10月の推奨香木は「高度に樹脂化した、沈香の佐曾羅(志野流向き)」♫

まだリポート出来ないでいましたが、先月28日に佐曾羅の聞香会を以下のメニューの通りに開催しました。
(縦書きを、そのままコピーします)

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聞香会~香木三昧のつどい~六国シリーズ シーズンⅡ ㈢
「さまざまな佐曾羅を聞き比べる」メニュー(予定)
一.狭衣(さごろも)(勅銘香)(賢章院愛蔵)(赤栴檀と思われる)
二.仮銘 あから橘(赤栴檀)(樹種不明)(御家流佐曾羅の典型的な一例として)
月待ちて家にはゆかむ我が挿せるあから橘影に見えつつ(粟田女王)
三.仮銘 軒の橘(インド産白檀)(御家流佐曾羅の典型的な一例として)
うたたねのとこ世をかけてにほふなり夢の枕の軒の橘(式子内親王)
四.仮銘 春宵(インドネシア産沈香)(志野流佐曾羅の典型的な一例として)
春宵一刻直千金 花有清香月有陰
歌管楼臺聲細細 鞦韉院落夜沈沈(蘇軾)
五.仮銘 春日(インドネシア産沈香)(同右)
花よいかに春ひうららに世はなりて山のかすみに鳥のこゑごゑ(西行法師)
六.仮銘 面影(インドネシア産沈香)(高度に樹脂化した稀少な一例として)
うすみどりまじるあふちの花みれば面影にたつ春の藤波(永福門院)
七.仮銘 惜しむ心(インドネシア産沈香)(同右)(伽羅に紛う佐曾羅の稀少例)
風さそふ花のゆくへは知らねども惜しむ心は身にとまりけり(西行法師)
   (注)勅銘香『狭衣』は分木(聞香会セット)の対象外となります。
      ご諒承のほどお願い申し上げます。
日時 令和四年九月二十八日
午後二時~四時
場所 麻布香雅堂 守拙庵
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「仮銘 春宵」の証歌が珍しく漢詩であることの説明をしている際に、ふと、ふた昔ほど前の記憶が蘇ってきました。

その頃、最上質沈香の佐曾羅が大好きなお客様がおられて、古くから京都に保管されていてその後東京に移管した様々な古木たちの一部であった沈香の佐曾羅を軒並み購入されて、遂には「自分で仮銘を付けたいのですが、よろしいでしょうか?」とのお申し出を頂戴することになりました。
仮銘は、その香木を加熱した際に受ける印象や特徴を何となく表わしていると思える和歌を探して、その一部から採らせて戴いていますが、もとより、A・B・Cや№1・№2・№3のような記号をより具体的に判り易くすることを目的としたものですから、その作業をお客様に委ねることに何ら問題はないと考えていますので、喜んでお願いしました。
その第一号が「仮銘 春宵」でした。
上質なカリマンタン産沈香が具える特有の柔らかな酸味や穏やかな甘味等が特徴的な香木に相応しい仮銘と、嬉しく思ったものでした。

聞香会の最中に思い出したのは、「仮銘 春宵」以外にも幾つか仮銘を付けて戴いた香木があって(証歌は全て漢詩でした)、その中に、極めて高度に樹脂化を遂げた典型的なカリマンタン産の最上質沈香があったことでした。

その後、もう僅かしか残っていませんでしたが、見つけました。
「仮銘 嬋娟(せんえん)」です。
(一般的には「せんけん」と読むようですが、この場合、月の別称であること及び遠く離れて暮らす大事な人への深い思いを表わすものとして、より柔らかい語感の「せんえん」を採りました)

見るからに高品質の沈香です

証歌は北宋随一の文化人と言われた「蘇軾」の「水調歌頭」です。
漢文は以下の通りですが、この詞は現代に梁弘志によって作曲され、鄧麗君(テレサ・テン)が1983年に発表したオリジナルアルバムに収録されています。(但願人長久ーただ人々が健康で長生きすることを願う)
ご参考までに現代語訳(ブログ『伊賀の徒然草』から引用させて戴きます)を右側に入れておきます。

明月幾時有?   明月は、いつの時代からあるのだろうか?
把酒問靑天。   酒杯を持って、天帝に問いかける。
不知天上宮闕,  天上世界の宮殿では、
今夕是何年。   今宵は何の年になるのだろうか。
我欲乘風歸去,  わたしは風に乗って月世界へ帰ろうと思うのだが、
又恐瓊樓玉宇,  又もや恐れるのは 月世界の御殿は、
高處不勝寒。   高い所にあるので 寒さに耐えられないことだ。
起舞弄淸影,   立ち上がって舞いながら 月に照らされてできた影と戯
         れていると
何似在人間!   月に帰らなくとも俗世間に居るとは思えない気分だ

轉朱閣,     月が美しい楼閣の上を傾いてゆき、
低綺戸,     模様のある戸をくぐって光が差し込んできて、
照無眠。     眠らずに友人と酒盛りをしている私を照らす。
不應有恨,    月に恨みがあるわけではないが、  
何事長向別時圓? どうして、いつも思いを寄せる人と遠く離れているとき 
         に限って満月になるのだろうか?
人有悲歡離合,  人には、歡びと悲しみ、出会いと別れがあり、
月有陰晴圓缺,  月には、姿を現したり隠れたり、円くなったり缺けたり
         することがあるが、
此事古難全。   これらの事は昔から人の思い通りにはならないものだ。
但願人長久,   ただ、せめてもの願いは人々がお互い健康で長生きをし
         て、
千里共嬋娟。   例え千里を隔てていても、共に同じ明月を眺めて心を繋
         ぐことだけだ。

YouTubeでアジアの歌姫の名曲を聴きながら現代の名香を堪能して戴ければ幸いと、インドネシア産沈香の素晴らしさを雑味なく味あわせてくれる「仮銘 嬋娟」を推奨させて戴きます。
付銘して下さった中沢様に、改めて感謝申し上げます。
有り難うございます。


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