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ヒコロヒー『黙って喋って』を読んで

『黙って喋って』ヒコロヒー 2024.1.31 発行 朝日新聞出版

内容
 感情がほとばしって言い過ぎた言葉、平気をよそおって言えなかった言葉。「もう黙って」「もっと喋って」と思わずにはいられない、もどかしくて愛おしい掌編18本。

帯より

 短い話をまとめており、恋愛をテーマにした作品が多く含まれています。

 共感する作品が多くあり、言葉がほとばしる瞬間や逆に平気を装ってしまう瞬間など、愛ともどかしさが交錯する様々な瞬間を描いています。

 物語に登場する女性たちの恋愛模様は、ヒコロヒーさん自身が「その瞬間を間近で見ていたのではないか」というぐらい描写が細かく詳細で的を得ています。

 芸人だからこそ、近い共感から遠い共感まで察知することができる共感認知能力が高いと思いました。

 「覚えてないならいいんだよ」は、本当は覚えているけど、これを言ったらその関係性が終わってしまう、または変わってしまう、気づいているけど気づかないようにしている、この男性の感情が自分に憑依してしまったかのように感情移入してしまいました。
 黙ってではなく、喋っていれば、違った結果になったのでしょう。

 「紙ストローって誰のために存在してんの」の一場面で「ゴミ出しといたよ」という一言は、やってあげたのに何で褒めてくれないのという、自分の欲しかった言葉が返ってこなかったとき、態度が少し悪くなるのは、非常にリアルなシーンだと思いました。
 つもりに積もった感情は、どうしようもなく、虚しさを抱えているのかもしれません。


 あとがきでは、ヒコロヒーさんはこう述べています。

何度読み返してみても私が綴っていることは他愛のないことばかりである。そのくせ時々ろくでもない。

『黙って喋って』ヒコロヒー 251頁

 他愛もない話ではありますが、シンプルで、一般的で身近なテーマや状況がそこにはあります。だからこそ、その結果、ストーリーとの親近感が生まれると思います。
 普通の瞬間や些細な出来事が、深い魅力につながっていると感じました。

 互いに黙っているけれど、それでいて心は通じ合っている。喋らなくても、感情が言葉を超えて伝わっていく。黙っていても通じることもあるが、わからなくても、気づかなくてもよかった感情もある。
 
 人間の醜さもありながら美しい瞬間を切り取った物語でした。

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