくつかのメモランダム。「新編 夢の棲む街」山尾悠子/時には、自分でも文章をしたためたくなって…山本直海

          描いたたくさんの絵とともに大学を退官する…これから…いや大学という枠が外れて…それは日本画の枠をも外れて…さらに絵画の枠も外れて…いや外して…描く原点に戻れるということだ。生きるためのようにして、そのような言い訳をして、大学で絵を描いてきた。誇れるのは、日本画というジャンルで横行する__。大学の先生と呼ばれる日本画家もする、売絵を描かなかったことだ。 『夜想』やパラボリカ・ビスで活動してみて、そこは…大学生の倶楽部活動見たいな匂いもしたが…そう昔から夜想で活動していた川口起美

          山尾悠子と中川多理を巡るいくつかのメモランダム。「新編 夢の棲む街」山尾悠子/時には、自分でも文章をしたためたくなって…山本直海

          小説人形論『春秋山荘遺文』      中川多理の創作十年 第一章『化鳥拾遺』①

          ◉第一章『化鳥拾遺』 京都・JR山科駅から山にむかって、たらたら坂をのぼっていくと、路の先には、こんもりと繁った半円の入り口がはっきり見えている。にもかかわらず、毘沙門はなかなか近寄ってこない…。こうした坂ではいつものことだと言い聞かせてはみたものの、それでも化かされているのか思うほどに距離は縮まらない。ここらはちょうど半分くらいかな…と言いかけて、連れがいないのに気がついた。左右から山が迫ってくるように道が細くなっているそこいら辺りがちょうど毘沙門堂への半分のところ…琵琶湖

          小説人形論『春秋山荘遺文』      中川多理の創作十年 第一章『化鳥拾遺』①

          🔵本の読み方について/追いつめられているKに代って。

          ある暑い夏の日、神奈川県・大和のアトリエでKは山本直海のモデルをしていた。 お前みたいな駄目な奴を、一度、モデルにしたかったんだ。 駄目な奴?Kは苦笑いのような表情を浮かべて「大和駅からの道、分かりにくかった。タクシーも迷ったよ。」 普通、俺は女しかモデルにしない。だから特別なんだぞ。ほら珈琲…インスタントだけど… ネスカフェなら…。カップを手にKは「ここに坐ればいいのか?」 勝手に坐わり珈琲を飲みながらKは、きょろきょろしていて、そしてほどなく、かっくり頭を落として転た寝

          🔵本の読み方について/追いつめられているKに代って。

          ⭕日々の泡沫[うつろう日乗]10

          『あちこちオードリー』でインパルスの板倉が若手の芸人に絶望裁断をしていた。胸に刺さりすぎる程の名言を吐いていた。ちょっと…というくらい。聞いてしばらく呆然としていた。 「お前の才能に金を払ってるんじゃねぇ。上がった名声に金を払ってるんだ。そこんとこ間違うと傷つくぞ。」 いい歳してそんなんで刺さるなよ。 と、思う。 もう一つ同じようなことで、〈有名になろうとしない人で有名になった人はいない。〉 これは長いこと横目で見ながら過ごしてきた。名前がでていないことで、いくつか嫌なことは

          ⭕日々の泡沫[うつろう日乗]10

          ⭕日々の泡沫[うつろう日乗]7−3

          ⭕第1章◉山の上の舞踏団 その参 いくつかの複層する夢が、鈍色から白色にかわろうとするとき、Kはうなされる自分の声で目を覚ました。 携帯がなった。良く知っている女性の声が「鴻が死んだ。ブラジルからドイツへのトランジットのメキシコ空港で。床に崩れ落ちて…。」と伝えてきた。声は泣いてはいなかった。 「ずっとマネージメントしてたものね…」 「今はしていないのよ。それでもこれからメキシコに…。」 「そうか…大変だね」 「でもこれで仕舞をつけられる」 再び睡りに堕ちた。目の前に汚れた灰

          ⭕日々の泡沫[うつろう日乗]7−3

          ⭕日々の泡沫[うつろう日乗]7−2

          伝承では夢の方が門を通ってやって来るのに対し、ここでネルヴァルが描いているのは、自ら慄きつつ門をくぐる、いわば冒険者としての夢見る者の姿~(野崎歓)  ⭕第1章◉山の上の舞踏団 [その弐]     ————五太子町、白山神社。山の上の舞踏団の空中浮遊の話。 ひととき、風が凪ぎ、粉雪はゆらゆらと空中に浮遊していた。 鉛色に重い空に高層ビルが昏いシルエットを際だたせた。騒乱が起きた新宿西口のあたり。高速バスのターミナル。状況劇場のテントがいち早く高層ビルを借景にした。55広場

          ⭕日々の泡沫[うつろう日乗]7−2

          ⭕日々の泡沫[うつろう日乗]9

          紫紺の空に月が揚がっていた。 その月の夜に、いつものように自己紹介をしながら、感想を述べる座談になった。突然、笠井叡がドイツへ行くと言い出した。高橋巌はじめ、そこに居合わせた人たちが、一様に驚く顔をした。みなはじめて聞いたのだ。 笠井叡からドイツ行きの話を細かく聞いたのは、帰りの横須賀線であったか、記憶にないが、オイリュトミーを習いにオイリュトメウムへ行くと。シュタイナーの神智学は謂わば白の神秘学だが、白を獲得するために黒にも染まると。そして最後まで収められるかは分からない

          ⭕日々の泡沫[うつろう日乗]9

          ⭕日々の泡沫[うつろう日乗]8

          この師走の最中、まだ彷徨っている。書かれた文字の中を。彷徨は、まだなのかずっとなのか…。 年が明けてもおそらく…続く…そうしているうちに年が明ける。2022年。 この迷走のはじまりは、弟 今野真二が母親と実家と財産を占有することで、まったくそれらに触れることができなくなってしまい、それを裁判所が合法、むしろ推奨するような動きをして…その結果、鬱になり、仕事を辞め、モチベーションがマイナスになって…袋小路のどん詰まりで鬱にかかった猫が、食事終わると壁に向かって、次の食事まで闇

          ⭕日々の泡沫[うつろう日乗]8

          ⭕日々の泡沫[うつろう日乗]7

          たいていの作家は、ほぼ例外なしに、狂気や幻想を「本」によって体験する。体験した言葉は、作家の細胞の中で増殖し生命をもつことになる。書いたものを透かして読むと…作家自身が忘れていた記憶の水面下の柔らかな泥濘のような層から浮かび上がってくる。読者は、何度もそれに出会うことになる。 パリンプセプトあるいはパランプセプトと呼ばれている、文学の作用。元々の文字を消してその上に新たに文字を書いた羊皮紙から、見えなくなっていた文字が、科学的処理によって浮かび上がってくる──。 フローベー

          ⭕日々の泡沫[うつろう日乗]7

          ⭕日々の泡沫[うつろう日乗]6

          本に読まれる。と、須賀敦子は書く。 須賀淳子は、子どもの頃から本が向こうから自分の中に入ってくる読み方をしていた。著作を読んでいるとどうも晩年もそうしていたように思う。 芝居に呑まれる。『唐十郎のせりふ』の新井高子さんはたぶんそんな風にして唐十郎の舞台とつきあってきたのだろう。本を読んで目から鱗が落ちた。というか目に鱗が付いているのに気がついた。 状況劇場が全盛の頃、僕は、寺山修司のところに通っていた。当時のことだから、ひとところに心を置いて他にはいかないというのが、観客の

          ⭕日々の泡沫[うつろう日乗]6

          ⭕日々の泡沫 [うつろう日乗]5

          自分の主宰していた雑誌に、追いつめられるとは思わなかった。『夜想』をやってきた姿勢、考え、感覚…すべてを根底から揺さぶられた。揺さぶられたというより、がらがらと破壊された。 そこに書かれた一文。改めて。 幻想(それ)を眼に見える映像として実際に見たことがあるのかもしれないと、ヘルダーリンやネルヴァルのように思わせる詩人は存在するが、たいていの者たちはそうした狂気や幻想を「本」によって体験し、言葉の性格上、増殖する生命を生きることになるので、忘れかけていた記憶の水面下の柔らか

          ⭕日々の泡沫 [うつろう日乗]5