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短編小説集

18
本で数ページほどの短編小説をまとめています。どれも、ひとつの記事で完結しています。
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記事一覧

【超短編】朽ちた花が地獄の入口

【超短編】朽ちた花が地獄の入口

朽ちた花が地獄の入口

 南の沼のほとりに、大きな一輪の花が咲いている。それは赤黒く朽ちているのに枯れることがなく、花びらが落ちることもない。なぜなら、その花は地獄への入口だから。

 ためしに、小石か何かを花の中へ放り込んでみるといい。石は、すうーっとどこかへ落ちていって、やがて地の底の方から「イテッ」と叫ぶ声が聞こえてくるだろう。間違っても、縄なんかを垂らしてはならない。地獄の餓鬼どもが、我先

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【超短編】緊急悪魔速報

【超短編】緊急悪魔速報

緊急悪魔速報

 緊急悪魔速報です。

 たった今、獰猛でずる賢い悪魔3号が、日本海沿岸に襲来しました。大変な被害が予想されています。

 該当地域の方は、室内にある鏡を全て伏せて下さい。悪魔は鏡から侵入します。また、ガラス窓や鉄板など、鏡の代わりになるようなものにも対策を施して下さい。

 万が一、悪魔の侵入を許してしまったら、急がず慌てず、まずは自宅から避難し、最寄りの教会にお知らせください。

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【超短編】ポップコーンロマンス

【超短編】ポップコーンロマンス

ポップコーンロマンス

 ポップコーンを一粒口に含み、フッと息と一緒に空へ吹き上げた。オフホワイトの小さな塊が、真っ青な空のてっぺんで目のくらむような逆光に照らされ、一瞬、静止した。

 その時、うすい紫の影が僕の視界の隅に差し込んだ。

 影の本体は、見知らぬ少女だった。ベンチの側で立ち止まり、僕を見ながら笑っている。

「あ、いや、ちょっと、遊びで…」

 僕はポップコーンを吹いたことを恥じた

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【超短編】手品で消された母の顔

【超短編】手品で消された母の顔

手品で消された母の顔

 昨日、お母さんと手品を見に行きました。手品師のおじさんは鳩を出したり、女の人を串刺しにしたりしてすごかったけど、最後にとっておきの手品と言って、僕のお母さんの顔を消してしまいました。お母さんの顔は、目も鼻も口もなくなって、つるんとした肌色の卵みたいになりました。お母さんは「マア!」と驚きました。

 家に帰って、お母さんは言いました。
「目がないと、ものが見えなくて不便ね

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【超短編】不幸の手紙は令和の消印有効

【超短編】不幸の手紙は令和の消印有効

不幸の手紙は令和の消印有効

「昔、不幸の手紙ってのがあったんだよ」
昭和世代の男が言った。

「何それ?」
若い女がスマホをいじりながら聞き返した。

「たとえば、「この手紙を受け取った人は十日後に死にます。死にたくなければ、この手紙の文面を変えず、30人に出して下さい」みたいなね。真に受けた人が多いと、爆発的に広まるだろ?」

 女は鼻で笑った。
「ハハ、バカみたい」
女は男の方を見ることなく

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【超短編】線の歴史

【超短編】線の歴史

線の歴史

 東は社会主義で、西は資本主義。
 北は富裕国で、南は貧困国。
 右は保守派で、左は改革派。

 世界にはたくさんの線があった。人々は線によって分割され、どちらに属すかで運命は決まった。

 ある時、地球の磁場の影響で、その線が一本の直線に繋がった。人々は二分割された。

「すっきりしたね」

 だが、しばらくして、地球の自転の影響で、一本の直線は巨大な渦巻きになった。

「蚊取り線香

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【ホラー】うしろの正面

【ホラー】うしろの正面

うしろの正面

 僕には見える。

 見てなくても見える。

 うしろに立ってる子の顔が、見てないのに浮かんでくるんだ。

 それは、かごめかごめをしている時。

 僕が鬼になって、目隠しして、みんなが僕の周りをぐるぐる回って、僕がうしろの正面に誰が立っているか当てる時になると、僕の頭には、その子の顔がぼんやり浮かんでくる。

 声で分かったんじゃないよ。だって、初めて会って、いちども話したことな

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【サスペンス】盗作

【サスペンス】盗作

盗作

 その男は小説家で、とても気が弱かった。

 ある小説が話題となり、投稿サイトでかなりの読者を得たこともあった。しかし、その後が続かず、人気は日に日に落ちていた。現状を挽回すべく、彼は新作を投稿しようとしたが、いつまで経っても良いアイデアは生まれず、そうなると気弱な彼はますますナイーブになっていくのだった。
「僕には才能がないんだ」
彼はこんな言葉を繰り返した。

 その時、うつろな彼の目

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【諷刺】ゾンビ脱走事件

【諷刺】ゾンビ脱走事件

ゾンビ脱走事件

 朝のニュース

「昨日夜、閉館後のお化け屋敷から、八体のゾンビが脱走しました。ゾンビは脱走後、町のどこかに潜伏しているものと思われ、警察と消防が行方を捜索中です。ゾンビはお化け屋敷の経営者に対し、日頃から待遇について不平を漏らしており、今回の脱走は、不満が募っての逃亡と考えられています」

 居酒屋店主の証言

「昨夜、うちの店にゾンビが来ました!八体そろって!なんだか臭い客だ

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【SF】宇宙空間初の殺人

【SF】宇宙空間初の殺人

宇宙空間初の殺人

 俺にはどうしても殺したい男がいる。俺の会社を奪った最低な奴だ。俺はもう決めている。奴を殺すことを。

 しかし、俺はただ奴を殺すだけじゃあ満足しない。あのクズ野郎にふさわしい、哀れな末路を用意している。

 その方法というのは、奴を宇宙空間で殺すことだ。奴は俺から奪った会社を成功させ、国内有数の金持ちになった。そして、宇宙旅行が実現した今、奴は海外にでも行くみたいに、優雅に地

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【諷刺】夢の美容整形

【諷刺】夢の美容整形

夢の美容整形

 とても醜い女が美容整形を受けるため、あるクリニックにやって来た。そのクリニックは最新の技術と院長の天才的な手腕により、どんな顔でも美人になれると評判であった。

 女は泣きながら言った。

「私を美人にしてください。私はこの顔で、この世の中を生きていくことに、もう耐えられません。なぜ世間の人たちは、顔立ちという、なんの意味もない要素で人を評価するんですか?」

 院長は思った。

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【童話】豚と娘

【童話】豚と娘

豚と娘

 むかし、ある村の近くの森に、恐ろしい鬼が住んでいました。

 鬼はとても乱暴で欲深く、いつも一人で村にやって来ては、食べ物などを奪って森の中へ帰っていくのでした。

 村の人達は困り果てました。このままでは村は荒らされ放題ですが、かと言って、鬼を退治する力もありません。

 そこで村人は、鬼の欲しがるものを大人しく捧げることにしました。そうすれば、鬼も満足して村を荒らさなくなるだろうと

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【童話】看板の子供が夜に抜けだす

【童話】看板の子供が夜に抜けだす

看板の子供が夜に抜けだす

「いいなあ、あの子はマンガを買ってもらって」
「あの子は、おいしそうなお菓子を食べていたわ。うらやましい」

 ある町の商店街の入口で、夜な夜なこんな話し声が聞こえてくるという噂が立ちはじめたのは、もうずいぶん日も短くなった、秋の終わりのことでした。

 その商店街の入口には、二人の子供が描かれた青い三角形の看板がありました。お兄さんと小さい妹が仲良く並んで歩いている絵

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【創作童話】白い怪物の謎

【創作童話】白い怪物の謎

白い怪物の謎

 純白の雲が古代の碧い海に浮かんでいる。強い陽射しを浴びて漂う雲は、まぶたを閉じてなお、その姿が瞳に焼きつくほど白く輝いていた。

 海岸線はいくつもの弧を連ね、海と陸とを分かちながら水平線の向こうへ消えていく。その片隅に、まるで雲のひと群が地上に落ちたような、白い小さな町があった。この町は砂漠に囲まれていた。町の外に道らしい道はなく、黄金色の砂が流れるような波紋を描きながら、どこ

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