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PPP的関心【”注目の”社会実験@仙台駅前を見聞してきました】

先日、注目の社会実験(記事を書いている時点では既に終了していますが)の視察に仙台まで行きました。現地では仙台市役所や実験の準備事務局に関わった方々からご案内をいただきながら現地で過ごしました。今回のPPP的関心は視察で得た話から個人的な記録として記します。
*写真は社会実験エリアの様子(筆者撮影)。

注目の社会実験@仙台の概要

社会実験の概要は以下の記事を参照してください。

社会実験の内容は「交通規制」と「空間の利活用」。交通規制は、準備期間も含め、9月20日から10月13日早朝まで実施する。自動車・歩行者・自転車の交通量や人流のビッグデータを調査して、道路空間再構成の可能性や施設整備の必要性などを検証する。交通規制の間は、北側4車線を3車線に、南側4車線を1車線に減らす。一般車は通行止めにして、路線バスとタクシーのみ通行可能にする。タクシー乗り場は休止し、高速バス停は移転する。

新・公民連携最前線 記事より

仙台駅の駅前から伸びる青葉通り、バスやタクシーの発着エリアであり市民の送迎車が集まる駅前エリアの車線を「大幅に」減らし周辺交通(特に車の渋滞や利用者の利便性等)影響の程度や人流(エリアでの滞留状況)変化を確認、検証する実験でした。

改めて。社会実験について

そもそも実験するからには「仮説」があるはずです。
期待する効果は実際に生じるのか、誰が・どんなことを・どの程度行えば生じるのか、効果の程度が期待値と変わる場合にはどんな理由があるのか、取り組みと成果の関係にはどんな時間軸があるのか・・・などの予めの仮説を現場で確かめる取り組みが実験であるはずです。
(中略)
行政の判断や地域社会にとって良いサービスを提供したいと考えた民間企業の動機や行動は批判されるものではないと思います。
しかし、どんな成果を期待するのか?それは誰がどの程度行うべきかを実験した上で正式に公的サービスとして施策化を検討するのであれば、期待する効果を示した指標やその確認期間を示すことで、将来、他の事業者が自らの機会となるか?について判断できる情報を公にしないことは要らぬ邪推を生みかねず、実験としても不十分だと思うのです。

PPP的関心【実証実験。実験という言葉を使う理由と必要性を考えてみた】記事より

仙台の「社会実験」ではどうだったのか

当日のヒアリングからいくつか自分なりの整理を記録します(決して網羅的な情報とはいえません。その辺りはあらかじめ断っておきます)。

<目的の明確化と将来イメージ>
今回の社会実験は複数の地域課題の解消へのヒントを探るものである。
伺った地域課題の例としては、駅前の顔であり(利用価値としても)一等地であるエリアにもかかわらず、低利用(地権者の再開発計画が延期を繰り返す)・未利用(地元百貨店撤退後そのままになっている)な状態を解消して賑わいを回復・創出できるか。また、クルマ優先の構造から人が溜まる広場的な空間がなく3.11の際の教訓(一時避難所不足)も相まって人が歩き、留まるような空間を確保できるか。
例えば以上のような複数の課題を解いてゆくヒントを探りグランドレベルのあり方をどう再考するかが焦点である(それを実現した際に交通処理をどうするのかは表裏一体の課題)。

<官民連携において民間の力を引き出し活かす>
このあとのセクションでも触れますが、取り組みの過程における「対話」の頻度、内容という観点、この実験を推進にするチーム作りにおける主導的な役割を手放さなかったという点、これらのことからこのプロジェクト(社会実験)の実施過程において(組織的に意図していたかどうかは不明ですが)市役所が民間の持っている力を引き出し、その力をうまく活かしたと感じるプロセスであった。
民間の力を引き出したことが具体的に現れていると感じた箇所は、社会実験の空間の中にふんだんに現れている。緑(人工芝)の置き方、車道との境界の工夫(透過性や高さ)、センサーを用いた音響効果の広げ方などの五感を刺激する工夫、ストリートファニチャなどあらゆる箇所からグランドレベルの広場的な使い方=将来イメージを抱かせるの十分な面白さが出ていた。

<オープンスタイルな検証>
この車線削減による車にとっての道路空間の圧縮や社会実験エリア内で挿入したコンテンツ(物販や音楽、イベントなど)によって、交通影響(渋滞の発生頻度やその長さなど)や人流の変化ついてはカメラなどを用いたビッグデータ収集、人の滞留の様子や周辺商業の売上変化などは目視やヒアリングによる個別データとして収集する。個別データ収集結果の例として今回対象エリアに隣接するある飲食店で休日の売上が3倍になったという話を聞きました(人の往来増と滞留が周辺の事業者に好影響をもたらす、という仮説のもと実験エリアのコンテンツとして飲食サービスは提供しないと取り決めたことによる効果と考えられる)。
ビッグデータのような収集側の思惑に偏りかねない材料に加え、このような個別ミクロなデータや市民の評価をアンケート調査の実施を通じて「声」として把握、それも踏まえて結果検証を進める「オープンな」検証方法が採用されていると感じた。

「注目される」理由として考えたこと。

昨今、中央官庁も推奨し各地で計画・着手され始めるウォーカブルシティの推進のど真ん中ともいえる施策であること、駅前の一等地でかつ交通の要衝を対象にそれなりに広範なエリアで実験していること、実験エリアの外観や様子そのもの(デザインなど)が注目されるような景観であること。。。
など今回の社会実験が「注目される」にふさわしい理由としては以上のような点が挙げられそうです。
実は、個人的に上記以外に伺ったお話の中に別の背景もありそうだと思った点があります。

官民連携を機能させるヒントになる?仙台市のコミットとアジャイル型準備事務局の存在

先ほど紹介した記事の中でも「青葉通駅前エリアの検討に当たっては、仙台市に対し、「青葉通駅前エリアのあり方検討協議会」が提案や意見を出している。」とあります。この社会実験開始前から官民が連携したプロジェクトであったことがわかるわけですが、こうしたある意味オフィシャルな官民間の協議体とは別に、今回の社会実験が「注目を集める」ほどになった背景にある要因の一つに、実際の実験エリアの設えや18日間のコンテンツ計画を受け持った「準備事務局」というチームの存在があると思います。そして発注者の大元である市役所がその体制構築と事務局に参加したチームメンバーが持っている経験や能力を十分に引き出す彼らを主役にした運営方針の存在が大きかったのではないかと思います。
この話は今後他の自治体で社会実験に限らず官民連携のあり方のヒントになるのではないか、そう考えられる話でもあります。以下、箇条書きですが、私なりに整理をすると

チーム作りに注力
・社会実験のために契約したコンサルだけに任せず準備事務局の人選に関与
・その際「将来の主役(10年後の街の中心となる30-40代)」を用いる
・新しい取り組みである「姿勢」を見せるため過去の実践と違う人を用いる
チームの意識をそろえることに注力
・時間制約がある中でも「目的の共感」に時間をかける(今回は9月開始なのに5-8月までじっくりと目的・将来ビジョン議論をしていた)ことを許容する
アジャイル型運営を理解・許容する

(参考)アジャイル型開発 (抜粋)
人間・迅速さ・顧客・適応性に価値をおくソフトウェア開発。自己組織的なチームが対話の中で方向性・仮説を見出し、顧客へ価値を素早く届け、実践投入の学びから素早く改善をおこなう在り方に価値を置く。

フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

1ヶ月前にタイトルが決まったほど「目的た将来ビジョンの共感」に時間をさいて以降、いざ実装の段階では「人選」が功を奏してデザイナー、コミュニケーター、建築士などプロがその持てる力を発揮して細密な計画が練られ実装されていったが、それを許容したこと。

以上のように、市役所が大方針を決め協力者の力を最大限に発揮できる環境を作ることを通じでチームビルディングに関わったという点は、今回の実験に注目が集まった「隠れたポイント」ではなかったか、視察でお話を聞く中で感じたことでした。

視察記録としてはかなり雑な書き殴りで恐縮ですが、物理的にも空間的にも仙台の顔とも言えるエリアの将来の姿が楽しみになりました。


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