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世界自然遺産:知床半島【羅臼町】これが羅臼の日常

北海道の北東部である知床半島は豊かな生態系が評価され2005年、世界自然遺産に登録された。そこには知床連山と呼ばれる山々があり、その山を背景に西側の斜里町しゃりちょう、東側の羅臼町らうすちょうの2つの町が存在する。

斜里町はロシアのアムール川の河口でできた氷が流氷となり、風によって北海道まで流れ着く。その流氷が知床半島にせき止められるため流氷の密度が高く、流氷ウォークができることで有名である。

それとは別に羅臼町の魅力は何といっても、この小さなエリアで世界でも類を見ない陸と海の生態系の頂点にいる生きものや、絶滅危惧種・天然記念物といった野生動物・海洋生物に出会えることだろう。今回は、そんな羅臼町の冬を「オススメの町」として紹介したい。

自然サイクルが豊かな羅臼町

流氷

冬、羅臼町に流れ着く流氷の底にはプランクトンが棲みついており、春先に流氷が溶けるとともに大繁殖。そのプランクトンを求めて小魚が集まり、その小魚を目当てにイルカやクジラ、シャチなどが集結する。そして河川にはサケ・マスが遡上し、その恵みがヒグマやシマフクロウなどの陸上の野生動物へ、そして森へと還元される食物連鎖やエネルギーの循環が豊かな知床半島:羅臼町。

流氷の時期には、ロシアから飛来するオオワシ、オジロワシの世界一の越冬地としても知られており、一年を通して様々な生き物を観察することができる野生動物の宝庫だ。

羅臼の冬の海

オオワシ。翼開長220〜250cmの日本最大のワシ

今回、乗船したのは「ゴジラ岩観光」の野生動物撮影コース。珍しい「流氷×オオワシ・オジロワシ」の撮影に世界各国から多くの人がやって来る。極寒の中の撮影になるため、最大限の防寒対策が必須だ。靴下を二重に重ねホッカイロを貼り、マイナス25度まで耐えられるブーツに手袋、厚着をした上にスノーボードウエアを着る。

港にはすでにオオワシやオジロワシの姿がちらほら。期待に胸が高鳴る。そしてライフジャケットを着て、「今日は流氷帯が近くに来ていますよ!」と船長の軽快なアナウンスと共にいよいよ出港!

オジロワシ。翼開長180〜220cmの大きさ

数分で、流氷帯に到達し、撮影を開始する。野鳥が集まるように凍った魚をこれでもかと流氷の上に投げるクルーたちだが、あまりの量の多さに笑ってしまった。お陰で、たくさんの写真を満足するまで撮ることができたが、2時間半の撮影はさすがに身体にこたえる。手足の感覚がなくなってしまったが、羅臼でしか見られない絶景を目の前に興奮しっぱなしである。

「羅臼産」が多すぎる羅臼のご飯

お昼前に船から戻り、凍える身体を温めようとやって来たのは港のすぐそば「道の駅 知床・らうす」だ。この時期、羅臼の旬はエゾバフンウニ。極寒の海で雪が降る1月下旬から日本で1番早いウニ漁が始まる。最高級の羅臼昆布を食べて育つウニは「日本一贅沢なウニ」と言われているが、今回は迷いに迷って、めんめ(羅臼ではめんめというが、きんきのこと)定食にした。というのも、めんめは北海道でも羅臼が有数の産地となっているからだ。

めんめ定食

高級魚なので半身にしたが、一匹にすれば良かったと、後悔した。というのも、噛むだけで脂がじゅわ〜っと口いっぱいに広がり、溶けてしまう。はっきり言って、おいしすぎるのだ。

羅臼は豊かな海の恵みにより、1年を通してさまざまな海産物が水揚げされている。その中でもよく知られているのは、ウニやホッケ、昆布だろう。しかし、それだけでは無い。ボタンエビ、ブドウエビ、カラフトマスなどたくさんの海産物が採れる。

そんな中でも、羅臼に来なければ食べられない絶品グルメがある。ふわふわの中に弾力があり、ウナギよりも脂がのっている黒ハモ丼だ。道の駅では多いときには1日100食以上も注文があるそうだ。次回訪れたときにはウニと、黒ハモ丼をいただいてみたい。

羅臼で、北方領土問題を理解する

羅臼国後展望塔からの景色

身体もすっかり温まり、お腹もいっぱいになったところで羅臼町から約25キロしか離れていない国後島くなしりとうを一望することができるという羅臼国後展望塔を訪れた。海抜167mの高台にあり、気持ちのいい場所だ。

施設内には、北方領土問題を解説した展示コーナーがあり、理解してもらうというのが狙いだ。北方領土は日本固有の領土であるにも関わらず、現在ロシアによって不法に占拠され、問題となっている。

羅臼に住む子供たちは、幼い頃から北方領土問題について学ぶそうだ。中学2年生が作成した学習教材があり、インターネットから見ることができるというので、覗いてみたが、「素晴らしい!」のひと言。参考資料などを見ても難しい場合があるが、この教材は詳しく書かれているにも関わらず、読みやすく理解しやすい。

羅臼の夜明け

北方領土に住む人々と、「ビザなし交流」というものが30年ほど行われていたのも教材を読んだ初めて知った。関東に住んでいると、北方領土問題は遠い場所のことで「分からない」と思っていたが、まったく何も知らない自分を恥じた。

残念ながら、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻に対する日本の制裁措置に反発してビザなし交流は、2022年3月、ロシアが一方的に停止表明をしたことで、解決に向けて続けられていた交流がいつ再開できるのか不透明になってしまった。今後どうなっていくのか見守るしかない。

知床羅臼ビジターセンター

シャチの骨格標本

北方領土問題を知ったところで今度は、知床羅臼ビジターセンターに寄ってみることにした。知床横断道の入り口に位置するこの施設では知床の自然とルール、野生動物について知ることができるので、知床半島を知るうえで欠かせない施設だ。

入ってまず、目につくのはシャチの骨格標本で、恐竜の標本を彷彿させるすごい迫力だ。2005年2月、羅臼町相泊らうすちょうあいどまりで流氷に閉じ込められ死亡したシャチの群れの中で、最大の個体のもので体長約7.6メートルという大きさのシャチの標本である。

2024年2月にも流氷に挟まれ動けなくなっている10数頭の群れがいるとネット上で話題になっていたが、流氷の下を潜水して流氷のない場所に移動できなかったのか?と、疑問に思ったのでスタッフに質問してみた。すると、シャチの生態を丁寧に教えてくれた。

シャチは集団で行動し、家族愛が強いという。大人のシャチは潜水をして移動できるが、子供はそれほど息が続かないらしい。子供を置きざりにすることができず、10数頭が同じ場所にとどまっていたというのだ。幸いなことに翌日には脱出できたようだと報道していたので安心したが、親が子を思う気持ちはシャチも人間も同じなのだと改めて思った。

初夏のシャチ

施設内には様々な動物の標本や剥製などが展示され、知床をまとめた映像を150インチの大画面で鑑賞できる。無料なのにも関わらず施設内の内容が濃く、見応え十分である。羅臼町は町面積の90%以上がヒグマの生息地である森林ということもあり、訪れた時にはビジターセンターに寄っていただき、野生動物への理解を深めてから知床半島を楽しんでもらえたら、と思う。

最後に

どの季節に訪れても毎回ちがう表情を見せてくれる羅臼町。四季がはっきりと分かれており、観られる風景や出会える野生動物も1年を通して様々だ。世界自然遺産に登録されて以来、世界的に有名になり観光客が増加した知床半島。

観光客が野生動物に餌付けすることよって、射殺されてしまったヒグマや、人に近づきすぎて車に轢かれてしまったキタキツネなど、悲しい現状は後をたたない。一人ひとりが知床のルールに敬意を払い、この美しい自然がいつまでも続くように静かに見守ってほしいと願うばかりだ。


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