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社会科学と自然科学のせめぎ合い…御意見無用のちょっと難しいアレについて考えてみる?

「落とし物」を探しに…

今回は、山岡(仮名)にとってはほぼ未知の領域、妊娠・出産についての話です。題材は「妊娠・出産をめぐるスピリチュアリティ」です。著者は宗教社会学、文化社会学などが専門の橋迫瑞穂氏です。

フェニミズムの「落とし物」とは何なのか? そもそも妊娠・出産に関わる問題とは何なのか? を科学脳しか持ち合わせてないの山田(仮名)が考えてみます。

本書のあらまし

本書は著者の橋迫氏の妊娠・出産のスピリチュアルに関して、質的調査、中でも言説分析を用いて、「子宮系」「胎内記憶」「自然なお産」をコンテンツとして取り上げ、そこからどのように社会が見えるかの論考をまとめたものです。もちろん、本書単独でも妊娠・出産に関わる今日的な問題に触れることは可能だと思います。

しかし、科学脳の私には、やはり難しいすぎるので、

・カラー図鑑 新しい人体の教科書 上
・カラー図解 新しい人体の教科書 下
・カラー図解 人体誕生 からだはこうして造られる 

を傍に置いて、考えたいと思います。

では本題

妊娠・出産に限らず、女性の体の変化というものは、現代においても、必ずしも"全て"が受け入れられるとは言えません。身も蓋もない言い方をすれば、妊娠・出産に伴う身体の変化そのものは女性に受け入れていただかざるを得ません。これは、好むと好まざるとに関わらず、動物としてのヒトの構造と機能の問題です。ただ、今日のように、ヒトの解剖、生理学の知見が進み、かつ、山科氏の書物が簡単に入手できる現代だから、前述の私のような暴論ができるわけです。

これを社会学の立場から見ていくと違う見方になります。

本書では、1970年代以降に日本社会に出現した個人主義を重視しながらも、新しい形で宗教・宗教観がまとまった世界観=スピリチュアリティとした上で、スピリチュアリティが市場化、情報化されたものを「スピリチュアル市場」として論考を進めていきます。そこで、3つのコンテンツを私的にざっくり摘むと、

「子宮系」の論考に関しては、橋迫氏は鋭い指摘をしています。私からすると疑似科学の最たるものですが、根拠がグレーなところをうまく拾って子宮に結びつけると言ったところでしょうか。

「胎内記憶」に関しても論考は鋭いのですが、ここは心理学の研究の知見を無視して語ることはできないと思います。もちろん、厳格さを求るならRCTなどを用いて科学的に立証すべきなんでしょうが、ここは社会学として見た時の参考値にとどめたいですね。

「自然なお産」についても、橋迫氏の鋭さは止まることがないです。もちろん、多くの妊娠後の経過として自然な出産を求めたくなる気持ちはわかりますが、自然≠安全なので、過剰な「スピリチュアル市場」については警鐘を鳴らすべきだと感じました。

少し頭を整理して…

現代の科学技術においては、ヒトの卵子同士、もしくは精子同士で、自身の命をつなぐことはできません。したがって、命をつなぐという生命の根源…より自然に生きようとするならば、男性の精子と女性の卵子によって初めて次世代が生まれます。そして、産まれてからは子育てが待っています。生理的早産で産まれるヒトの個体を成長させる事業が待ち構えています。

これらは、身体の変化というリアル、こどもを養うというリアルetc. リアリティを伴うわけです。しかし、いきなりリアリティを持ち込まれても人類は対応できないので、スピリチュアリティを咬ませることで対処していく…この流れを踏まえた上で。

妊娠・出産という場面に潜むフェニミズムと国家観の交差点?

橋迫氏は日本社会における妊娠・出産のスピリチュアリティにおいて、フェミニズムを切り捨てた点にスポットを当てています。

こういうことを言うと、誤解を招く危険があるのですが女性をどう考えるか?という問いが出された際、必然としてその対にある男性をどう考えるか?がないと画竜点睛を欠く議論になると私は考えています。

橋迫氏がいうフェニミズムを切り捨てたスピリチュアリティは、私からみるとその対極ともいえる男性を切り捨てたことになりますから、"自然"なスピリチュアリティではないと思います。ここは、著者と同じく、フェニミズムがどのように妊娠・出産を考えるかは回答を待ちたいところです。

また、妊娠・出産のスピリチュアリティ国家医療の関係についても論じられていますが、ここについて、私は必ずしも賛成できる論調ではないです。

国家に関していえば、妊娠・出産は国力の源であり、結果国家観と結びつきやすい点は橋迫氏の指摘とそんなに変わらないのですが、国家観となると、やはり歴史を無視して語るわけにはいかないでしょう。

また、医療について、医師・患者関係では提供者・受領者として非対称で、パターナリズムがあることから、原則インフォームド・コンセントが行われているのが現状だということも事実として抑えるべきでしょう。

とは言えども知的好奇心を

ただ、この橋迫氏の論考は今後、日本社会での妊娠・出産のあり方、考え方を再構築するきっかけとなる可能性を秘めています。理系脳の山田(仮名)でも考えさせられることが多々ある論考ばかりでした。

賛成、反対問わず、様々な方が手に取って確かめてみてほしい一冊だと思います。(了)

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