2022年に読んでグッときた本12冊

大晦日の朝にふと思い立ち、ツラツラと書いてみる。まちづくりの仕事に携わる会社員が、育休も相まって移行期間っぽかった2022年一年で読んだ本の中から、まちづくり・ビジネス・思想・社会学の4ジャンルから3冊ずつ。

◆まちづくり系

1.ネイバーフッドデザイン

まちづくりの仕事に携わる身として思わず唸った一冊。
まちにおけるコミュニティの在り方をどうデザインするかと言う言語化しづらい領域を構造化しているのがスゴイ。しかも複数の地域で取り組んだ経験がベースになっていて地に足がついてる。全国で取り組んでいる人は多かれど、複数地域の経験と言語化体系化できる能力を併せ持つのは稀有だなーと思う。


2.政治学者、PTA会長になる

まちづくりにかかわる重要な存在でもある商店街町会について知ろうと簡単に一冊ずつ読んでたのだけど、その流れでPTAもと思って手を出した一冊。商店街より町会よりも、さらに「普通」な人々のやり取りがそこにはあり、また学校の構造的なむずかしさを知る。


3.スマート・イナフ・シティ

読書家の上司がオススメした1冊。ちょうど「まちづくり×テクノロジー」が役割を果たすべき領域について考えていた時期だったので、なにか喝を入れてもらった気分。考えるべきセンターピンはそこじゃねぇ!と。


◆ビジネス系

4.エンジニアリング組織論への招待

友人のオススメで手を伸ばした一冊。平たく言うとアジャイル開発なんぞという本でmixiの新卒一期生アーキテクトから執行役員まで進んだ著者だけど、エンジニアリング一辺倒ではなく幅広い知の体系から組織論としてまとめ上げられてる。ビジネスサイドの人間こそ読むべきと感じた。


5.発想法

三鷹の本屋UNITEで古本としてリーズナブルな値段で置いてあり、前々からKJ法の名前だけは聞いてたのでどんなものかと思って手を出したら面白くてあっという間に読んだ。
複雑なこの世界のものごとを理論から演繹的に分析するのではなく、その複雑なまま受け止めて統合していく姿勢が好き。著者は野外科学と名づけているけど、文化人類学のフィールドワークや参与観察が現在改めて注目されているのを考えると50年以上前から先取ってたんだなーと。


6.THINK AGAIN

話題になってた本(?)ということで手を出した。とても実用的だけど即物的すぎず、「謙虚たれ」という中心メッセージとともに、色々な場面で想起されるようなtipsを提供してくれる。


◆思想系

7.思いがけず利他

複数人から勧められて読んだ。利他というぼんやり捉えていた言葉に力強い輪郭を与えてくれた一冊。
利他的になるためには器のような存在になることが必要、利他は与えたときに発生するのではなく受け取られたとき、だから受け取られる未来を想って今を精一杯生きよう──、そんなメッセージを受け取り、人生観を強く揺さぶられた。


8.暇と退屈の倫理学

文庫化されたのを西荻窪のBREW BOOKSで見かけて思わず手を取った。退屈を3つの段階に構造化して、その原因を示すとともにどう在るべきかを論じた一冊。たどり着く境地としてアーツアンドクラフツ運動や民藝に言及するのも面白かった。
十数年前から「限りある人生で何を為すか…!」というある種の強迫観念を抱いていた自分に対して、落ち着けと声をかけてもらったような読後感。


9.なめらかな社会とその敵

8年前に一度読んでいたけど友人に貸したままになっていて、これまた三鷹UNITEで文庫化されていたのが目に留まり再度お迎え。
300年先を見据えた新たな社会構造を提案している本で、その中でも「分人民主主義」の考え方は好きだった。完璧な個人ではなく矛盾する複数の分人を抱える個人を前提とした民主主義。あと本論の趣旨とはずれるけど、以下のくだりがめっちゃグッと来た。

オートポイエーシスは、生命が結局のところ自己維持するネットワークに過ぎないと言っており、無限退行の問題を、生命は自分自身を維持するシステム以上でも以下でもないと言う自己言及性によって、目的と手段が一致してそれ以上さかのぼれないところを明らかにする。これによって自分が生きていることの意味が、生きていることの外部にあるのではないかと言う蒙昧な探求の旅から抜け出ることができるようになる。こうして生きていること自体が無根拠であり無意味であることを知り、かといってニヒリズムに陥らず、生きていることそのものに意味があり謳歌しても良いのだということを教えてくれる。


◆社会学系

10.チョンキンマンションのボスは知っている

年初から聞き始めたコクヨ野外学習センターというポッドキャストの影響で文化人類学に興味を持ち、ゲスト出演されていた小川先生の話題の本に手を出す。
香港を拠点にするタンザニア商人たちが、あくまで商売前提にして無理しないついでの範囲でお互い助け合う振る舞いを研究した一冊。個人的にはそこに現代社会へのアンチテーゼを見た思い。シェアリング経済との比較も面白い。


11.信頼の構造

チョンキンマンションを読んで不確実性を前提にするスタンスに触れてふと思い出し、久々に引っ張り出して読み直した本。
不確実性の高い世の中で、1信頼に値する公正な人間性を身につける、2他社の人間性を信じる、3他者の信頼性を見極める社会的知性を身につけるという3点セットの提言は24年経った今も色褪せない。


12.エネルギーをめぐる旅

前述の読書家の上司が2021年に読んだ100冊以上の中でNo.1と言ってたので年始に思わず買った一冊だったけど大興奮。
興奮っぷりとその内容は下記ツイートのツリーに譲るとして、一番グッときたのは人類の文明自体をエントロピー増大の法則になぞらえて「散逸構造」と捉えたところ。上で紹介した「エンジニアリング組織論への招待」や「生物と無生物のあいだ」(福岡伸一著)など、今年は色々な角度からエントロピー増大の法則に触れた。


以上、12冊の紹介。振り返るとやっぱり少し偏ってるから、2023年はもう少し未知の領域も手を出してみよう。

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