【読書感想文】河童に仮託された理想郷の暗部『河童』
芥川龍之介の晩年に書かれ、その生涯を締めくくるにあたっても重要な作品です。この物語は、主人公が河童の世界に迷い込むことから始まります。近代化されたこの国で、河童たちは人間よりも高度な文明を築いていました。しかし、その社会は個体の幸福よりも社会全体の効率を重視する冷徹なものでした。
この作品のテーマは、理性と科学が支配する社会の非人間性と、そこで失われがちな個人の幸福と尊厳です。芥川は、当時の日本社会が抱えていた問題、特に個人の内面の葛藤や社会との断絶を河童の世界を通して描き