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製造現場は人生道場 ①ケンカで生産が止まる

さて、生産現場では、ケンカで生産ラインが止まることがあります。
でもこのことは、決して上には報告されません。
 
報告のしようが無いからです。
「週次生産報告会」のような場所で
「えー 昨日は2時間の生産停止。原因は、オペレーター同士のケンカ。なかなか派手な殴り合いだったので難儀しましたけども。再発防止策としてはそうですね。和やかなデザインの壁紙でも張り替えたいと思います。」
なんて話は出来ません。「設備不具合」とか、適当な理由を付けて誤魔化されます。
 
例えば私が出くわしたので言いますと。
 
生産設備のオペレーターがワンワン泣きながらしゃがみ込み、生産が停止しています。どうやら最初は些細な口喧嘩だったようです。オペレーターというのは、生産中はいつ何時も設備の側を離れることが出来ない仕事です。相手はそのことを分かったうえで、捨て台詞を吐いて足早に立ち去ったようなのです。

口惜しさを持っていく場も失ったオペレーターがしゃがみこんで、ワンワン泣いています。これをなだめすかして、生産に復帰してもらうのも私の仕事です。
 
あるときは、原料タンク室の中で、作業員がもうひとりの首を絞めているのを目撃しました。
一瞬私の思考は停止し、「こんな作業指示有ったっけ?」とかポカンと考えていましたが、3秒ほどで我に返り、二人を引き剥がしにかかります。
 
私はこのとき、男性二人を閉鎖作業空間に一日置いておくべきではない、という学びを得ました。
 
さて、私の担当していたラインに「瓶詰めライン」がありましたが、ここではこんなことがありました。
「キャップ締め工程」というのがあります。今は自動化されていますが、当時は手作業で、コンベアを流れてくる瓶に4人がかりでキャップを被せていました。
 
一見単純作業ですが、コンベアに並ぶこの4人にも様々な人間模様があります。
 
4人の並び方にも機微があって、実際にはそれぞれの作業量や疲労度が違うのです。
一番楽なのは上流側です。自分のペースに合わせてキャップを被せて行けばよいのです。
一番負担が掛かるのは下流側、4番目の人です。容赦ないペースで押し寄せる瓶を、一つも取りこぼさずキャップを被せなければなりません。
 
すると4人の中に、不公平感が生まれます。1番目の人と、4番目の人が、不満をぶつけあう傾向があります。私が気付いたときには、キャップを締めながらコンベアの両端で口喧嘩に発展していました。
 
コンベアの端と端で、怒号が飛び交いながら製品が出来ていきます。しかも、一日中のことですから、そのうち表現のネタが尽きて来るんでしょうね。「バーカ、バーカ!」と小学生低学年レベルです。
 
私はその時から、店頭でこの瓶製品を見かける度に、この時のことを思い出すようになってしまいました。
 
製造現場で起きる「ブラックなこと」は、お偉いさんにはお伝え出来ないので、その結果、現場の人間だけが「ブラックなこと」を背負って生きていくことになります。エリート入社の人はこういうことに触れる機会が無いので、「永遠にクリーンな人」として生きていきます。
 
現場の地面に立たないと見えてこない出来事の、印象深かった思い出を四回ほどに分けて、ご紹介したいと思います。


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