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「令和元年の人生ゲーム」を読んで感じるエンタメ起業の価値。令和世代への処方箋

 きっかけは、元外交官の作家・佐藤優の推薦でした。

 最近、企業のトップや役員、役所の人事部局責任者から、「Z世代という最近の若者はわからん。学歴はいいし、いろいろな資格も持っているのに、やる気がない。どうしたらいいと思うか」という相談を受けることがよくある。
 Z世代について明確な定義は存在しないが、1990年代末から2010年代初期に生まれた人々を指すようだ。現在14~35歳くらいの人たちだ。
 筆者は世代で人にレッテルを貼るのが好きでないので、まず「私は1960年生んだけど、まれですが、大学生の頃は『あんたたち新人類に属する若い人たちはわからない』とよく言われたものです。老人にとって若者は永遠の謎なのでしょう」と答えている。
 それに加えて、「現在の大学生・院生、20代から30代半ばまでの人々の内在的論理を見事に表現しているのが、麻布競馬場さんの『令和元年の人生ゲーム』(文藝春秋)です。企業や官庁の幹部と人事担当者にとって必読の参考書です」と言って、この本を薦めている。

「世代でレッテルを貼るのは好きでないが…麻布競馬場さんの〝Z世代論〟は必読」 

小説「令和元年の人生ゲーム」概要

 メディアでの評判で知っていても、特に興味はなかったのですが、尊敬する佐藤優さんがそこまで言うのならと読んでみることにしました。
 非常によくできた小説だと思いました。様々なタイプの「令和世代」が登場しますが、皆、「今の時代」を背負って悩み、惑っています。小説の構成もよくできていて、章ごとに一人語りする主人公は別人なのですが、登場人物は重なっていて、沼田が実質的に主人公です。彼はそれらの主人公の目を通してのみ描かれているというやり方が、秀逸だなと思いました。読者は決めつけを持つことができず、「どういうつもりなんだろう?」と考えさせられる構図になっています。

 沼田さんには世の中の構造が見えるので、努力しても行き着く先がすぐにわかってしまう。だから何事にも情熱を持って臨むことができない。何もやりたいことが見つからない自分も、一見、理想と情熱を持っていることを装う同世代の「熱い人々」もくだらないと軽蔑している。そしてこういうくだらない人間しかいない日本社会に対する沼田さんの激しい怒りは、心の中で押さえつけられ諦めに変わっているように見える。
 しかし、沼田さんは諦めているのではなく、我慢しているのだ。Z世代の我慢が50代、60代には無気力に見えるのだ。 

というのが、佐藤優解説です。
 なるほどな、と思いました。そして、『令和元年の人生ゲーム』に登場する日本の令和世代に対して共感しながら、残念な気持になる読後感でした。そして、「やりたいことがある」というのが素晴らしいことなのだなと確認しました。

やりたいことがある若者もたくさんいる

 近年、僕が出逢う若者は、セミナーなどを通じてなので、多くは、「すごくやりたいこと」を持っている。音楽家にしろ起業家にしろ、ライフワークにできるかもしれないものを持っているケースが多いです。だからコミュニケーションできるし、手伝ってあげられることがあるわけです。
 僕がプロ作曲家育成プログラムで「山口ゼミ」で必ず言葉の一つに、「誰もあなたに作曲家になってくれと頼んでないから」というのがあります。音楽に携わるということは、経済的には不安定だけれど、やりがいと夢があることなので、初期衝動は強く持っている場合がほとんどです。もう一つよく言うのは「日本に作曲家は人数としては足りています。そこにどうしても分け入りたいのだとしたら、本気で全力で取り組んでください」とのことです。それで挫けるける人は早く諦めたほうが本人のためですからね。10年前に「山口ゼミ」を始めた時の説明文に、「この講座を受講すればどうすれば自分がプロの作曲家になるかわかる、もしくははっきり諦められることができます」と書いて、宣伝文として正直すぎだなと苦笑しながら、その言葉に興味を持って受講した人もたくさんいたことをあとから知りました。。10年前と比べると複業音楽家がやりやすい社会環境になりましたが、「どうしてもなりたい」という気持の大切さは変わりません。
 起業家と接する時も僕のスタンスは同じです。アーティストマネージメントを長年やってきたので、「光る部分はあるけれど、バランスが悪い人に課題を気づかせて、サポートする」ノウハウは持っていると自負しています。起業家も誰からも頼まれずに選ぶ職業という意味では前述の作曲家と同様ですね。

 『令和元年の人生ゲーム』にも起業志望者は登場します(大学の起業サークルも物語の舞台の一つになっています)が、自己実現のイメージが弱く、いわゆる「チャラい」起業モチベーションの学生ばかりです。高校時代に注目を浴びてことで勘違いして、転落していく哀れな学生起業家も描かれています。

 僕がスタートアップスタジオStudio ENTREを始める原点になった、エンタメ領域の起業ピッチイベント「Start Me Up Awards」のことを思い出しました。スタートアップ領域に知見がある、エンタメ業界周辺の重鎮たちに審査員をお願いしたのですが、皆さん一様に、他のピッチイベントと比べて、熱量の高さが素晴らしい、ただ、ビジネスモデルやマネタイズへのモチベーションが弱いとの評価でした。スペースシャワーが協力してくれていて映像を残してくれています。懐かしいです。

 この小説を読むと、その「熱量の高さ」がいちばん大切なんだなと改めて確認します。 
 エンタメ領域での起業への取り組みは、toB向けのDXやSaaSなどよりマネタイズモデルの確立は難しいかもしれません。けれど、本気で挑戦する価値がある熱量を持つことは可能です。もちろん今の時代の起業は、何度でも挑戦することが可能です。佐藤優が説明する令和世代の諦めに似た怒りを、エンタメ起業にぶつけて欲しいです。

大阪音大ミュージックビジネス一期生に会って感動した

 大阪音大にミュージックビジネス専攻を作った時、集まってくれた46名の一期生の自己紹介を聞いて「音楽を通じた自己実現に取り組みたいと思う18歳がこんなにいるんだ」と感動しました。早稲田慶應といったいわゆる高学歴の学生で講義をして話を聞く機会も時々ありますが、この小説ほどの登場人物ほどではないですが、目標設定、欲望のターゲットが定まらないのが弱点で、地頭良くても、偏差値高くても、このまま漫然と20代を過ごしていくとビジネスパーソンとして成長できないのでは?と心配になります。大阪音大MB専攻の学生たちは、高校時代の偏差値で言えばそれほど高くはないのでしょうが、「18歳でやりたいことを一旦決められた」強さを感じました。そのMB専攻を壊したのが60代の保身行動だったのがまさに日本の病痾の典型なのですが、それはともかく、学生たちには自分の初期衝動を大切に頑張ってもらいたいです。個人的には繋がっているので、僕にできる協力は何でもしようと思っています。社会に出ると必ず遭遇する「保身モンスター」の醜悪な姿を若いうちに目撃したことが長い目でプラスになることを願っています。

日本の未来は文化・クリエイティブ産業にある

 見出しにはわかりやすく「エンタメ起業」と書きましたが、 エンターテインメントという言い方は、領域を狭く捉えられるので、僕は「文化・クリエイティブ産業」と言い換えていきたいと思っています。日本政府も省庁横断、官民連携で、コンテンツ産業を基幹産業にして、クールジャパンを改めて押し出そうとしてくれています。まさに「クールジャパン」で語られている産業領域はまさに「文化・クリエイティブ産業」です。 「クールジャパン」がモデルとしたイギリスの「クールブルタニカ」がまさにそうでした。

 クリエイティブ産業を「文化的な創造物の生産・販売・サービスを行う産業。コマーシャルカルチチャーを含み、経済的な利益を与える意味合いをもつ。また個人のクリエイティビティ(創造性・創造力)とも結び付きが強い」とあります。具体的には宣伝・広告業とマーケティング、建築、工芸品、デザイン業、メディア産業、IT産業、美術館博物館ギャラリー図書館、音楽、アート、出版業」と定義づけています。
 人口減少が始まり、消費市場にのびしろが難しい日本では、観光と文化が主産業になっていきます。「デジタルとグローバル」で新たな市場創造の可能性がある文化クリエイティブ産業は、数少ない有望分野の一つです。

 インディペンデント精神を持ってクリエイターになるか、文化クリエイティブ産業の領域で起業家になるか、日本人の優位性を活かして、自己実現できる選択肢です。令和世代に自分のやりたいことを見つけて、ポジティブに頑張ってほしいです。全面的にサポートします!!

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モチベーションあがります(^_-)