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#屋久島の鳥たち 5月

春は出会いと別れの季節

 新緑が進み、いろんな花も次々と開花する春から初夏にかけては、島に住んでいると心躍る人も多い季節なのではないでしょうか。
 私の日課のとりさんぽも、新緑の風景を撮影することが多くなります。また、鳥たちのさえずりも聞こえ始め、耳を傾け立ち止まり、なかなか進まないこともしばしばです。
 この時期は鳥たちにとって渡りの季節です。南から色々な鳥が夏鳥として渡ってきたり、さらに北へ向かうために立ち寄ったりします。

 春を告げる鳥として楽しみに待っているのがヤツガシラです。渡りの途中で春先に毎年見られます。
 頭の羽(冠羽)を広げる姿がゴージャスでありながら、地中の虫などをついばむ長いくちばしとよちよち歩く姿がかわいらしい鳥です。
 拓けた草地や畑地にやって来るので見つけやすく、警戒心が少ないのか割と近くで見られる人もいるようです。
 繁殖地の中国やモンゴル、ロシア南部に向かう途中なのでしょう。

牧場にやって来たヤツガシラ。警戒すると冠羽(頭の羽)を開くが、この時は終始穏やかで、伸びをするときに少し開いた

 同じように渡りの途中で立ち寄っていく鳥がたくさんいます。
 深い青色が美しいオオルリもそうです。
 オオルリは、冬場はインドシナ半島や赤道付近のフィリピンやインドネシア、シンガポール周辺で過ごし、暖かくなると北上し南西諸島を除く日本全国で繁殖します。
 屋久島はその経由地となるので、見られる時期も限られてしまいます。年に1度会えるかどうか、そんな憧れの存在です。出会えた時には嬉しくなる、幸せの青い鳥です。

幸せの青い鳥のオオルリ。見付けるとハッピー♪日本三鳴鳥のひとつであるが、屋久島でさえずりはあまり聞かれない

 屋久島が繁殖地になっている夏鳥にはリュウキュウキビタキがいます。雄は頭部から背部にかけて黒く、胸からお腹にかけて鮮やかな黄色が特徴のスズメサイズの小鳥です。
 姿だけでなく鳴き声も美しく、里や山の森から「ピィチュリ ピイ チュリ!」と澄んだ声が聞こえてきます。

南西諸島にいるリュウキュウキビタキが屋久島で繁殖する
九州以北で繁殖するキビタキは渡りの途中かもしれない

 春から初夏にかけては、いろんな鳥たちが渡って来る楽しみはあるのですが、同時に、屋久島で冬を越した鳥たちが北へ帰って行く寂しさもあります。

 冬の間、里でも道端でよく見かけていたシロハラは、5月にはだいぶ数が少なくなり、「ビョビョビョ」という水笛のような鳴き声も聞こえなくなります。ヒヨドリサイズの茶色い鳥で、昔は罠を仕掛けて捕って食べていたようです。まるっとしていて、道端から飛び立つとき重たそうに見えるのですが、中国東北部からロシア沿海まで飛んでいきます。
 また、冬の間、北方から渡って来ていたヒヨドリたちも、百羽近い群れになって帰って行きます。その群れを狙って、猛禽類のハヤブサが突っ込んで行くのも目撃されたりします。
鳥たちにとって渡りは命がけのイベントです。

地面の落ち葉をかき分け、その下にいる虫などを食べるシロハラ。そのカサカサいう音もいつの間にか聞こえなくなる

北へ旅立つ鳥たちが、無事に繁殖地へたどり着き、美しいさえずりを響かせていることを願うばかりです。
同じように、屋久島に飛んで来た鳥たちが無事に産卵しヒナを育て、そのヒナたちが巣立っていけるような環境を守っていきたいものです。

…………
福留 千穂/ふくどめ ちほ
 鹿児島生まれの鹿児島育ち。県内の小中学校で養護教諭として勤めていましたが、ガイドを志し2014年に屋久島へ。屋久島の自然を案内する中で、野鳥の存在は避けては通れず、野鳥を覚えるために意識して見るようになったところ、野鳥のかわいさ、美しさ、たくましさに触れ、すっかり虜(とりこ)になってしまいました。
 現在はカメラを片手に、野鳥の姿や鳴き声を探して歩く「とりさんぽ」が生活の一部になっています。
 耳を澄ますと、いろんなところから鳥の声がする。
 よく見ると、いろんな鳥が近くにいる。
 そのことに気付いてもらえ、野鳥の生活に気持ちを寄せてもらえると嬉しいなと思い、屋久島で見られる野鳥の様子をお伝えしていきたいと思います。

https://www.instagram.com/chihofuku_yakushima