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小説「わたなべなつのおにたいじ」⑬

 「ただいまー」

 考えていたよりも早く、母が帰って来た。

 「お帰りなさい!」

 珍しく玄関まで出迎えに出た娘を見て、母は驚いたらしい。

 「どうしたの? 珍しいわね。」

 そう言いつつも、まんざらでもないようだ。二人で部屋へ入り、私は母の夕食を準備する。準備と言っても、スーパーで買って来たお惣菜をレンチンして、みそ汁を温めるくらいのことだけど。リビングでテレビを見ていた鬼丸が期待の眼差しでこちらを見ていたが、私は首を振り、鬼丸の分はもうない、と目顔で告げた。

 「学校は、どうだった?」

 部屋着に着替えた母が、コピー用紙の束を持ってダイニングに入って来た。私は学校での一連の出来事を母に伝え、母の笑いを誘った。

 「それは、大変だったわね。そっか、博正君はやっぱりモテるか。」
 「もう、大変な騒ぎよ。それで、お母さんの方は?」
 「そうそう、今日は最初の一冊を形にできたんだけど・・・。」

 そう言って、母がコピー用紙を手渡してくる。まるで、毛虫が這いずり回った跡のような記号が、ずらずらと書かれていた。

 「何、これ?」
 「サンスクリット語っていう文字なんだけど、まったく読めないの。元々、暗号的要素の強い言語ではあるんだけど、文字自体もかなり古い物なのよ。」

 「お母さんでも読めないの?」

 「そうね。見覚えのある形はあるんだけど、それが今の読み方で合っているかどうかがわからないから、一つ一つ解読していくしかないわね。」

 私は、正直がっかりした。学校で何も進展がなかった分、期待していたから。それから、母から湯浅さんと上椙さんの話を聞いた。どちらも信用できるし、この手の作業なら日本でもトップクラスの精確さを持っているらしい。大学で隙を見ながらの作業になるので、ある程度の時間は掛かりそうだったが、いずれ必ず作業は終了するはずだ。

 「とにかく、気を付けてね。」

 私はそう言って、それから世間話を少しして、鬼丸を連れて二階へと上がった。

 「そう落ち込むでない。何も進んでいないようで、しっかり前へ進んでいるはずじゃ。明日、清明に見てもらうと良い。」

 「ありがと。鬼丸って、刀の精って言うけど、かなり人間味あるよね。こうやって慰めたりしてくれるし。」

 「そうかの? まあ、いろいろ見て来ているからのう。知らず知らずのうちに、身についてしまったようじゃの。」

 言いながら、鬼丸は部屋の床にごろんと横になる。

 「ねぇ?そういえば、ソフトクリーム好きなんだよね?」

 むくりと起き上がり、こちらに向き直る。

 「ぅん? うむ、好きじゃ。大好きじゃ。」
 「じゃあ、明日は博正の部屋に行く前に買っていこう。」
 「まことか!久しぶりじゃのう!ばにらで頼むぞ?」
 「わかった。」

 それだけのことだったが、鬼丸はとても嬉しそうだった。こんなに喜ぶなら、今日買ってあげれば良かった。部屋の明かりを消して、寝る体制に入る。今日はなんだか、心がポカポカして、よく眠れそうだった。

翌日、学校では特に変わったことはなかった。「博正フィーバー」は継続しており、上級生や下級生まで噂が広まったせいか、廊下の人だかりはむしろ昨日より多いくらいだった。下校時のホームルームの時間、さすがに看過できなかったのか、教頭から異例の全校放送で校内でみだりに騒いだり、特定の教室や人物の周囲に集まらないように、と指導があり、明日以降は教室移動や部活動の連絡など、特段の用件のない生徒は他クラスへの入室を禁ずる、ということになった。騒がしくなくなるのは歓迎だったが、私たちの情報収集にも制限がかかる。

 学校から帰ると、私服に着替え、昨日のプリントアウトを持って博正のマンションに向かう。ちょっと遠回りして、鬼丸のためにソフトクリームを買った。そのまま人気のない路地裏に入り、狭間から手だけを出した鬼丸にソフトクリームを手渡す。

 マンション前に人だかりはなかったが、私は念のために一旦地下駐車場に降り、そこからエレベーターに乗った。

 博正の部屋に入ると、清明がすでに着いていて、二人で父のスーツケースの中身を検分しているところだった。鬼丸もすぐに出てきて、興奮した様子でソフトクリームの美味しさを清明や博正に力説して、二人の笑顔を誘った。

 「博正が例の『鬼祓』が気になるらしくてな。ちょっと触らせてたところだ。」

 清明もそう言いながら、自分も例の豪華な首飾りを手にしていた。

 「うん、やっぱり、こっち方面から調べていかないとダメかも。これ見てみて。」

 そう言って、私は例のプリントアウトの束を清明に差し出す。清明はそれをいろいろ角度を変えて見ていたが、文字を読むどころか、どちらが上なのかもわからない様子だ。

 「なんだ、これ?中東の文字みたいだな。」

 「サンスクリット語って言うんだって。でも、今と文字の形がかなり違うみたいで、お母さんでも、解析を手伝ってくれた人でも読めなかった、って。」

 私はそこで、あらためて昨日母から聞いた話を清明に伝える。博正は笛に夢中で、話を聞く気はないらしい。

 「残りの冊子も、こんな感じかな? これ、読める人実在するのか?」

 清明はプリントアウトをパラパラとめくって、ため息を吐いた。清明も期待していた分、ショックが大きいようだった。今、眼前に広がっている品々についてのヒントも、この冊子にあるということだったので、それはつまり、こちら方面からのアプローチもうまく進まないことを意味する。

 私が暗い顔をしたのが気になったのか、清明は努めて明るく、こう付け加えた。

 「まっ、こうなったら適当に触ってみるしかないかな。博正も気にしてるし・・・。」

 途端に、それまで無関心だった博正が反応を見せた。

 「これ、吹いてみていいの?」

 「じゃあ、ちょっとだけね。少しでも異変を感じたら止めてね。鬼丸も、何か感じたら声掛けてくれる?」

 鬼丸はソファに座って足をパタパタさせながら、了解の印に手を挙げた。

 すぐに、低音から高温の音階が博正の手で奏でられた。音階の幅はだいぶありそうだった。博正は指の位置だけでなく、口の当て方や笛の角度をこまめに調整しながら、笛を吹き続けた。そのまま数分、博正が吹くままに吹かせているが、異変は起こらない。鬼丸を振り向いてみても、首を振るばかりだ。

 「なんか・・・確かに音色はきれいだけど、これもただの笛っぽいね。」

 小声で清明に耳打ちすると、清明も苦笑いを浮かべてうなずいた。ようやく博正が笛から口を離し、驚きの目で手の中の笛を見る。

 「これ、すごいよ!デタラメに吹いただけだけど、4オクターブは出そうだ!」

 博正は興奮して笛の説明を始める。口を付ける口孔が2か所あり、角度が少し違うらしい。指孔も全部で12あり、もしかしたらそのうちの一つは口孔かも知れない、ということだった。一般的な龍笛でもなく、古今東西、こんな特殊な笛は見たことも聞いたこともない、と言う。さすがに音楽や楽器については、博正の知識は確かなものだろう。

 「すごい笛」なのはよくわかったが、これがこれから始まる鬼退治に、どのような役割を担っているのか、知りたいのはそこだ。父が法を犯してまで手に入れたのだから、何かはあるはずなのに、それがわからないのがもどかしい。

 「じゃあ、俺はこっちを試してみるか・・・。」

 そう言って、今度は清明が首飾りを手に取る。サイズ的には、男性物のような気がする。いわゆる止め金具はついておらず、鎖の端についている球状の金具を、もう一方の受けの金具にはめて首に掛けるようだ。清明が不慣れな手つきで首飾りを首に回し、パチンと音を立てて金具がはめこまれた。サイズ的には、清明でも少し大きめな感じだった。中央の星型の金具が、鳩尾近くまで来ている。

 「・・・どう?なんか、感じる?」

 博正が聞いた。

 「・・・いや・・・特に・・・何も・・・。」

 清明はそう言いながら、しきりに目を瞬いたり、室内をあちこち見渡したりしていたが、やがて不審そうに掛けていたメガネを外す。

 「待て!嘘だろ!視力が元に戻ってる!」

 言いながら、メガネを掛けたり外したりしていたが、やがて確信したようだ。

 「うん、間違いない。メガネなしで、ハッキリ見える!」

 そう言うと、清明は首飾りを外そうとした。これがこの首飾りの効果なのか、確かめようと言うのだろう。だが、どうしても外せなかった。やがて私と博正も加わって、二人がかりで試みたが、やはりびくともしない。球状のものが、6本爪の籠のような金具にはまっているだけなのに。

 「ダメ。どうしても外れない。」

 「油かなんか、ないのか?滑らせたらどうだ?」

 清明が提案するが、油などない。スマホで検索すると、ハンドクリームが有効と書いてあった。それなら持っている。だが、結果は同じだった。『外れそうに』すら、ならない。3人とも、嫌な予感がしてくる。RPGなんかだと、これはつまり『呪われたアイテム』という結末が待っているパターンだ。

 その後も、熱してみたり、冷やしてみたり、金具以外のチェーンの部分をペンチで切ってしまうことまで試してみたが、いずれもダメだった。ほんの2~3mmの鎖が、どうしても切れない。

 「これは、やっぱり・・・。」

 博正が口に出すべきでないことを言い出しそうだったので、私は慌てて提案した。

 「ちょっと!ひとまず落ち着こう!もっとよく見てみるから、清明、一旦座ってくれる?」

 ソファに腰掛けた清明の後ろに回り、金具の部分を持ち上げようとした時、清明がいきなり前に倒れ込み、私の両手は空を切った。

 「な、なによっ!」

 清明の様子を確かめようと覗き込むと、清明がプリントアウトを手にしていた。よく見ると両手が小刻みに震えている。

 「ど、どうしたのよ・・・。」

 明らかにおかしな清明の様子に、私は不安を感じた。

 「よ、読めるんだよ・・・。意味が、わかる!」

 「えーーーーっ!」

 私と博正の声が、室内に響いた。

 清明はその後も一心不乱に、という感じでプリントアウトを読んではめくり、あっという間に読み終えると、確かめるようにもう一度最初から読み直した。わたしも博正も、鬼丸さえもその様子に釘付けになる。こういうのを、鬼気迫る、と言うのだろう。声を掛けてはいけないような雰囲気だ。

 「完全に、読めた・・・。」

 清明はプリントアウトを手にしたまま、大きく息を吐いてソファにもたれかかった。自分でも信じられない、というような顔をしている。

 「で、なんて書いてあったの?」

 博正が声を掛ける。清明が明らかに消耗した顔してても、博正には関係ない。

 「・・・ああ、これは、インドの・・・マガダ国の記録だ。六本腕で赤い体の女の鬼が暴れ回って、王が派遣した600人の精兵を一人で全滅させた話だ。それを、一人の旅の僧侶が女の赤鬼を封じ込めて、王から国の4分の1を褒美にもらって、そこに巨大寺院を建てた、と書いてある。」

 「・・・すごい。これが、首飾りの効果?」

 「いや、それは分からないけど、まるで日本語を読むように読めるよ。ちなみに、誤字が一か所あった。ここだけど。」

 そう言って清明はプリントアウトの一か所を指差したが、私にわかるはずもない。

 「そ、そうなんだ・・・。この調子で、他のも読める、ってことかな?」

 「わかんないけど・・・そうだといいな。そうしたら大きく前進することになる。」

 清明は、そう言って首飾りに目を落とす。もう外したい気持ちはどこかに行ってしまったようだった。


 自分の研究室で、そわそわと落ち着かない気分で明日の講義の準備をしていた八重は、那津からのラインを読んで目を大きくした。プリントアウトの解読に成功し、それにはスーツケースに入っていた首飾りが一役買っているらしい、と書いてあった。

 「伊織さん・・・。」

 この結果をもたらした伊織に、その識見の確かさに、あらためて尊敬の念が沸き起こってくる。と、同時に、父親としての娘への愛に感動を覚えた。あのとき、あのリビングで、伊織は娘に後難を与える結果になってしまったことを詫び、何一つ父親らしいことをしてあげられなかったことを悔やんでいた。だが、その後難に立ち向かうための準備は確実にしてくれている。まだ数日しか経っていないと言うのに、那津も、その仲間たちも、ものすごい速度で成長しているのが、感覚でわかる。その種を撒いたのは、間違いなく伊織だ。

 「あなたができなかったことは、必ずやり遂げて見せるわ。那津と、私でね。」

 八重は、トートバッグを掴むと、地下へと降りる準備を始めた。


 「ほんとですか!? それは、すごいですね!」

 那津からの連絡を湯浅に告げると、湯浅も上椙も手を取り合って喜んでくれた。この子達にとっては、せっかくの大発見の機会をみすみす見逃すことになると言うのに、そういった思惑はまったく感じられなかった。

 「じゃあ、じゃあ、こっちもはりきってスキャンしないと、ですねっ!」

 上椙は相変わらずのはしゃぎようだ。研究に向き合ってる表情とのギャップがすごい。

 時間は早いが、今日はスキャニング作業を開始することにした。湯浅が他の研究室のスケジュールを確認してくれたおかげで、夜間を待たずとも作業ができる「隙」を見つけることができたのだ。今日は電力もサーバーも余裕がある、貴重な一日だった。明日はほとんど隙がなく、明後日は午前中に隙がある。

 二人の作業は、まるで二重奏を見ているような気分になるほど、息が合っている。これは、上椙の作業の速さが常識外れなためだ。通常、スキャン途中では調整の難しい位相コントラストを、まるで全て見通しているかのように指摘し、調整していた。そのため、撮影回数自体が極端に少なくて済む。もちろん、湯浅が上椙の指示を的確に実行する撮影能力を持っていることも、効率に大きな影響を及ぼしている。

 4時過ぎにスキャンを開始し、8時前には最初の防水バッグに入っていた8冊のうち4冊分のスキャンが終わり、プリントアウトの枚数は90枚に達した。漢字で書かれた物、わけのわからない記号が規則的に並んだもの、そして神代文字で書かれた物が2冊分。昨日分と合わせて、13冊のうち5冊の復元に成功した形となる。二人はまだ作業を続ける様子だったが、二人に濃い疲労の影を見た八重が作業を止めた。

 「あなたたち、もしかしたら世界一の技術者かも知れないわね・・・。」

 八重は感じたことを、素直に表現した。世界広しと言えど、4時間に足らない時間で90枚分のスキャンができる人間など、いるわけがない。

 「ねぇ、今日はみんなで飲みに行かない? もちろん、私がおごるわ。それに、いずれ必ずお礼もさせてもらう。あなた方には、本当に申し訳ない・・・。」

 そこまで言って、八重は嗚咽が抑えられなかった。自分のために、自分たちのために、彼女たちはこの偉大な功績を表に出せない。研究者として、その悔しさ、無念さは痛いほどわかる。それなのに、これだけ精力的に作業をこなし、疲れた顔ひとつ見せないのだ。

 「ちょ、ちょっと先生!やめてください!」

 深々と頭を下げた八重を、湯浅が慌てて起こそうとする。上椙は突然のことに、面食らっているようだった。

 「だ、だって!あなたたち・・・こんなに・・・こんなにすごいのに・・・。」

 「それは、先生のためだから、です。他の人のためなら、いえ、自分のためでもここまで集中はできないと思います。それに、私たちもしっかり経験を積ませてもらってますから、ご心配なく!」

 「そ、そうですよ!時代も紙質も様々、おまけに文字も見たことないのあったりして、この経験はこれからの研究に、大いに役に立つはずです!」

 「・・・ありがとう、ありがとう。」

 それから、なぜか3人で泣き疲れるまで泣き、結果、八重の家で宅飲みすることになった。さすがにこれだけの貴重品を持って、その辺の居酒屋に行くわけにもいかない。


  母からの連絡で、スキャン作業が大いに捗り、今日はその功労者を労うための食事会を催す、と言う。私たちにも合わせたいそうだ。

 「そういうことなら、家に来てもらえば?もしかして、ここにある品物のヒントを持ってるかも知れないし。」

 博正はとぼけているようで、時々こういう「ど正論」をかます時がある。数々の文物を見てきた研究者の目なら、確かに何かヒントになるものが得られるかも知れなかった。

 「いいの?じゃあ、それで連絡入れるよ?」

 こうして、博正のマンションに、我々4人と母たち3人が集合することになった。間もなく帰って来た3人は、抱えきれないほどの寿司とピザ、飲み物を抱えてやってきた。私たちはその飲食物の多さに度肝を抜かれたが、3人は博正の部屋の豪華さに度肝を抜かれたようだ。

 「ここに、高校生一人で住んでるの!?」

 挨拶もそこそこに、開口一番、湯浅さんが口にした言葉だった。驚きと羨望と、多少の妬ましさが入り交じった表情だ。上椙さんと紹介された女性の服装は、清明と博正には刺激が強過ぎただろう。私も驚いた。あれだけ穴だらけのパンツなら、履いてないのと同じだ。逆に、上椙さんは鬼丸に夢中だった。鬼丸が狼狽するくらい質問攻めにし、撫で回し、抱き締めていた。

 母は二人の凄さと、これまでの経緯を簡潔にまとめて話してくれた。こちらも、清明の首飾りについて報告し、博正が笛について説明を繰り返し、鬼丸は狭間に出入りして二人を驚かせた。

 「・・・実際に目にすると、やっぱり驚きますね・・・。疑っていた訳ではないんですが、全部本当の話、なんですね・・・。」

 湯浅さんはあらためて母を見つめ、母は黙ってうなずいた。上椙さんの方は、そこまでショックは受けなかったようだ。話を聞いてみると、実は子供の頃に鬼に出会ったことがあるらしい。研究に没頭していた父の背後にいたのだ、と言う。だから、母からこの話を聞いた時に、「やっぱり」と思ったそうだ。

 「科学が万能でないことを、科学的に証明する」

 これが、上椙さんが生きているうちにやりたいことなのだと言う。

 その後、食べたり飲んだりをしながら、本日分のプリントアウトを清明に見せた。思った通り、清明は全てのプリントアウトが「読める」ということだった。15分ほどでざっと目を通すと、漢字で書かれた物は「鬼祓」の数々の逸話を集めた話で、使用説明書のような意味合いがあると言う。記号の羅列は、今でいう楽譜だそうだ。そして神代文字で書かれた2冊は、清明の首飾りについてのものだった。記したのは、安倍晴明本人のようだ、と言う。

 「さらっと流し読みしただけだから何とも言えないけど、どうやら鬼と戦うための術が書いてあるみたいだ。」

 とうとう、本題である「鬼退治」に近い話が出てきた。嫌が上でも緊張が走る。そうなると、残りの古文書についても同様の内容の可能性がある。

 「これは・・・ますます本気にならざるを得ませんね・・・。」

 湯浅さんがそう言うと、上椙さんも力強くうなずいた。

 清明も博正も、顔つきが変わって来た。「鬼と実際に戦う」という現実が、ヒタヒタと確実に近付いている気がする。鬼丸だけはいつもと変わらず、日本酒を飲みながら、寿司に舌鼓を打っていた。


「わたなべなつのおにたいじ」⑬
了。


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