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八雲サロン「旅の楽しみは3+1〜『旅のことばを読む』刊行にあたって」における小柳淳氏と小山伸二氏のタッグ講演

八雲サロンで大学の同級生2人が講師を務めてくれた。題して「旅の楽しみは3+1〜『旅のことばを読む』刊行にあたって」。小柳淳さんは自らの著書「旅のことばを読む」について語り、小山伸二さんも書肆梓で刊行した自らの著書「コーヒーについてぼくと詩が語ること」について語ってくれた。

 旅行作家の小柳淳さんは、海外渡航122回(うち78回は香港)の強者。もともとは鉄道会社マンで取締役まで昇りつめ、旅行業やホテル業にまで携わった。一方でVisit Japan大使に任命され、日本旅行作家協会会員、NPO法人日本香港協会理事、香港巴士鐵路旅遊協會会長の顔も持つ。主な著書は『香港のりもの紀行』(1997年昭文社)、『現代の香港を知るKEYWORD888』編著(2007年三修社)、『香港ストリート物語』(2012年TOKIMEKIパブリッシング)、『香港路面電車〈トラム〉の走る街』共著(2015年春陽堂書店)など。尚、現在はジョルダンで旅の文章を連載している。

https://news.jorudan.co.jp/docs/news/detail.cgi?newsid=JD1657262654775

 もう1人は書肆梓の代表を務める小山伸二さん。辻調理師専門学校に勤務して、現在は食文化の授業を担当。立教大学の観光学部の兼任講師、日本コーヒー文化学会常任理事、食生活ジャーナリストの会副代表幹事の肩書き多数。一方で出版社・書肆梓を起こして代表を務め、詩人としても活動している。著書は詩集『さかまく髪のライオンになって』(書肆梓)、 『きみの砦から世界は』(思潮社)など。

1️⃣小柳淳「旅のことばを読む」(肆梓)。

https://www.amazon.co.jp/dp/4910260021/

①この本は著者が言うようにブックレビューである。しかしただの書評本と違うところは、著者自身の旅行や現地体験や調査と照らし合わせて書かれている点だ。そういう意味で紹介されている本と著者との対談である。特にディープな香港好き🇭🇰の著者が、感情を抑えて香港の歴史と今と未来を俯瞰する節は、連れ添った愛する人への抑えた想いのように感じられた。そして著者には旅行者である前に、その地の歴史への人としての矜持がある。例えばベルリンの壁や戦地だった沖縄に住んだこともないのに、沢木耕太郎「深夜特急」を無自覚な憧れでなぞったりする、旅をホイホイしてはいけないという節制が備わっている。そこが単なる行楽客とは違うところである。
②【本書に登場する本(抜粋)】金子泰子・文/金子敦・絵『イラン・ペルシア日記』Blood Tube /見市知『ベルリン 東ドイツをたどる旅』産業編集センター/山口文憲『香港 旅の雑学ノート』河出書房新社/邱永漢『香港・濁水渓』中公文庫/岸政彦『はじめての沖縄』新曜社/阿川尚之『どのアメリカ? 矛盾と均衡の大国』ミネルヴァ書房/高山博『中世シチリア王国』講談社現代新書/太宰治『津軽』新潮文庫/奈良文化財研究所『奈良の寺 世界遺産を歩く』岩波新書/井上靖『西域物語』新潮文庫/塩野七生『コンスタンティノープルの陥落』新潮文庫/J・ブノアメシャン『灰色の狼ムスタファ・ケマル ―新生トルコの誕生』牟田口義郎訳筑摩書房/陳舜臣『世界の都市の物語 イスタンブール』文春文庫/司馬遼太郎『北方の原形 ロシアについて』文春文庫/白石隆『海の帝国 アジアをどう考えるか』中公新書/本渡章『鳥瞰図!』140B/田中克彦『ことばと国家』岩波新書/町田和彦『図説 世界の文字とことば』河出書房新社/柴田武編『世界のことば小事典』大修館書店/塩野七生『ルネサンスとは何だったのか』新潮文庫/田澤耕『物語 カタルーニャの歴史 知られざる地中海帝国の興亡』中公新書/ジョージ・オーウェル『カタロニア讃歌』橋口稔訳 ちくま学芸文庫/小山靖憲『熊野古道』岩波新書/髙森玲子『熊野古道巡礼の旅 よみがえりの聖地へ!』説話社/梅原猛『仏教の思想』角川書店/デール・S・ライト『エッセンシャル仏教 教理・歴史・多様化』佐々木閑監修、関根光宏・杉田真訳 みすず書房/ジョン・C・トーピー『パスポートの発明 監視・シティズンシップ・国家』藤川隆男訳 法政大学出版局/岩下明裕『入門 国境学 領土、主権、イデオロギー』中公新書/武部健一『道路の日本史 古代駅路から高速道路へ』中公新書/サイモン・ガーフィールド『オン・ザ・マップ 地図と人類の物語』黒川由美訳 太田出版/『スペイン旅行記 カレル・チャペック旅行記コレクション』飯島周訳 ちくま文庫/鶴見良行『マングローブの沼地で 東南アジア島嶼文化論への誘い』朝日選書/山崎まゆみ『ラバウル温泉遊撃隊』新潮社/沢木耕太郎『深夜特急』新潮社/『おくのほそ道 付曾良日記 奥細道菅菰抄』岩波文庫/川本三郎『「男はつらいよ」を旅する』新潮選書。

2️⃣小山伸二さんの著書「コーヒーについてぼくと詩が語ること」(肆梓)。

①「書肆梓」という出版社の書肆は書店という意味で(お酒の店は酒肆)、梓は自分の息子の名前でもあり、本の版木が梓の木から作られていることから、本を出すことを「上梓」と呼ぶことなどが由来。始めた発端は、岳父(妻の父)の喜寿祝いで句集(俳句)を出したこと。それ以来、詩やブックレビューなど13冊の本を出した。本の流通については、書店に飛び込み営業したりして販路を拓いた。そのような試行錯誤が実って、八木書店という取次に口座開設のお声をかけてもらった。おかげで今は小柳さんの本も紀伊國屋書店新宿本店で置いてもらえている。一人出版社なので編集、ブックデザイン、資材調達、印刷進行、営業まで手配しなければならないが、支持してくれた書店や取次の方の厚意を思えば、続けてゆかねばならないと思っている。

②著者は日本コーヒー文化学会常任理事で、コーヒーの権威である。何しろNHK「チコちゃんに叱られる!」のコーヒー解説で出演歴があるほどである。本書も15世紀にイスラームの地で生まれたコーヒー飲用の発端から、現代までの歴史を文化人類学的に考察する。同時に古今東西の書物などから引用して、コーヒーが世界人類とどう交わってきたかをメンタルに浮き彫りにしている。そこには著者が詩人でもあることの強い影響が感じられる特色がある。もちろんコーヒーに関する知識の裏付けもあるから、コーヒーを立てる技術レクチャー入門としても貴重な書である。

https://www.amazon.co.jp/dp/4910260005/


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