知覚力を磨く

得た情報から、自分が見いだせる付加価値は何か?
人間の知的生産は知覚→思考→実行の3ステップからなる
純粋に見る力が必要
純粋に見る力を鍛えるためのトレーニングが絵画観察トレーニング
→絵画を観察するように世界を見る技法

知覚とは?

知覚の定義 「自分を取り巻く世界の情報を、既存の知識と統合しながら解釈すること」
知覚の価値は、他人とは異なる意味づけ、解釈にある
イノベーションの原点は他人と違う解釈から生まれる
情報であっても、解釈する際に知覚に基づいた意味づけがされる
自分はどんな知覚を元にして決断を下しているのか、を振り返ることが知覚力を磨く第一ステップ
→自覚すること

知覚の基本的特徴
感覚器と脳が関与する2ステップからなる
ステップ① 受容ー感覚器を通して知覚情報を受け取る
ステップ② 解釈―脳が既存の知識を基に意味づけをする

解釈のベースにはすでに持っている知識が存在する
→すでに知っていることが新しいものをどう意味づけるかを決める

知覚の特長
① 知覚は多様性に富む
人それぞれに経た経験や学習から、異なる知識を得ている。同じ事象を受け取っても、意味づけは人それぞれで異なる。
② 知覚は知識と影響し合う
個人の知覚はすでに知っていることの影響を受ける
既存の知識自体も元々は過去の知覚プロセスによってつくられたものである
→知覚と知識は相互依存的なループ関係にある
③ 知覚から知識が始まる
個人のあらゆる知識は、個人の知覚プロセスを通じて積み重なったものである。
「あらゆる知識の始まりは、知覚である。」ダヴィンチ
→知覚する力を磨くことで知識の質も上がる。知識の質があがれば、知覚の質がさらに磨かれる

知的生産プロセスにおける3ステージ
① 知覚
得る情報を選択→得た情報を解釈→問題設定
② 思考
問題解決や意思決定といった一定のタスクを目的として、分析→問題解決→意思決定を行う
この時推論、分析的・論理的・クリティカル・クリエイティブ思考などを必要に応じて使い分ける
③ 実行
アイデアを組織化→コミュニケーション→パフォーマンス

思考や実行のプロセスはある程度コントロールできる。一方インプットした情報を既存の知識から意味づけをする知覚プロセスは、半自動的に起こるためコントロールすることが出来ない。
よって、思考と知覚とは異なるアプローチが必要となる
 知覚によって得たものが実行までのすべてのクオリティを決定する

知覚力を磨く方法


① 知識を増やす
知識が多ければ多いほど、解釈により広い選択肢ができる。重要なのは、何を学び、経験するか? 高い創造性は、関連性がより少ないものを敢えて結びつけることで発揮される。よって、問いに対して、ゆるく関連性のあるものを幅広くインプットする
異質なもの同士を関連付けてみるという視点が重要

② 他者の知覚を取り入れる
1人の知識には限界があるが、自分とは異なる知覚を取り入れることで近くの幅を広げることが出来る。→知覚の幅を広げるための読書 幅広い分野で古典と言われる本を読むことで、筆者のもつ知識、知覚に至るまでのプロセスを追体験する。

③ 知覚の根拠を問う
知覚のベースとなる知識について、なぜ自分がそのような意味づけをしたのか?と自問することで、知覚を生み出した根拠となる知識を認識する。→ソクラテスの用いた問答法

④ 見る/観る方法を変える
自分の眼が何をどう見るのかをコントロールする

① ~③は脳への働きかけにより間接的に知覚を変えようとしている。それに対して、④は感覚器という情報を受容するステップに対してアプローチするもので、直接的に知覚を変える。

見る/観る方法 観察する=視覚が捉えたありのままの事実をよく見る
「コンスタントに観察して、書き留めて、考えることは役に立つ」ダヴィンチ

観察によって、眼では見えないものを脳で見る力が高まる。脳で見る機能をマインドアイ(アイディアを見る眼)、そこで見られる像をメンタルイメージという

見えない世界を観る
現代を生きる私たちは純粋によく見るという行為をしていない。マルチタスクに心を奪われてそもそも見ていない、何かを探して、期待してみている。なんとなくぼーっと見ているという3つのモードに支配されている。
→知覚的盲目
特定の目的を意識しながら何かを探している人ほど、予感していなかったものを知覚することが出来ない。見たものを部分と全体から、総合的に受け入れようとする姿勢で、純粋に見ることが大事になる。

観察の持つ3つの強み
① AIに代替されづらい
② 自分でコントロールできる
③ マインドアイの機能を高める

人間の見るはほとんどが脳の作り出したイメージであり、眼で見た情報をそのまま見ているわけではない。
観察を通してコントロールできる目の使い方を変えることで、情報の密度を高め、解釈を生み出す脳の働きにポジティブな影響を与えられる。→観察によって眼と脳を同時に鍛えることが出来る。
言葉ではなく、マインドアイに映し出されたメンタルイメージを元に思考する=ビジュアルシンキング
 ダヴィンチ・プラトン・シャーロックホームズ・アインシュタイン・ファインマン
「イマジネーションで自由に絵が描けるほどに十分にアーティストですね。それは、知識よりも大事なことだと思います。知識には限界がありますが、イマジネーションは世界を駆け巡ります。」アインシュタイン

何を観るか


圧倒的な視覚的ストックを元に、イマジネーションの中で組み合わせながら創作する。
絵画を観るように世界を見る。
絵画を観ることで観察する力を鍛える
絵画が最適な3つの理由
① バイアスが介在しづらい
見慣れない絵は、日常とはかけ離れたものをテーマとしているので、眼に入ってきた視覚的情報を頼りにするほかない。これによって、ありのまま観察することが出来る。
② フレームで区切られている
決められたフレーム内でいろいろな見方を試すトレーニングとして最適。
③ 全体を見渡す力が付く
要素が置かれた環境や背景、要素間の関係性、その空白や周縁部を包括するフィールドに目を向ける。部分と全体を総合的に見る力が付く

絵画を観るときの注意点
① 充分な観察時間(15分以上)
見えて当たり前という過信を捨て、しっかり見るためには時間と工夫が必要
② 多くの解釈を生む目の付け所
多様な解釈を引き出せるような目の付け所を観る
③ 知覚を歪める要素の排除
人間の脳の近道をしようとする性質認知バイアスを理解する。
認知バイアスを外して、純粋に見るためには、ラベルをはがして絵画を観るという行為が役立つ

どう見るか

「全体は、部分の合計とは別のものだ。全体と各部分との関係を理解することに意味があり、合計するのは無意味な行為だからである。」クルト・コフカ

実践するための4つの技術
① 全体図を見る 室町水墨画
目立たない要素やア空いたスペースや四隅までまんべんなく見渡す
「生態系では、全体として理解すべきである。部分は全体の要素として存在しているにすぎない。」ドラッカー
部分として存在している要素(木や建物、人物、さらには余白等)を全体の中でどのような位置づけにあるかに注目する必要がある

② 組織的に見る
組織的観察の5ステップ
 1,全体図に向かい、コンテクストと基本的要素を把握する
  時間、場所、状況など、、基本的要素を把握する
 2,フォーカルポイントを選び、その詳細を観察する
  最も注目すべき重要な焦点を見つけ、その詳細を観察する色のコントラストやサイズ、小質点などによって表現される
 3,残りを部分に分け、それぞれの詳細を観察する
  フォーカルポイント以外の画面をいくつかの部分に分ける。中央から外側へ、前景から後景へ、面積が大きい方から小さい方へなどの順にあらかじめルールを決めて観ていく
 4,一歩下がって全体図を眺めながら解釈する
  一歩下がって全体図を眺め、部分と全体の関係性を認識しながら絵を解釈する
 5,周縁部を確認し、再解釈を検討する
  見落としがないかどうか、周縁部に目を配る

③ 周縁部を観る ブラインドスポットには「宝」が眠る 新しい目の付け所を発見できる
イノベーションは周縁部から始まる

④ 関連付けてみる
比喩、アナロジー 高い創造性というのは、関係性が希薄な要素同士を新たに組み合わせることから生まれる
視覚的なイメージをよりどころにすることで、2点間の関連付けがうまくいく
過去の学習・経験から得た知識を関連付けるプロセスが活性化される
点と点をつなぐ観察
得の視覚的刺激をきっかけにすぐに沸き起こる直観的な解釈から、さらに五感を駆使して、より高い関連付けに至るまでを自由自在に生み出すことができる。
高次の関連付けは、忍耐を要する持続的なプロセスの中で起こる
構造的特徴や他の要素との関連性を捉えることが欠かせない
多角的な視点(他社の視点とか)で見る、相手に共感する、別のコンテクストや抽象的なコンセプトへと移し替える

知覚する組織へ リベラルアーツ人材の時代

共感力=他人の経験に対して、あたかも自分がその状況にあるように想像し、それに反応・関与する能力
自分の知覚を超え出て、2人分の知覚を得る能力
How 自分を相手と同じ境遇において、実際に他者の知覚を追体験する
絵画は様々な感情に触れる機会を与えてくれる
共感のチャンスをつかむためには、第一印象を超えて、視覚的エビデンスを頼りに、書かれている人物はどんな人物か、描いたのはどんな人物かと一歩踏み込んで自問していく。
絵画を通せば、すべての境界を飛び越えて様々な人間の感情に触れて、共感力を高めていくことが出来る。

人材開発
研修における目的は大きく、業務スキルの習得=「どんな職種においても有効であるような汎用性が求められる」と企業理念の浸透
絵画を用いた知的生産プロセスの開発は、個別のスキルを習得するときの土台として機能する
言葉では伝わりきらない経営陣の思想やビジョンを社員に浸透させるうえでも複雑な全体図を端的に社員に示すこともできるという点で有用

イノベーション
OODAループ デザイン思考においても観察、共感が原点であるとされている
イノベーションを目指した観察スタイル
① 多様な人材の多様な知覚を集合させる
イノベーションの基礎となる新しい関連付けを生み出すには、組織全体の知覚の幅を広げることが重要異なるバックグラウンドを持つ人材をそろえ、多様な知覚を共有することが一番良い。
② 観察の量と質に配慮する
観察の対象が、偏りがなく、幅広く集められているかに気を付ける。環境や状況を変えて観ることも、知覚の幅を広げ、新しい発見と解釈を生み出す元となる
③ 常にほかの解釈の可能性を自問する
観察から生まれる解釈は、主観的なものにすぎない。主観性は、知覚の価値の核心であるとともに、弱点でもある。そのような解釈に至ったプロセス、他の選択肢を自問するアクティブ・オブザベーションを用いて、より広く多角的な視点で解釈するよう心掛ける
④ 個人の知覚が共有されるシステムを作る
誰もが気軽に観察を行い、そこから得た解釈を表現できるようなシステムや組織文化を作ることも要件となる。イノベーションの原点はある個人の決定的な知覚にあるということを忘れない。
組織は、それを生むために整備された場所でしかなく、そうした場所を作ることが重要

リベラルアーツ
組織における共通の言語
リベラルアーツとは知覚力を上げるための言語学習 情報にあふれたコンテクスト内で、部分をじっくりと観察したうえで、全体へと関連付ける能力を育てる

自分が解釈した世界を自分の言葉で表現すること、共有することが重要である。
知覚する組織に関する文章からは、大学時代に学んだパブリックスペースデザインに通じるものを感じた。イノベーションを起こすための”場”をつくるのに参考になる。
知覚力を向上させるためのプロセス、絵画を観察するように世界を見る技法は、自然や、遊びを通して学べることとも共通することがあるように感じる。
この辺の関連付けをこの本から学んだことを元に実際にやってみることにする。

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