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【夢日記vol.1】日本代表

「サッカーの日本代表に選ばれる」

…夢を見た。

いよいよW杯を明日に迎えての最終合宿である。
場所は箱根とか伊豆とか、そんな所だ。

東京の自宅から合宿所に向かうバスは満員で、
座れなかった。
運悪く朝のラッシュアワー
ひっかかってしまったみたいだ。
ぼくと同じジャージを着た代表メンバーの何人かを
車内で見かけた。
本田圭佑は、おばあちゃんに席を譲っている。

結局、合宿所に着くまで
ずっと立ちっぱなしだったので、
足がむくみはじめていた。
ぼくはガンジーの似顔絵がプリントされた
白いTシャツ赤い海パンといった格好をしている。
衣類はこれだけしか持ってきていない。

キットマネージャー麻生ちゃん

「着替えは支給されないのか」

…と聞いてみるが、反応は冷ややかだった。

「支給されるのは、
練習用と試合用のユニフォームだけで、
プライベート用は自前ですよ。
きちんと言ったじゃないですかー!」

そうだっけ?

愕然としてぼくは肩を落とす。

「近くにコンビニとかはないのか」

…とも尋ねてみたが、車で1時間以上かかるらしい。
しかたないので、たった1枚しかない
Tシャツと海パンとパンツを、
宿舎の地下にあるコインランドリーで洗い、
使いまわすことにした。

素人同然のぼくが、代表入りするという大抜擢は、
チーム内にも波紋を呼んでいた。

「なんで、こんな下手クソが混じってんだよ!」

「オレ…このまま、このヒトといっしょに
ピッチに立つんだったら、
明日からのW杯、ボイコットします!」

チームメイトからぼくに浴びせられる
罵詈雑言の数々は、容赦ないものだった。
ぼくはうつむきながら、じっとただ、堪えている。

岡田武史監督は腕組みをしながら
感情の読めない表情で、沈黙を貫き通していた。
最悪の雰囲気のなか、
キャプテンの中田浩二だけが、
ぼくを擁護してくれる。

「新しい血を入れることによって、
活路を見いだそうという
監督の戦略がわからないのか!?」

「だってこのヒト…
オフサイドも知らないんですよ!」

「知らないことが最大の武器なんだよ!」

劣勢の浩二の広い背中のうしろで、
小刻みに震える小ウサギのようなぼくを一瞥し、
岡田監督が短く一言だけ

「そうだ。無知の知、だ」

…と言い残し、ミーティングルームをあとにした。

「そうか! 無知の知か…!?」

「案外、イケるんじゃねえの?」

「うん。やるっきゃないよな!」

円陣の四方から飛び交う選手たちのつぶやきが、
徐々にを帯びはじめてくる。

「そうだよ! もうやるっきゃないんだよ!!」

こうメンバーたちを鼓舞しながら、
まるで自分にも言い聞かすように
繰り返す浩二の目には、
じんわりとが浮かんでいた。
「素人が混じっている」という
大きな障害を乗り越えて今、
チームはひとつになったのだ。 

そして、W杯当日、ぼくたち日本代表は大歓声に包まれ、黄色いユニフォームに身をまとい、グラウンドへと駈け出していった。

…ところで目が覚めた。
二の腕を見ると、鳥肌が立っていた。
ん〜〜〜〜〜んっ…
「オレって天才!?」


【ゴメス追記】
いつごろに執筆したものなのかはもう忘れてしまいましたが、たしか中田浩二さんはすでに引退なさっていた時期だった…と、記憶しています。ぼくはこの散文詩(?)をとても気に入っており、ここ20年で山ほど書いてきた原稿のなかでも1〜2位を争うレベルの最高傑作とさえ、自負しております。だから、記念すべき一番最初にアップする “作品” として厳選させていただきました。


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