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「時間」を扱うためには抽象思考が必要

人の本能的な思考にないため、訓練によって身につけなければならない思考法というのはたくさんある。その中でも最たるものは「スケジュールを引く」ことだと思っている。

仕事は、プロジェクトとそうでない仕事の2つに分かれる。一日の中でルーティンがあって、朝はこれをやって、昼はこれをやってと手順が決まっているものはルーティンワークと呼ばれる。それらは、はじめからスケジュールが引かれているので、基本的にはそのやり方に従ってやっていけばいい。

しかし、まだ一度もやったことがない仕事はいわゆる「プロジェクト」に分類される。そういった仕事の場合は、まだやったことがないため、時間軸は設定されていない。なので、「まあ、とりあえずいまできることをやっていこうか」と適当に手をつけがちである。

ゴールから逆算して、この時期までにこれができていないといけない、それをするためにはこの時期に……、と思考していくのは、人間の本能的な思考に反するのだろう。

取り扱うタスクが具体的なものであったとしても、「時間」という抽象的なものを扱っているので、非常に抽象的な思考なのだと思う。これは訓練しないと身につかない能力だと思っている。
 
時間軸のある思考は頭の中でやりにくい、ということもある。ふだんテキストベースでものを考えている人も、スケジュールを引くときだけは多面的にものを考える必要がある。そのためには、頭の中よりも紙とペンを使ったほうがやりやすいだろう。A4の紙に線を引いて、このときまでにこれをやる、と書き込んでいくほうが効率がよい。

自分の頭の中である程度整理できていたとしても、周囲の人を巻き込むためには、それを周囲に提示していかないといけない。その意味でも、ちゃんとそれをドキュメントに起こす能力が必要になる。

これはできる人とできない人の差がはっきりしている。できない人は一生できない。常に行き当たりばったりで、「これやらなきゃ!!」で生きている人は、一生そのような人生を送るのだろう。

20代前半の頃、とある会社にコンサルティングに入ることになった。といっても、コンサルティングが本業というわけではなく、同業者の業務改善のプロジェクトが立ち上がり、そのメンバーとして参画することになったのだ。

当然自分が一番の下っ端である。自分の会社だけでなく、ほかにも数社、ステークホルダーが参加するプロジェクトだったが、そこに招集されたメンバーは基本的には若手が多かった。

とりあえず会議室でキックオフが行われたのち、どう動こうか、という話になった。与えられた期間は三日間。なんとなく「とりあえず手をつけられるところから手をつけていこうか」みたいな空気になったとき、ある大手企業の人が「待った」をかけた。

「こういうのは、最初に粗々でいいからスケジュールを引くことが重要なんです」と叫び、ホワイトボードを引っ張ってきた。そして、真っ白なホワイトボードに2本線を縦に引き、上に「1日目」「2日目」「3日目」と書いた。

さらに、中央に横線を引き、その横に「午前」「午後」と書いた。突然、ホワイトボードに6つのマスが登場した。そして、「ここに、やるべきことを書いていきましょう」と言い、ひとつひとつのタスクを議論しながら書き込んでいった。

いったんそれが即席のスケジュールになった。昼休みや業務後などの区切りで進捗を見直し、修正していった。

最初に立てたスケジュールは仮のものにすぎなかったが、その粗々スケジュールがなければ、いま何をしなければならないのかもわからず、行き当たりばったりで動くしかなく、成果物もひどいものだっただろう。最初にスケジュールを引くことの威力を思い知ったエピソードである。

何度も言うが、これは訓練で身に付くものだし、訓練でなければ身につかないものである。普通に生きているだけで自然と身に付くものではない。「できる人」は、おそらく受験勉強などを通じてこれを身につけるのだろう。受験勉強も、一種のプロジェクトのようなものだからだ。

「タスクを漏れなく管理する」といったタスク管理能力ともまた違う。「時間軸」という概念とタスクが組み合わさったものなので、より複雑だ。

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