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【薬剤師国家試験】キラルスイッチ(化学)

こんにちは。やまぶきです。
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1.サリドマイド事件

昭和30年代、サリドマイド(鎮静催眠剤)を妊娠初期に服用した母親から、「サリドマイド胎芽症」と呼ばれる催奇形性を受けた子供が出生する事件が発生した。

昭和36年11月、西ドイツでサリドマイドが原因と思われる症例が報告(いわゆるレンツ警告)され、回収措置された。日本では大日本製薬(製薬企業)により昭和37年5月に自主出荷停止、同年9月に自主回収措置された。レンツ警告から回収措置まですでに約10か月も経過していたが、この間、全国規模の疫学調査は一切行われなかった。つまり、販売中止を判断するために必要なデータが、国・製薬メーカーによって集められることはなかったのである。その間に被害者は倍増し、被害を受けた胎児は約1000例と言われている。

サリドマイド被害児及びその遺族は、国及び大日本製薬を被告とした民事訴訟を提起した。国および大日本製薬は、被害を発生させたことについての責任を認めて和解した。

その後の研究により鏡像異性体の関係である一方のR体が薬理作用を持ち、他方のS体が催奇形性を持つという報告がなされ、各方面での理解が進み、現在では抗悪性腫瘍薬や免疫調整薬として再承認されている。

なお、生体内でR体とS体は平衡関係にあり、R体のみを投与しても速やかに生体内でラセミ化されると報告されたため、サリドマイドによる催奇形性の発症機構は未だに不明であるが、2010年に半田宏(東京工業大学)と小椋利彦(東北大学)らにより発見された「ユビキチン化阻害説」が有力視されている。

2.鏡像異性体

サリドマイド事件では鏡像異性体の関係がカギになったが、そもそも鏡像異性体とはなんだろうか。

同じ分子式を持つが、構造が異なる化合物を「異性体」という。異性体のうち、分子内の原子の結合の順序が異なる化合物を「構造異性体」といい、原子の結合する順序は同じだが、立体的な原子の配置が異なるために重ね合わせることのできない分子を「立体異性体」という。また、1つの炭素原子に4つの異なる原子(団)が結合している場合(この炭素原子を不斉炭素原子という)、一対の鏡像異性体を生じる。これは右手を鏡に映すと左手の形となるが、右手と左手を重ね合わせることができないのと同じ関係である。

また、鏡像異性体の等量混合物を「ラセミ体」という。

3.キラルスイッチ

どちらの鏡像異性体にも特筆すべき毒性が認め られなかったとしても、望ましい性質(強い薬理活性や優れた薬物動態など)を有する異性体のみを使用した方が、人体にかかる負担を最小限に抑えることができる。そのため、光学分割法により従来はラセミ体として使用されてきた薬を、一方の望ましい性質を有する鏡像異性体(ユートマー)のみを含む薬へと姿を変え、新薬として再承認されることがある。このようなキラル医薬品の開発手法を「キラルスイッチ」という。

以下にその例を示す。

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