見出し画像

読書感想文にかえて:佐野恵太さんが活躍できていないのはなんらかの陰謀かもしれないって話なんだよね!

ヘッダー


はじめに

 先日、こんな気合の入ったnoteが投稿され、ベイスターズファンダムで話題を呼びました。

 まずはそちらをお読みいただきたいのですが、その中にこんな一節があります。

故にオースティン離脱後は佐野恵太が主に代役を担っていますが、正直言ってしまうと彼がだいぶ厳しいところに居ます。元々本質的には守備評価が相当悪く、打撃でかなりのプラスを作りながらそれをほぼ全て守備のマイナスで吐き出すような形になっていましたが、昨年からの打撃不振により、ただ守備でマイナスを献上してしまうだけの苦しい立ち位置に。守備範囲面の課題などが顕著に現れている形です

https://note.com/epipharinsyan/n/n6a4bb8658533

 悩める我らの前キャプテン、佐野恵太選手についての評です。なかなか辛辣な言い方ではあるものの結果だけ見れば実際その通りなのがかなしい。

 元記事では代替選手を誰にするというような議論に進むわけですが、それよりも「佐野選手になにが起こっているのか?」が個人的には気になりました。3年間安定した成績を残していた割にはいくらなんでも打撃成績が落ちすぎの感があります。百歩譲って昨年の不振は下振れとしても、今年は逆に揺り戻して上げてくると思っていました。しかし、なかなか上向いてこないのは皆さんもご承知のことかと思います。
 贔屓球団は勝ってくれるに越したことはないですし、用兵がおかしいのなら改善はしてほしいわけですが、とはいえ佐野選手を外せと一刀両断してしまうのもファンとしてはやはりさみしい。
 そこで、佐野選手のこれまでを振り返りつつ、どこかに復活の兆しが隠れていないのかを考えてみようというのが今回の趣旨になります。先に紹介した記事の感想文のようなものでもあります。


佐野選手のこれまでを振り返る

 まずは佐野選手がスタメン定着後の20年シーズン以降の成績を概観してみます。

 基本成績はNPB公式記録より、ゴロ/フライアウト数、本塁打の方向はプロ野球ヌルデータ置き場様より引用させていただいております。
 こう見てみると22年までと23年からの落差にやはり驚かされます。四球率や三振率などを見るとそれほど大きな変化はなく、なんなら今年が一番優れているとまで言えてしまうのは逆に驚くところかもしれません。
 ここからは、いくつかの数字についてさらに詳細に考えてみることにします。

1.babipについて

 いやめっちゃ高いな20,21,22年、というのが第一感。最近割と広まっている印象のある指標ですが一応説明すると、バットにあたってインプレーになった打球がヒットになる確率をbabipと呼びます。一般に3割前後になるとされていることから、下振れている打者を見つけてはポジるのに使われたりしていますね。とはいえ巧打の選手のbabipが高く出るのはそれなりにある話で(というかそうじゃないと基本的に打率高くなりませんからね)、わかりやすいところで言うとイチロー選手なんかはキャリアを通じて高いbabipを記録していました。現役だとホークスの近藤健介選手や柳田悠岐選手も通算で高い値を記録し続けています。以下参考記事。

 佐野選手も巧打の選手ですから高止まりしていたこと自体に違和感はありませんが、運の要素が大きい数字ですから収束してしまうときが来るのは仕方のないことかもしれません。
 一応要因として考えられるのは、いわゆる「佐野シフト」の影響でしょうか。例えば前の3年間では引っ張り意識の打球がヒットになる確率が高く、逆に「佐野シフト」が浸透した昨年からはヒットになりにくくなった、というような可能性です。このへんは昨年からシフトが禁止されたMLBのデータを確認すれば確かめられそうですが本題から外れそうなのでまたの機会に、というかもう誰か調べてそう。
 ※5/4 追記:そりゃ当然調べてるというか、そもそもシフトの有用性は内野を抜けるヒットが減る=babipが下がることなんだから論ずるまでもないことでした。古い記事にはなりますが一応MLBでシフトが引かれだしたころの記事を貼っておきます。やはり左の鈍足中距離バッターはかなり大きく影響を受けそうで、その上佐野選手は引っ張った打球と低弾道のゴロが多めなのでそれはもう大変なことになるか。
https://tht.fangraphs.com/tht-live/expanded-2013-infield-shift-data/


 話を戻して、3割を大きく超えるbabipは翌年以降収束することが多いわけで、実際佐野選手も23,24シーズンはbabipが3割を割り込んでしまいました。それまで上振れていたのがその分下振れたということでしょうか。


2.ホームランについて

 先程までインプレーの話をしていましたが今度は合法ボールデッドについて。守備とは関係ない唯一のヒットですから当然babipとも無関係なホームラン。運の要素は比較的少ないはずなのですが佐野選手は昨年ホームランが激減、また今年も4/30時点でホームランはなし(一応オープン戦ではエスコンフィールドで伊藤大海選手のカーブを打っていますが)と苦しんでおられます。とはいえ数値を見ると昨年も引っ張り方向には21年程度に打てており、逆方向やバックスクリーンへのホームランが減ったことが原因でしょう。まあ柵を超えればなんでも同じですから逆方向のホームランが減ろうが個人的にはどうでもいいのですが、引っ張ったホームランも22年に比べると減っていたのが23年の佐野選手。
 一般に打者の成績は28歳ごろがピークで、30歳を超えたあたりから下降していくとされています。それを考えると衰えるにはまだ早いはずなのですが、22年オフの肘の手術や、あるいはハマスタウィング席の影響……原因がなんであれここは明確に心配なところです。

 話は少しそれますが、アメリカの著名なセイバーメトリシャンであるTom Tangoがちょうど年齢曲線の分析を行っていました。当然MLBのデータにはなりますが参考としてリンクを載せておきます。ここ2年の佐野選手は肉体的全盛期のはずであるということの理解の助けになるかと思います。

https://twitter.com/tangotiger/status/1782567405417288161

 



✞陰謀論✞

 さて、ここまでお読みいただいた賢明な読者のみなさまはもう敏感に陰謀のにおいを感じとっていることでしょう(?)。
 そう、昨今叫ばれる「投高打低」「飛ばないボール」問題です。

 実はセ・リーグ平均babipは22年から、11,12年シーズンのいわゆる「違反球」時代に次ぐ低さになっています。なんなら今年は4/30時点で違反球時代を普通に下回る.284しかない。20年シーズンは.300、21年シーズンは.296とそれまでのトレンドを大きく外れない値だったのですが、22年に突如.291に下落。そのまま低いな~と思っていましたがリーグ全体で下振れていた可能性もあったため黙って見ていたら回復することなくこんなところまで来てしまいました。
 また9イニングあたり(≒各チーム1試合あたり)に何本ホームランが出るかをはかったHR/9も違反球時代に次ぐ低さ。とは言えこれは加藤良三さんが最強すぎるのでその頃に比べたら1.5倍くらいの数値ではありますが……

 手前味噌ですがまとめていたので貼っておきます。基本スタッツはNPB公式記録より算出し、残塁率LOB%はプロ野球ヌルデータ置き場様のものを引用させていただいております。

 つまり、佐野選手はヒットならびにホームランの出る確率が急落したトレンドの影響をもろに受け、下振れを超えた下振れをしているのではないか?ということを筆者の頭の中で某Mr.都市伝説が叫んでいます

 しかしNPBがそんな陰謀と計略を張り巡らせるでしょうか?いや、そんな能力があるかというほうが近いかもしれません。

 では誰が?そう、これはディープステートの陰謀なのです!!!

 ……飽きたのでこのへんにしておきます。



与太話抜きのまとめ

・佐野選手は23年シーズンからヒット、ホームランともに激減している
・ヒットが減るのは運の要素もあるかもしれない
・しかし30歳になってもいない段階でホームランがここまで減るのは違和感がある
・かなり高い確率で何かしらの問題が発生している
・ヒット、ホームランの減少はともにNPB全体のトレンドの影響を平均より強く受けている可能性は捨てきれない
・22年オフの肘の手術など佐野選手の個人的イベントが原因になっている可能性もあり、正直具体的なことはわからない
・とはいえその課題が解決されないままに1軍出場を続けるのは守備の貢献なども含めるとなんとも言えない

 一般的な話として、安定した成績を数年間継続して残していた選手は次年度以降も安定した成績になる確率が高いとされています。なんの原因もなくあそこまで成績が下がるか、もっと言えばホームランがあんなに減るか?という疑問を抱かざるを得ません。
 昨年の佐野選手に何が起きたのかを一介のファンが知ることはできないでしょうが、今年もここまでの成績からはそのインシデントが解決されないままになっているように見えてしまいます。実績を重視するあまり、課題解決の機会を与えない組織運営は健全なことではないなあ……と個人的には思ってしまいます。

 余談ですが、佐野選手の今シーズンの不調の原因を23年秋口の有鈎骨骨折に見る向きが一部であるようですが、これにははっきりと異を唱えさせてください。これまで見てきたように、23年春先からの傾向が続いているのが今年の佐野選手ですから骨折が原因だとしたら去年はなんだったんだということになってしまいます。え?開幕戦で空飛んだ影響?そうかもね……



おわりに

 順調に行けば今年度FA権を取得する佐野選手。とはいえこのまま行けば契約の規模は22年までに想定されていたものとは大きく異なってきてしまうことでしょう。球団サイドからしたら安く買い叩けるためこのままでもいいのかもしれませんが、そこまでくると本当に陰謀論になってしまうので邪推は止めておきます。

 23年シーズン8/6の阪神戦、1点ビハインドの1アウト2,3塁の状況で三浦監督は佐野選手に代えて楠本泰史選手を送りました。賛否はいろいろあるでしょうが、個人的には明確によくなかったと考えています。そもそも佐野選手は引っ張ったゴロが多い選手なんだからそのまま立たせたら1点入って同点なる確率高かっただろというミクロな試合単位での話もありますが、それ以上にドラフト9位から打撃で立場を確立した佐野選手に対してかなり厳しいアピールだなということ、そしてその後休養を与えたり再調整の機会を与えたりしなかったことが個人的に引っかかっているポイントです。キツい叱り方をするだけでパフォーマンスは上がるのでしょうか。まあ筆者は24年開幕戦での度会隆輝選手の3ランホームランで三浦大輔監督を一生崇拝することになりましたのであくまでも畏れ多くも奏上する諫言でしかありませんが。


 左翼や一塁で若手を試せという意見ももっともですし、個人的にもそのように思う部分はないではない。ですが、期待に値するだけの素晴らしい成績を3年間残していたのですから、佐野選手の打力の復活に夢を描くこともまた間違いではないと思います。
 いちファンができることはほとんどありませんが、せめてなるべく早いデスターシャを、と祈りながら、このあたりで筆を置きたいと思います。ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。



参考資料


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?