聞香会「五味シリーズ」について

「六国(木所)」や「五味」という概念は、室町時代、将軍家所持の名香百八十種の分類をはじめ三條西実隆公所持の六十六種を精選、追加、入れ替えるなどして「六十一種名香」を定めた志野宗信が、苦心惨憺の末に究めたとされています(志野流香道要略『桂香』参照)。

どちらの概念も、香道という芸道の根幹をなす不可欠な要素であり、香道家の御家元・御宗家は、必要に応じてそれらの根拠を手鑑(手本木)によって具体的に示すことが出来なければなりません。
香木の分類・判定は歴代に連綿と継承された流派の規範に基づいて御家元・御宗家が決めるものであって、そこに客観的な基準などは存在しません。
御家元・御宗家が選定した手鑑(手本木)が唯一の絶対的な根拠であり、また、それらを追加したり入れ替えたりすることも、御家元・御宗家の裁量が全てと言えるのです。

昨年から始めた‟六国(木所)ごとに香木を聞き比べる会”は、基本的には、御家元・御宗家による分類・判定を出来る限り参照した香雅堂なりの仮の分類に基づいて行なったものでした。
熱心な香木愛好者の皆さまと共に心豊かに聞香三昧のひと時を過ごすことができ、心から感謝しています。

「六国(木所)」がひと通り終了し、次は「五味」に挑戦しようと考えていますが、どのようにシリーズ化すれば良いか迷っており、開始できるのは、4月以降になりそうです。

迷う理由は、「五味」の概念が「六国(木所)」以上に抽象的で、捉えるのが非常に困難だからです。
香木が放つ香気をどう聞くか、どんな香りに感じるのか……その感覚は人それぞれ、十人十色、千差万別の筈ですが、それを甘・苦・辛・酸・鹹の五種類の味覚になぞらえて表現する(味覚に伴って感じる匂いの感覚に当てはめる)など、教わらなければ出来ないことです。
つまり、実際に聞香しながら『これが鹹』とか『これが苦』などと具体的に示してもらわないと、各自の個人的な嗅覚に任せていては収拾がつかないのです。

その具体的な拠り所とされた香木が、今も実在します。
「古代五味香」あるいは「古五味」と称されるもので、五種類各二種ずつ計十種の名香が大切に伝えられて来たのです。

古五味極状画像 (高解像度)

「古五味 名香極状」
安永四年に、志野流香道第十二世家元蜂谷式部の後見役藤野専齋が極状を認めています。内容は、これら古五味香十種が米川常白の正銘に相違ないことを極めるものです。

上記の十種が、少しずつですが手許にありますから、五味を五回に分けて各回二種ずつを炷き出して、それぞれ火末までじっくりと聞いてみようかと…

それらはいわゆる「一味立ち」と称される名香ですが、香木の香気が一味しか感じられないことは考えられず、あくまでも最も優位な味を採り上げているに過ぎないと想像しています。
実際に加熱してみたら、一体どのような香気を放ってくれるのか、興味津津です。

迷っているのは、古五味香の他に何か炷き出すのか否か、また、炷き出すとすればどんな組み合わせが適当か、などです。
暫くの間ゆっくりと検討して、今月中には構想を整理して公表したいと思いますので、今しばらくお待ちくださいませ。

なお「六国(木所)シリーズ」はひと通り終了しましたが、とても有意義で楽しい試みと自画自賛していますし、まだ参加されていない香木愛好家もたくさん居られると思いますので、いずれまたシーズン2を企画したいと考えています。そちらもどうぞご期待下さいませ。


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