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スタートアップにおけるエンタープライズセールスのすすめ #きりさんに聞いてみた

大手向けの営業活動は難しい。

特に、ブランド力も知名度もないスタートアップではなおさらです。
弊社、リーナーも全く同じ悩みを抱えていましたが、社内にエンタープライズセールスのプロはいない。

そこで私は考えました。社内にいないなら、社外のプロに頼るしかない!

SNSでたまたまご縁があった、ナレッジワークでフィールドセールスを担当されている桐原さん(https://twitter.com/lewk1126)にお声がけさせていただき、社内で一問一答形式の勉強会を開いていただきました。

エンタープライズセールスを20年以上されているプロの意見はとても参考になることが多く、自社だけで留めておくにはもったいないと感じました。
きりさんに「今日の勉強会の様子をnoteにしてもいいですか?」とお聞きしたら快くokを出していただいたので、今回記事にしております。

10,000字を超える分量になりましたが、ぜひ参考にしていただければ幸いです。

1.面白いと思ったら、桐原さんのTwitterをぜひフォローください。そしてこの記事をSNSでシェアしてください。
2.エンタープライズセールスがうまくいかない、という悩みを持っている方は、ぜひ桐原さんに直接ご相談ください。きっと温かいアドバイスをいただけるはずです。

それでは、どうぞ!

1.企業ロゴを獲得する方法

Q:大手顧客の受注をした際、企業のロゴをいただけるかどうかで今後のマーケティング活動の難易度が変わると思っています。どうすればロゴを獲得できるのでしょうか?

きりさん:
一目見て誰しもがわかるのは導入企業のロゴなので、今のLeanerのフェーズではプロダクトの価値を打ち出すよりも、ロゴを並べるほうが良いと僕は思っています。サービスの提供価値やプロダクトの機能の細かい差異は、お客様は分からない。ただ、「どの企業が導入しているのか」については明確な差分としてお客様に伝えられますよね。
仮に、誰でも知っている上場企業から受注できてロゴを載せられたら、結構インパクトがあると思う。

ロゴは、営業の質の良さ、良い顧客体験の提供でしか獲得できないもの
後からCSがカバーして事例化してという風に、後工程で獲得できる可能性はあるのですが、それだと長い期間がかかり、スタートアップに必要なスピード感でPRしていくことは出来ません。
例えば僕の会社では、導入プロジェクトすら開始していない時点でロゴを獲得したりしている。普通だったらあり得ないことだけど、さまざまな関係性の構築とコミュニケーションを経て実現しています。
全ては営業が行う商談や情報提供において、「いかに相手目線で物事を考えられるか」が勝負です。全ての営業プロセスの設計を顧客目線で見たときに、質が良いのかということを考えていくのが大事ですね。

質の良い営業というのは、お客様の検討プロジェクトの支援者になれているかということだと思います。

御社のプロダクトが検討される時に、どういう事象が起きやすいのか、どういうプロセスを辿るのか、理想的な検討プロセスはどういう流れなのか。
顧客に価値を届けるにあたって、また、質の良い検討をするにあたって、適切な説明をしていくかが、本来営業の仕事だと僕は思う。
自社が売りたいだけの情報提供や、あえて説明をしないとか、そういう顧客目線じゃない活動はダメ。

そういったことまで徹底してやっていけると、最終的にロゴが早い段階で手に入ります。
「ありがとう。君たちと良い検討ができた。」→「そうですよね、ロゴください。」という形で、Win-Winの対価としてもらうイメージと捉えている感じかな。

だから、想像していないとだめだよね。
ロゴ一覧のところに、どの企業が並んでいるとエモいか?その想像もしていたいし、実際に作ってみればいいと思う。
「こういう企業に導入してほしい。」って。
単なる企業名の書いたリストじゃなく、ロゴの一覧を絵で描くことが重要なんだよね。この絵面が欲しいという理想を掲げて、ISもFSもCSも動く。

「あの会社の受注を取るために、あの会社と一緒にやらせてもらうために、CSとしてもこのプロジェクトを成功させて、事例化して、あの会社を取りに行くんだ!」という連動。
ISも、「それを取るために、アポを取るんだ!」とかさ。そういうことをサイクルで回していくことが、まあ正直、重要だよね。
こういうのってマーケティングだとかさ、いろんなやり方があるけど、バイネームでこの企業に導入いただくためにはどんなアクションをするんだ?っていう議論のほうが、スタートアップの序盤戦においてはとても重要だと思う。

Q:ロゴの獲得において上手くいくときとうまくいかないとき、ロゴまでたどり着けたときとたどり着けなかったとき、その違い・分岐はどこにあったとお考えですか?

きりさん:
お客様に普通にロゴ提供をお願いすると、「成果が出たらロゴ使っていいよ」って返ってくる。それを言われている時点で、お客様に「成果が出るか分かんないな」って思わせていると思うんです。
それは、こちらが説明している事例とか内容が悪くて、お客様に活用のイメージが湧いていない。検討が終わって発注までしているのに不安。という状態ですね。
事業として「世に出てしまって、その後上手くいかなかったら…」というリスクを感じているという状態なので、大丈夫だって思ってもらう必要があるよね。
当然、そこが上手く行っていてもセキュリティ上どうだとか、文化慣習的に無理だよとか、そういうのはあると思うんだけど。それは大手なら一定仕方ない部分もある。
大事なのは、やっぱり導入前の段階から、いかにお客様に成功のイメージを具体的にしてもらえるか、そこがすべてかな。

2.費用対効果の算出について

Q:CSとして、更新提案などをする機会があるのですが、アップセルなども含めて提案するときにROI(費用対効果)をどう示すのかに悩んでいます。リーナーも「導入したらすぐコストが下がる」というわけではないので。お客様に対して、ROIをどう示せばいいでしょうか?

きりさん:
ROIの納得は、自分で出すしか納得する方法はないんです。
お客様自身が欲しいなら自分で出してもらう他ありません。僕が過去に最大の受注金額で受注をした時も、こちらからROIは出していないです。
これが仮に、生産能力を高める工場の機械みたいな商材だったら、「10日に1回交換しないといけないものが30日に1回で済むんです。」という明確なROIの話になる。
ただ、リーナーや僕らの会社が作っているSaaSのようなプロダクトは、お客様がどれだけ使うか、人員を投資するのか、によって効果は変わる。だから最終的な価値を出せるかどうかはお客様次第なんだよね。
「僕たちはプロダクトとしての価値を提供します。」「御社でその価値を最大化するために努力してください。」ということです。

分かりやすく言うために、車を買うとしたときで考えようか。
例えば300万円と500万円の車があったときに、その200万円の差ってなに?と考えると、どう?
車を比較したり購入する際に「ROIいくら?」ってディーラーに聞くでしょうか?
家も同じで、1人暮らしの似たような住居を探していて、いくつか物件を比較して不動産屋に紹介してもらって「ROIは?」って聞くでしょうか?
言わないですよね。
自分自身で、会社までの距離とか生活環境を考えて検討するんですよね。そういった意味で、SaaSは住居と似ています。ROIは自分の価値や行動に合わせて自分で計算するものです。

お客様とは早い段階で必ずそういう話になるから、初回で「利用するのは皆さんなので、これの価値をいかに現出させるかも皆さん次第です。」ということを、早い段階から教育していかないといけない。
プロダクトの提案は、検討支援でもあり教育でもあるんです。ISもFSもCSも、営業活動を担うあなたたちが教育者。
このプロダクトをちゃんと使っていくには、「こうやっていく他ありません!」という道筋を示さないといけない。お客様に何か言われたとしても、自信をもって「いえいえそうじゃありません。こっちのほうが価値が出るんです!」って伝えられなければいけない、ですね。

確かに、営業活動が「ROIを提示すること」に逃げてる感覚はあります。

Leanerのフェーズだと、まだ「売ること」「申込書を手に入れること」に必死になっていると思います。
気合と根性でエモい営業をやっているとして「一緒にやりましょう!頑張りましょう!」ってお客さんと握手して、後から「○○さんが紹介してくれてたのってどんな商品だっけ」という風な感じ(笑)。
確かに、世の営業って9割方そうです。僕も昔はそういう営業でしたよ。

でもそのスタイルから今は脱却して、「明確にこのプロダクトを使う事が価値に繋がる」ことと、「私達はこのように支援します。あなたたち(お客様)はこのお金と社内の工数を拠出する必要があります。」ということを伝え、実現することでWin-Winの関係ができるというイメージを強く持って営業しています。

なので、はじめから常に検討や運用を意識した対話をするので、売るための議論なんてほぼしないです。
こういうスタンスに変化させるのは、恐れもあるとは思うけど、これができるとより良い形なるのではないでしょうか。

自分がエンタープライズのお客様側だったとして、役員に稟議を提出する際に必ず費用対効果は聞かれると思います。だから、ROIは必須なものであると今日まで思っていたのですが、そんなことはないのでしょうか。

繰り返しになりますが「費用対効果が必須なら自分たちで作ってください。」ということです。
不動産屋の営業がROIまで出さないのと一緒です。
費用対効果を利用者側が出さないパターンってないですよね。明らかに計算が成り立つものなら別ですよ。正にさっき話したような生産ライン用の機械とか。
それ以外のものは、正確な計算なんて難しいでしょう。なので、提供側がROIを出すというのは僕は好きではありません。

3.エンタープライズセールスにおけるISとFSの連携

Q:ISとFSの連携を教えてください。Leanerでは、「ISがアポイントメントを取る。あとはFSお願いします。」という形になっているのですが、今後エンプラを攻めていくのであれば、もっと連携してチャンピオンを探していくとか、面で取りに行くとか、取り組んで行きたいと思っています。

きりさん:
正直、僕からすると、どんな質でもいいから「アポが安定的に取れてればいいよね」と思う派です。アポが取れることだけでも尊いわけ。アポの質がどうとか言うFSいるけど、うるさいよね(笑)。
文句言いたくなる気持ちもわかりますが、そもそもスタートアップでエンタープライズを狙いに行くんだったら、全員必死にやらないと。質とか言ってる場合じゃないと思う。

真面目に言うと、戦う土俵をいっぱい作って溢れかえったら、全員で商談に行けばいいと思います。ISがFSにトスアップした後は、FSがもういちどISするんですよ。
例えば、「A社の田中さんと鈴木さんと伊藤さんが存在するので、田中さんにアポとったけど、伊藤さんと鈴木さんもアポ取って欲しいんだ。」と言ってISに戻すという作業。これってとても高度なんです。
要件・世界観・顧客との関係性・対話の内容、それらをSFAに記録して「こういう観点でアポを取ってください」と依頼したとしても、書き手と読み手のGAPは100%発生する。細かいニュアンスまで伝えられないよね。

ゆくゆくはリーナーも組織が大きくなり、ブランドやプロダクトの価値が明確になって、一定熟成された状態だったらそれもできると思う。
でも今はまだそういうステージではないから、ばんばんアポ取ってFSに投げまくって、パンクするくらいFSに商談させて、めちゃめちゃ失注させて、失注分析して、その改善をプロダクトでも事業でも営業プロセスでやって。
っていうのをひたすら回していくというのが、(今のフェーズでは)理想だと思う。

特にリーナーが取引したい大手製造業は、色んな人とコンタクト取るのが難しいと思います。組織図が外に出ていないし、名前もほぼ外部に出ていない。
だから幅広く色んな会社と接点を持って、中に入ったら、中に入ったFSがうまくやって、バイヤーの相関図を作って行く。っていう構成のほうが、製造業は良いと思います。

バイヤー相関図は絵にかいたほうがいいですね。それがあってこそ「この人とこの人は抑えた。だから次はこうする」というアクションを起こせると思います。
サービス系の企業と製造業の企業の圧倒的に違うところは、情報が外に出ていないところ、だから中から探っていくしかなさそうです。

仮に上の役員陣を抑えたところで、たぶん、リーナーのプロダクトは「現場でいったん検討をします」となるでしょう。役員がいいねとなっても、内部統制の観点から言っても必ず現場での検討を求められると思う。
だから、役員だけがokといっても、すぐサービスの導入とはならない。

例えばSalesforceのようなブランドがあるプロダクトは、役員クラスが現場に対して神様のお告げのように「この導入を検討しなさい」と言って、現場ではその通りに導入する前提で検討が進んで、戻ってくるだけなんです。
よく営業のノウハウとしてトップダウンで営業しろ、みたいなこと書いてあるじゃないですか。あれはブランド力のある企業だから成り立つ手法であって、スタートアップでは全然通用しないんだよね。

まだブランドの無いプロダクトは「なんか良さそうだな」と役員が思ったとしても、現場に検討を投げた時点では「フラットな目線での検討」であり、「導入しないといけない」という圧力は無いんです。
リーナーのような商材は現場からボトムアップで検討を進めていくしかないと思いますよ。
だから、とにかく質は無視してもいいから、幅広にアポを取る。戦う面をいっぱい作っていくっていうことはすごく大事だと思う。

そういう観点から言うと、チャンピオンとかコーチを見極めるっていう一定の定義はフレームワーク上重要だと思うけど、あまり参考にはならないです。会社ごとにびっくりするくらい違うからです。

以前、会計システムの提案営業をしていた時、ふんぞり返る経理部長を前に色々提案して、周りの従業員もみんなその人に怯えているような感じだったんだけど、最後にデモ画面について横にいたおばちゃんが色々質問してくるわけ。
仕訳の画面がどうとか。正直、めんどくさいなーって思ってたら、その人がキーパーソンだった。出社から17時まで、仕訳をひたすらして帰るおばちゃんなんだけど、30年間そこの経理部に勤めていて、ふんぞり返ってる経理部長の同期なの。
で、経理部長と「~ちゃん」って呼び合ってる仲なのね。その人がYESって言ったら、何億円の投資がYESなの。こんな世界観がこの会社にはあったわけ。
「こういうおばちゃんがチャンピオンです」なんて、どこにも書いていないでしょ。
だから、ペルソナを定めていくことは重要だけども、本当にこの会社で、検討において力のある人・影響を与える人は誰なんだっていうことは、中に入っていかないと分からないですよね。

最近だとリモートワークが主流になってきたことによって、現場の担当者の選定権限が上がっているという仮説が僕にはあって、役員も現場の様子が見えないので「わからん」と。
実際に部署で集まる会議というものも減ったし、オンラインになったことによって一日中会議でスケジュールは埋まってるし、で現場のことは現場しか分からん、となっている企業も多いんじゃないかな。

ただ、少なくとも、僕は商談が始まった瞬間のアイスブレイクで必ず、「~さんはどんなキャリアだったんですか?」など話して、その部署での所属歴や、これまでのプロジェクト経験を把握するようにしています。
プロダクトの検討経験を持っていたり、社内で決済を取った経験がある人っていうのは、僕たちが思っている以上に希少で、そうそう居ないんですよ。

サービスが良ければすぐ検討してもらえるって思ってる人いるけど、例えばリーナーの社内で「1000万円何かに投資する方法」って、やり方は分からないでしょう?
それを社内で調整したりなんなりする方法を経験するって、僕たち自身も分からないので、お客さんも知らないんですよね。なので、その経験を持ってる人を探すっていうのがすごく重要です。

Q:社内ではなく、社外にチャンピオン(導入推進をする上でのキーパーソン)がいた場合の留意点はありますか?

きりさん:
良い仮説ですね。
社外に影響を与える因子がいる場合というのはすごく多くて、特に大手企業だと、コンサルやメインベンダー企業が強く影響したりします。
ただ、その人たちに対して「こうしてほしい」と伝えたところで動くものでは無いので、その人たちが何を言っているのか、どういう影響を与えているのか、と言うことを教えてくれる人をつくるしかないでしょう。

そういった情報を獲得できる関係性を、いかに作っていけるかという意味でも、結局は「検討プロジェクトをより良く進めて行ける状態を作る」ことが大切なのかなと思います。

4.インサイドセールスとしての役割について

Q:現状、LeanerではISとFSを分けていて、リードタイムを短縮するために高役席者のアポを取ろうとか、そういう方針を決めてISは頑張っています。ISに戻してアポを取り直すということにもチャレンジしています。そういった状況で、今の私たちのフェーズでは、ISはどう役立つことができるのか、どこで価値を発揮できるのだろうかと考えています。

きりさん:
先ほどなんでも良いからアポを取れと言ったけど、当然一定水準はあって、会社として「こういう部署のこういう役割の人」という目的に対しては真摯にやっていくことが非常に重要だと思っています。
ただ、その水準に5つバージョンを用意して、そのうち4と5しかアポを取るべきではない。というような絞り方は、やりすぎだと思います。
その、ある認識の決めたものの枠でアポイントを取っていく。ということをやるのが大事だと思っています。

それで、インサイドセールスの役割と言うのは、再現性を徹底的に作ることだと思っています。アポイントの結果を出すこともそうですが、オペレーションを作りこんでいくという事です。
メール1通、コールのスクリプト1つ、そこで使うコンテンツを、どういう順番・形で展開していくのか?
ウェビナーがあった場合は、受注出来ていない会社に対してどういった展開をしていくのか?ということです。
ここらへんまでやっていくことが仕事だと思っているので、アポ獲得は1つの結果的な産物でしかなく、オペレーションを作りこんでいくっていうことをめちゃくちゃ意識していったほうがいいと思います。
人材は事業成長につれて入れ替わるし、人数も増えるしという状況において、どう再現性を担保していけるかがISの肝だと思っています。

それから、ISは顧客接点数が意外と多いんです。なので、その顧客接点の中でも、「このスクリプトにこういう反応が来た」という情報を、日夜シェアしているかっていうのは会社としては重要です。
社長や経営陣の方々は、ISが手に入れた一次情報を重要と捉えているケースが多いと僕は思っています。

導入検討などの商談に入っていくと、具体的な話になってくるので、無理やり弁当箱に詰め込んだような情報になっていくんですよね。
つまり自分たちの都合に合わせて詰め込んでいった情報になるんですが、ISの取った情報やマーケティングとしてのウェビナーで取ったアンケート情報とかって、生のままの情報なので加工されていなくて、美しいんですよ。

その情報を経営層にシェアしたり、開発側にシェアしたりというようなことを、綺麗に循環させていくと価値が高いです。
ISはアポを取る機械のように思いがちだけど、機能としてはそういったことが強くあると思います。
これはエンタープライズだからとか、SMBだからとか、関係ないです。

ISもFSもCSも、経営者からすると目です。
経営者は全部見ることはできないし、事業が大きくなるほど、お客様に直接会えない。
だから、みんなから渡される情報がフレッシュであればあるほど、ヒントになる。ですから、どれだけ早く精緻にバイアスなく、自分たちの都合も入れず情報を共有できるかはとても重要です。

ISとして渡せる情報は何だろうと考えていたところもあったので、「綺麗なものを綺麗なまま届ける」ことが価値になるというのは、とても参考になりました。

きりさん:
「Aの話をこのようにしたらBという返事が来た。」というセットが大事です。Bの部分だけの「お客様がこう言ってた」だけじゃダメなんです。
こういう順番でこの話をしたらこういうことを言っていたという、一つのストーリー、これが一つの文脈じゃないですか。過程を含めて宝物のようになるかもしれないし、すごい大きなヒントになるかもしれないです。

特に、ISをやってる人は若手が多くて、純粋無垢なやり取りが多いんですよ。かつ、電話だから音声情報がメインなんです。純粋に伝えて相手の反応がパッと返ってくる、この感じがすごい財産なんです。それをきちんと活かしていくと良いんじゃないかなと思っています。

ついつい、人間は自分の都合によせた報告になりがちだし、上司に合わせた話し方になるのが常なので、1次情報をそのまま伝える仕組みがあると良いと思います。
Fact情報をいかに加工せずに伝えられるか、これを1週間やるだけで会社は変わりますよ。
現職のナレッジワークでは毎週金曜日にエンジニアとビジネスメンバーが両方集まって、お客さんから出てきたGoodな情報と改善ポイントの情報を、一次情報のままシェアする会議を行ったりしています。

Q:リーナーでは分業制にしていますが、理想的なIS像はどのように作っていけばいいのでしょうか?ヒントをください。

きりさん:
そもそも、会社が「The model」型みたいなものに、左右される必要はありません。ということだと思います。
The model型から離れている会社なんてグローバルで見たらいくらでもあるので、現場で進める中で違和感があるんだったら、それを訴えていくことは、事業的に必ずプラスになります。
「これが不適当です」という声が挙がり、The model型を改良してリーナー型を作るように、設計していくのを意識すると良いと思う。こうでなくてはならない、と捉える必要はないです。

目指すべきIS像は、僕としても答えはありませんが、「再現性」なのかな。究極、社員じゃなくてもできる、一か月二か月だけ働く人にもできる、みたいなところまでもっていけたら理想。
FSもそこまで持っていけたら最高だけど、正直エンタープライズ相手にそれを突き詰めるのは難しいと思う。ターゲットの選定まではするけど、このオペレーションに乗れば走れるんだ。というというところまでISが突き詰められたら、すごく面白いと思う。  

Q:ISのスペシャリストとはどのような人でしょうか?

きりさん:
ISは、オペレーションを作りこんで、あらゆるアポイントメント獲得のベースを底上げすることが最適解となるポジションだと思います。
人数も出入りが激しい領域だし、どうしてもキャリアの途中・過程として就くことが多いポジションですよね。そういう意味でも作りこみが重要です。正直、ISとFSはどっちもやればいいと思うこともありますが、生産性を考えると分けたほうがいいんでしょうね。

あと、ナレッジワークのISですごいなと思う人材は、僕の商談録画をほとんど見ていますね。解像度を下げないように、すごく意識しているのだと思います。
僕がどこのスクリプト変えたとか、「あの時のあの表情やばいですね」とか。いきなり連絡してきてびっくりするくらい(笑)。
でも彼はそれを商談に活かしているようで、業界知識とか顧客反応とかにセンシティブであること、これはISの重要ポイントなのかなと思います。

5.フィールドセールスの1年間の動き方について

Q:予算承認タイミングが2月3月とか決まっている会社と、4月などの年始にアポが取れた場合、1年間どう動いていくのがいいのか悩んでいます。

きりさん:
楽なやり方として、既存営業であれば、予算設計のプロセスを把握して、そのタイミングで次の予算を下さいね。という風に日々コミュニケーションを取ることです。
でも実際の営業活動上は、年度前半で一生懸命コンタクトをとっても覚えてもらえない。
覚えてもらうための営業活動をしないと意味がないので、「何に困ってるか」とか、「最近こういう情報が手に入った」とか、定期的なコンタクトをする為の材料を携えて地道にやり続けるのが良いと思います。

そういうコンタクトの取り方で受注したことはリーナーでもありますね。

であれば、それで設計をする。彼がやっているやり方を設計して、会社としてコンテンツ化していくべきです。
資料1,2枚のリーナーレポートみたいな感じにして展開していくような形にしていくと、再現性が上がりますよね。
実際は会社ごとに手に入れた顧客情報をうまく相手の言葉に合わせながら、改善させてやっていってると思うんだけど、それではレバレッジが効かないので、横展開していけるようなことをやれると、充実した関係性構築ができると思います。

Q:コンテンツ記事やホワイトペーパーのように、ぱっと簡単に情報をシェアできるようにしたいなと思い、コンテンツを作ろうとしています。きりさんはどんな感じでコンテンツをためてますか?

きりさん:
私たちはまだ実際にやれていることは少ないですが、現状だとウェビナーコンテンツをホワイトペーパー化して、いつでも使える状態にしています。
せっかくなら、財産を2次・3次利用しようとしていますね。

けれども実際には、商談中に生々しく喋ることが一番良いんです。コンテンツとして作りこんだものにしてしまうと営業感がむき出しにしてしまうんですね。

昔の話にはなりますが、ワークスアプリケーションズ時代に会計システムの営業責任者として、オフラインのセミナー講師もやっていました。
決して難しいことはしていなくて、「この半年間、どんな会社がワークスアプリケーションズの会計システム導入を検討していたか。」を話していました。
スライド1枚目が今回のセミナーの参加者構成、2枚目がどんな会社が検討していたかという円グラフ、3枚目が検討した期間・関与した人数・プロセスや、RFI・RFPが出た・出ていない、など…。

検討プロセスのパターンや検討時の情報を繰り返し見せていました。その内容で毎回100名以上来場していたし、結構評判が良かったんです。これってどんなプロダクトでも作れる内容ですよね。

そういう日々の営業活動の内容をさらすだけで、顧客にとっては財産です。「ああ、他社はこうやってるんだ、うちの会社特殊なんだね」みたいな事や、「こういう検討をすることで、こんな形で議論が出ることになるんだ。」みたいなことをみんな知りたがっているし、こういう情報を開示することで検討プロセスをコントロールすることができるんです。

Q:大手だとRFIやRFPを提示されることもありますよね。その場合はどう対応すればいいでしょうか?

きりさん:
エンタープライズ相手だとRFI・RFPが出る前に、こちらが作らないといけません。
先方がそれを出した時点で法律が出来てしまっているので、「それを破ったら逮捕」という状況になってしまうんですよね。だから、こちらから法律を作りに行かなきゃいけないんです。

ワークスアプリケーションズの時は、RFI・RFPはこちらで標準形式のものをつくっていました。明らかに厳然たる価値を出せれば、勝てるって常に思っていたからです。

RFI・RFPを出さない企業がお客様だとしても、リーナーとしてRFI・RFPを作ってもいいかもしれない。
「こういうものを選びたいですよね。」
「こういう期間で稼働するものにしたいですよね。」
「追加コストが発生するようなものにはしたくないですよね。」

といった、理想的な検討ポイントを洗い出して作るのはありなんじゃないのかな、と思いました。

6.フィールドセールスの評価について

Q:営業1人当たりの予算はいくらくらいが適正でしょうか?育成期間、独立するまでの期間などもあるので気になっています。
また、育成期間が1年だとするとその期間売り上げが0という状況の中で、その間の活動の評価をどうすべきか、ぜひ考えを教えてください。

きりさん:
一般的には、「年収の何倍」とかよく言いますよね、5-6倍とか。
それをざっくり期間で割ればいいんじゃないでしょうか。あとはその企業の在り方次第です。

売れてない期間については、「売れてない人ですね」ってことで冷たい目で見ていた時期もありましたが(笑)。
今はそうではなくて、プロセス主義を大切にしています。売れていてもプロセスが「棚ぼた」な人材は評価に値しないという考えです。

逆に、売れても売れなくても、パイプラインは時期に関係なく作れるので、そこの件数と金額、特に件数を評価したらいいと思います。最終的に受注できたかどうかっていうのは色々な因子が影響するので、営業がコントロールできる「商談化」で測ると良いですね。
その商談化の定義をよく明確にして、そこのレギュレーションを高めて、評価ポイントにするというのは厳然たるものです。
このレギュレーションが弱いと、容易く商談化したり、後工程のオペレーションが崩れたりするので、こういうものしか商談化としないという条件を設計して、それに純粋に組織が動けば、良い感じでしょうね。

エンタープライズは早く受注できるものでもないし、計画通りにもいかないことは多いです。例えばISのアポイントの供給が足りなかったとしたら、FSが自分で案件を作るんですよ。
案件の数が足りないのはISのせいだ、となってはダメ。

他にもマーケティングイベントが足りないとか、リードが取れないとか、受注できない理由をISやマーケ側に寄せないというのが営業組織としては大事だと思います。
そうすると組織がピリッとしてくる。

どちらも痛みがあるような設計にしていくのが組織として大事だと思っているし、責任感をお互い持っているというのが重要だと思います。
セールス側はインセンティブがあったり、評価も大きく注目されやすかったりみたいな所もあるから、売上を作るのはセールスの責任だ、という厳しさは当然あったほうがいいんじゃないかと思います。

7.最後に

最後まで読んで頂き、ありがとうございました!
当日はここでは書けないようなエピソードもありましたが、きりさんにはとても参考になる話をしていただき、改めて感謝いたします。

大手企業の業務をSaaSで変革する、これを続けていけば日本はもっといい国になるはずです。そのためには、スタートアップ企業の営業力の強化が必須だと個人的には思います。

最後に、もう一度お願いです。

1.面白いと思ったら、桐原さんのTwitterをぜひフォローください。そしてこの記事をSNSでシェアしてください。
2.エンタープライズセールスがうまくいかない、という悩みを持っている方は、ぜひ桐原さんに直接ご相談ください。きっと温かいアドバイスをいただけるはずです。

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