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製造現場は人生道場 ②全ヤクか半ヤクかよく分からない同僚のIさん

製造現場は、決してエリートの方が働きに来るところではありません。
ワケアリの人が多いです。現場で一緒に過ごした中で、特に印象的だった方の話を紹介したいと思います。
コンプライアンスが厳しい時勢ですがこんな時代もあったなあ、と。
四半世紀ほど経ってもう時効かな、と思ったので吐露するのですが。
 
一時期ペアでオペレーターをしていた人にIさんという人がいました。つい最近まで違法賭博店を経営していたらしいのですが、カタギの仕事をしよう、と思い直して工場に来たみたいです。
 
その時にラインで使用していた設備はちょっと複雑で、生産終了後に分解洗浄するだけで半日掛かってしまいました。他の作業員が帰ってからの作業になるので、私とIさんはいつも遅くまで二人きりになります。
 
私はIさんの半生に起きたエピソードを毎日のように聞かされることになりました。
 
「いやあ、何てったって違法に稼いだお金だから、強盗が入っても警察を呼べないわけさ。従業員には「変なのが来たらすぐに金を渡せ」と言ってあったんだけど、やっぱり来るんだね、包丁を持ったような奴が。電話を受けて駆け付けると、みんな真っ青な顔をしているわけよ―――。」
 
ある日は一緒に掃除をしながらこんなことを言います。
 
「警察にどうやって金を渡すか知ってるかい?」知らんがな。
 
工場があるのは日本を代表する工業地帯K市ですから、管轄は日本で最も組織ズブズブと言われるK県警です。
 
「警察に金を渡すときは、サービスエリアを使うんだ。互いに高速に乗って、通り道に立ち寄ったテイでサービスエリアで落ち合って、封筒を渡すとサッと行っちゃうのさ。」
 
Iさんと毎日掃除をしていると、私の人生に全く必要の無いムダ知識が増えていくのでした。
 
そんなことがあるものだから、キレイな人が住む世界に比べると免疫がつきます。こういう免疫耐性は管理者になってから役立ちます。部下社員からこんな相談を受けることがあります。
 
「パート作業員さんの○○さんですが、どうやら立派な和彫りがあるらしいんです。どうしたらいいでしょうか?」
私はこういう時にきっぱりと「構わない」と言います。それぞれの過去を背負いながら生きている。野暮なことを言うな。行動に問題が見られない限り問題無い。
 
逆に本当に問題がある場合は責任もって介入する必要があります。現場課長をしていた頃はよく係長の面々にこう言いました。
「叱らなければいけないのが有ったときは、俺を使ってくれよな。君たちは現場のみんなと信頼関係を築かなければならないから、言いにくいときもあるだろう。私が悪者になるのは、全く構わない。」
 
その歳になると係長たちも結構強面ですから、こう言われました。「課長結構です。自分たちで何とかしますから。それをお願いし始めると行列が出来ちゃうんで。」


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