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近いようで遠い憧れの景色を君に


卒業おめでとう


3年間やり遂げた君に
お母さんは何かをあげたいな

けして欲張らない君に
何を贈ろうか

何だったら君が遠慮せずに
喜ぶだろうか


そ〜だなぁ〜
同じお金を使うなら
君があきらめた夢に使おうか

本当は
都会に出たかったことを
お母さんは知ってる

現状と憧れの狭間で
自分には
何が見合っているのかを考え


その夢をグッと心にしまい込んだことも
お母さんは知ってる



そうか!それなら今こそ
踏ん切りをつけ前に進み始めた君に
思う存分楽しんでもらうために
とびっきりの場所


大都会の景色を贈りたい




東京に行こっか


新幹線の車窓から迫ってくるビル群の景色
横に座る私にまで
君の緊張感とワクワクが伝わってくる。

東京駅に到着

ホームに降りた瞬間から
東京独特のなんとも言えない空気が押し寄せる
私はこの空気が好きだ

余韻に浸り少し勿体ぶりながら丸の内側から外へ

『うわぁーーーー凄いねーー』
高層ビルを見上げながら、久々の東京に私まで心が躍る



今の君に見せたかったのは
そう!この景色

来てよかった



買い物がしたいわけでもない
陽キャな若者で賑わうキラキラした場所に行きたいわけでもない


高層ビルがたち並ぶオフィス街を
サラリーマンのように颯爽と歩き
人の流れに乗り
その時間を楽しむ
そう


君の目的はただ一つ
都会に溶け込み一員になること



それには東京はピッタリだ



限られた一泊二日
特別な景色と時間を贈りたい


特別な時間を過ごすのには
宿選びは重要だ
いつものようになるべく安くではなく

部屋から大都会を見渡せる高層ホテル
条件をそれ一点に絞り
さらに追加料金で高層階を予約


エレベーターが33階で止まる
部屋のドアの前に立ち

〈お願いします。どうか🗼東京タワー側でありますように!〉
とピッとした。

残念…裏側だった

窓から見える景色は想像していたものとは違ったが



『十分すぎるよ!全然イイ!』

君のその言葉に
ホッとした




夜の街を
慌ただしく君を連れて歩く
眠らない街、東京をたくさん君に見せてあげたかった

『東京ってやっぱりいいね〜』

部屋の窓に広がる東京の夜景を見て
君は今
何を思っているんだろう
後悔は…ないのだろうか

高校の3年間
自分の特性に苦しみ、もがきながらも"普通”というものにこだわり続け
悩んだり立ち止まったり
心が悲鳴をあげた姿を何度も
お母さんは見てきた


『なぜ薬をやめたの?急にやめたらもっと辛く苦しくなるよ。先生は君に死んでほしくない。』
そう主治医Dr.に言われたあの時
しばらくの沈黙の後

『僕が飲んでいるは抗精神薬ですか?だったら…僕は飲みたくないです。"普通“ だったら飲まないとおもいます…頼りたくないんです…僕は死んだりしません』

あの時の
君の声も顔も
お母さんは忘れることはないだろう

それからの君の努力は凄かった


自分身体に流れている血をちょっとでもリセットできるならと献血デビューもした
(誰かのためでもあり自分のためにと言った君)

バンジージャンプのジャンプ台側から下を覗き込み
『もしも何もかもが嫌になった時は、またここに来てバンジーを飛ぶ!ここから飛ぶくらいの覚悟があれば何でも頑張れる気がするから』
(そう言って橋の上に立つ君の眼は下ではなく遠くを見ていた)

学校へ行く朝だけのルーティン。
イヤホンをつけ集中するその15分間は、まるで決戦場に挑むアスリートのようで、この時間だけは邪魔してはいけないと、私が1番気を遣った時間だ。
(君にとって高校は毎日が闘いの場だったんだね)

ベッドで眠る君と夜景を見ながら無事卒業できて良かったと思った

そう言えば…12年前
【失敗は成功のもと】この言葉は、この子には通用しません。失敗から何かを学ぶことは、この子には無理なことなのです。そう言われたことを思い出した

あの頃
君の将来のことを考えると毎日が不安で気がつくと涙が流れたけど

きっと大小は関係なく
私たちは日々何かにチャレンジしていて、そこには失敗や成功は必ずあって
喜ぶこともあれば
悲しく落胆することも当然あって
でも
ダメだった事にも必ず意味はあり
無駄なことなどなくて
学ぶことだらけなんじゃないだろうか………

今の私ならそう言えるのに………
無表情で天井を見上げている
あの頃の私に…
【この子はきっと大丈夫】そう言ってあげたいなぁ…
ウトウトとそんなことをおもいながら、いつの間にか眠ってしまった

早朝

もう一つの目的だった
タイムラプスをセットしている君


朝日が昇る方だったらよかった…
ぼんやりとそんなことをおもっていると君が手招きをしながら


『凄いよ!見て!』

『富士山が見える!!』


小声だけど弾むような声で
君が教えてくれた


『うわぁーー本当だーーー』


最後の最後にご褒美をありがとうございます


ありがとう
ございます


昨日は曇り空で見えなかった
そこにあることすら知らなかった

夜明けとともに
顔を出した富士山があまりにも
綺麗で
優しくて

涙が溢れそうになった


18歳で上京したあの頃の私もそうだったように
今の時代を生きる18歳の息子にとっても

東京は
近いようで遠い憧れの場所だ

もし君がこの景色を見て
後悔が押し寄せたり
憧れがさらに増したりしたなら

とっても人間らしく
とっても素晴らしいこと

だって
そういう湧き上がる感情
気持ちこそが一番大事なことで
これからの君の
生きる肥やしになる

お母さんはそんな気がするよ



あ〜〜
帰りたくないけどそろそろ帰ろうか

ありがとう
富士山
ありがとう
品川プリンスホテル

ありがとう
東京


君と見たこの景色を
お母さんは忘れないよ


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