今は(ほぼ)亡きMNP乞食のビジネスモデル

 一年ほど前、安倍首相が携帯電話料金値下げを検討する旨の発言を突然しました。そして、総務省は携帯キャリア3社に対する携帯料金見直し「要請」を行いました。また、有識者による「携帯電話の料金その他の提供条件に関するタスクフォース」が立ち上がり、携帯料金値下げに対する論争が巻き起こりました。この有識者会議にはわれらNewspicksの太田プロも参加されていますし、この件に関してはNPでも盛り上がりました。

 しかし、現在、キャリア3社と契約する多くの人にとって、携帯料金が安くなった、あるいは安くなりそうとは思えないのが実情ではないでしょうか。キャリアは何をしているかというと、スマホを契約する際に実質必須となる電話かけ放題系プランにライトプランが登場したのはいいものの、KDDIやソフトバンクの「データ1GBプラン」という人を食ったようなプランは出るわ、「実質0円」を廃止して実質値上げをするわで値下げする気があるようには思えません。でも株式市場に上場するキャリア3社が、政府の要請に屈して値下げをしてしまったら、キャリア3社は収益が悪化して株価が下がってしまいます。携帯料金が高いのは問題だけど、政府の要請で民間企業の収益を悪化させてしまうのもそれはそれで問題です。だから収益を悪化させたくないキャリアに対して政府はそんなに強く要求することができず、携帯料金の値下げ議論が進まないのだと思います。

 現在の携帯料金体系の問題点に、複雑な料金プランや行き過ぎたMNP優遇があげられるでしょう。一方でこれらを利用して、MNPを繰り返して利益を得る、「MNP乞食」という人たちがいます。とはいえ2016年3月末を最後に、急速に利益を得ることが難しくなったので、今はあまり流行っていません。しかし、携帯料金値下げ議論をするときに、この人たちがどうやって利益を得ていたのかを知っておいて損はないでしょう。

・MNP乞食ビジネスモデルの登場人物

 MNP乞食のビジネスモデルを理解する際に覚えておくべき登場人物は、「乞食」、「キャリア」、「養分様」、「携帯代理店」、「弾用MVNO」、「端末買取屋」です。

乞食…MNPを繰り返して利益を得る人

キャリア…ドコモKDDIソフトバンクのこと。まれにワイモバイルが入ることがある。MNP転入回線数は投資家向け資料に載るので、転入者確保のため「販売奨励金」とよばれるものをMNP契約者を獲得した代理店に支払っていると思われる。いわゆるMNP優遇策の原資?

養分様…街中のキャリアショップに行って普通にスマートフォンを契約している大多数の人。月の携帯代金を1回線で1万円近く払っている。こういう名前がついているのはおそらく、キャリアに毎月多額の料金を支払い、さらに彼らがいるからこそ乞食が儲けることができるということからだと思われる。

携帯代理店…契約者確保のため、一括0円やキャッシュバックなどのキャンペーンを行い、キャリアショップよりもかなり有利な条件でスマートフォンを契約することができる。客が乞食ばかりになったかも。ツイッターや店舗ブログでキャンペーン情報を発信する。店員も乞食だったりする。その場合、重要事項説明の際、きつねとたぬきが茶番を演じているような気がする。いい店員だと情報を教えてくれる。 

弾用MVNO…当然のことながらMNPをするには元となる回線が必要。この回線を「弾」といい、MNPすることを「発射」という。乞食は回線を普通に利用する気はないためMVNO弾を契約してすぐに発射する。ひと月の料金、手数料、解約金が安いところが選ばれる。

端末買取屋…乞食が代理店で一括0円で得た端末を買い取るお店。日本人資本よりも大陸資本のお店の方が、傷のあら捜しをぜず査定が早いうえに高く買い取ってくれる。その場でニコニコ現金払い。買い取った端末は何らかの方法でSIMロックを解除し、おもに中国へと流れていると推測される。外国人のグループが段ボール箱いっぱいのiPhone5cを売っているところを目撃したことがある。

 人物紹介が長くなってしまいましたが、MNP乞食のビジネスモデルは簡単です。ツイッターなどで代理店のお得な一括0円キャッシュバック案件を探し、MVNOで作った弾を同時に複数回線MNP発射することでキャリア端末を契約します。端末を買取屋に売却して利益を得て、キャッシュバックが来る(おおむね契約後2~4か月後)のを待ってキャッシュバックを受け取ります。キャッシュバックが来たらまた、ツイッターなどで代理店の案件を探して、回線をさらに発射します。これを繰り返します。

 キャリアを短期間で解約するため2年縛り解約金がかかってしまいますが、端末売却とキャッシュバックで得た収益が、解約金ともろもろの手数料を上回ります。このようにしてMNP乞食は利益を得るのです。お金や端末の流れを図にしました。

手作り感満載の図。iPadにapple pencilで描いた。

 以上説明したことはかなり簡略化しているので突っ込みどころはありますが、だいたいは理解できたと思います。こうしてみると、養分様が一方的に損をしているように見えますね。上述の理由により、なかなかキャリア対政府の議論は進まないと思います。メディアもそれを理解していると思うので、なかなかいいアイデアは生まれないでしょう。消費者が賢く運用するようになると、話が変わってくるかもしれませんね。

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