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【エッセイ】体内に旬を取り込んでいく

 目が覚めて部屋のカーテンを開く。視線を窓の外にやると、昨夜、テレビで見た予報の通り、大粒の雨が勢いよく降っており、庭の草木は艶やかで軒先の田んぼの水面は無数の輪を描いては消え、を、幾度となく繰り返してる。無性に引き篭もって本を読みたくなる。 小川洋子著「はじめての文学」(出版・文藝春秋)を戸棚から抜いて早速机の上に広げる。出会いは職場の昼休みにふと立ち寄った図書館で、今日と同じ、空が薄暗い雲に覆われて腕時計で時間を確かめなければ、朝か夜かも、いまいち判然としない天気。水分で満ちた室内と、物語に漂う静かでどこか柔らかい空気とが重なり、没入した。以来、虜になってあちこち書店を探し回った末、本書を手に入れた。小説に限ったことでなく、じっと機会を伺い、作品ごとに相応しいタイミングで味わうのが、私にとっての贅沢である。夏には夏の映画を観るように、自発的に体内に旬を取り込んでいく感覚が気持ち良いし心が整う。

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