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【雑感】2024シーズン開幕に向けて

CWCからまだ2ヶ月弱しか経っていないですがいよいよ2024シーズンの開幕が近づいてきました。今年も新監督が直近で指揮したチームの試合をいくつか観た上で、ここまでの監督や選手たちのコメントから今目指しているであろうことを観つつ、今季どのような内容の試合が展開されそうかを想像していこうと思います。


ヘグモさんが昨季まで指揮していたBKヘッケンの試合をいくつか観ましたが、先に話の前提にしておきたいことはヘッケンでやっていたことが今季の浦和が目指す正解ではないし、仮に同じようなことを目指していても自軍の選手、対戦相手、ジャッジの基準、気候、スタジアムの雰囲気など様々な条件が違うので同じになることは無いということです。これは以前別の場所で話したこともありますし、浦レポでお馴染みの轡田さんも折に触れて話していることになります。

これはリカルドが来た時に徳島と同じサッカーにはならなかったこと、スコルジャさんが来た時にレフポズナンと同じサッカーにならなかったことからも言えますし、岩尾が2022年に浦和に来て気付いたこととして「浦和レッズの中のリカルドのサッカーと徳島ヴォルティスのリカルドのサッカーは別物」「違う建造物を建てている」と話していたことでもあります。


それだけでなく、ヘグモさんが今季の体制発表の会見の中で「私は、強い『学ぶ文化』というものを作りたいと思っています。」という話をしていて、その言葉を真に受けるのであればヘグモさん自身も学んでアップデートしている部分があっても不思議ではないです。

また、ヘグモさんが連れてきたコーチのうち、マリオコーチはヘッケンで一緒にやっていたようですが、モルテンコーチはヘッケンにいた人ではなくFKボーデ/グリムト(ユンカーやホイブラーテンが所属していたクラブ)から来た人なので、それだけでもヘグモさんがヘッケンでやっていたこととは違いがあるだろうと考える方が自然だと思います。


ということで、今回はヘッケンの試合を観た印象からヘグモさんの志向のヒントを得つつ、その印象と浦和に来てからのプレシーズンでの色々なコメントを比較して共通点と相違点を考え、最後に今シーズン期待することを整理して行ければと思います。



1.ヘッケンの印象

ヘグモさんがヘッケンを指揮したのは2021シーズンの途中(2021年6月)から2023シーズンまでです。スウェーデンリーグは現在のJリーグと同じ春秋制のシーズンで、ヘグモさんは2021シーズンの8試合終了時点で1勝3分4敗という状態で就任しています。僕は2021年を2試合、2022年を3試合、2023年を2試合観ました。前任者の色が残っていたであろう時期から2年半の間にどれくらいチームが変化したのかが気になったのでこのような配分にしました。

恐らくヘグモさん就任前は4-2-3-1のような並びだったのだろうと思います。なので僕が観た2021年7月の試合は4-2-3-1でしたし、シーズン終盤の試合ではスタートは4-3-3になっていましたが、試合終盤には4-4-2にして逃げ切ったという展開です。ただ2022年以降は完全に4-3-3がベースになっていたので、やはりヘグモさんは4-3-3の配置が一番好みなのでしょう。


4-2-3-1がベースだった試合の保持では2CB+2CHでビルドアップを担っていました。CBが大きく開いたり、CHのうち1枚が下りたりしてSBが手前に引いてスタートすることはほとんどなかった印象です。CHが2枚留まるのか、1枚下りるのかは流動的でした。また、CHが1枚下りてきた時にはトップ下が1列下りてくることもありますが、SHが内側、SBが外側という役割分担になっていて4-2-3-1でのオーソドックスなやり方が採用されていました。

そこからシーズン終盤の4-3-3になった時にもアンカーの選手が1列落ちて、IHの2枚がヘソの位置に入るような並びになることもありました。この試合でもSBは手前に引かないので、ビルドアップは2CB+3MFで担うというイメージだったのだろうと思います。

この2試合で共通していたのは相手が5バックのチームだったということと、前者は5-3-2、後者は5-2-3ということで、ヘッケンのビルドアップ隊と相手のプレッシング隊の噛み合わせが良い状態だったことがヘッケンのCH、アンカー、IHのポジショニングに影響していたとは思います。

相手に掴まれているなら動いてどこまでついて来るか試したり、自分が動くことで相手をどかしてヘソの位置が空くようにしたり、そういう動きは見られました。また、SBが手前にいることがほとんど無いので、下から繋ぐのであればヘソの位置を経由してから前進して、そこが詰まっている(相手が前のめりになっている)のであれば前へ飛ばすという感じでした。


保持については4-2-3-1から4-3-3に代わって劇的に変化したかというとそこまでのことは思いませんでしたが、非保持はいくらかテコ入れされたのだろうという部分が見られました。

7月の試合ではSBが外に出た時のカバーリングをどう行うかが曖昧で、同サイドのCBが出張った時に空いた中央エリアに入ってくる選手はいないのでCB間がかなり割れやすい印象でした。また、4-4-2の3ラインではあるものの前列の選手のアクションに追随するような練度もあまりなかったので、チームとしてどうボールを奪うか、ゴールを守るか、というところの設定が薄かったように見えます。

それがシーズン終盤の試合では非保持が4-1-4-1になったこともあってか、先述したSBが外に出た後のカバーリングはアンカーが斜めに下りるのが第1選択として設定されていたように見えました。これによってゴール前でCBが割れにくくなっていました。

また、プレッシングもIHのうち片方の選手がCF脇へ出て行った時にはアンカーがその背中をカバーリングして2ndラインは4枚のまま維持出来るような状態が作れていて、プレッシングの時も撤退の時もアンカーの選手が中央から斜め前、斜め後ろへ移動することで穴を作らないようにしているように見えました。また、相手がCFの背中に人を置いている時にはそこを捕まえに出て行くようなアクションもあって、非保持でのアンカーの動き方は将棋の「銀」のようなイメージ。


2022シーズンになるとビルドアップでのSBのスタート位置が手前になるという変化がありました。ビルドアップ時にCBはあまり開かずSBもビルドアップ隊として振舞っています。また、前年はSBが外、SHが内という役割分担だったのが、SBもWGも外からスタートして、WGが状況に応じて内側にも入るという印象に変わりました。ピッチを出来るだけ広く使おうとしているようなイメージでしょうか。相手が4バックだったこともあって、逆サイドで張って待っているSHへ対角のフィードを飛ばすこともありました。

CBについては隣のSBが手前にいるという状況にはなったものの、その分前列が下りてくることが減ったので自分の前にスペースがあることは増えたと思います。味方との距離があるのでプレッシングを受けた時にパスを出すのは苦しくなると思いますが、保持者に対して複数の相手がまとめて寄せてくることは無いので、相手が出してきた矢印と違う方向に運んで状況を動かしてからパスを出しています。

これについては、ヘッケンでそういう指導がされているから運べているのか、そもそも彼らは子どもの頃から運ぶことが前提という環境で育っているのか分かりません。後者のような気もしています。少なくとも、試合に出ているCBはきちんと運べているので、運べないCBは起用されないのだろうという印象は受けました。

また、運んでいる間に周りもきちんと動き直しているというか、運んだことで相手も対応するために動くので、それに合わせてアンカーやIHが相手を留めたり、ゲートに顔を出したり、といったアクションを絶えず行っていることでCBが相手の矢印を受けても一旦運ぶことでプレッシングを回避出来ているということだろうと思います。


SBもWGも外からスタートするのでIHに用意されたスペースもかなり広いですし、アクションの可動域も広かったです。アンカーの脇まで下りてくることもあれば、SBとWGの間に入ることもあれば、ゴール前ではCFとWGの間からハーフレーン突撃したり、ボールと逆側にいればマイナスクロスに対応するためにゴール前に入って来ることもありました。かなり動いています。

このチームで一番ポジショニングやアクションの自由度、流動性が高いのはIHに見えましたし、ビルドアップではアンカーとIHが流れの中で入れ替わることもあるので、この3MFのボール扱いとアクションの質がチームの良し悪しに直結しそうな気配があります。


非保持は前年の終盤の試合と近い印象でした。ハーフレーン対策はアンカー、CBの優先順位で、プレッシングはIHがCF脇に出て行くのがスイッチです。ただ、ガンガン前に出て行くということではなく、相手のCBが持っている状態は許容しつつ、ボールが入ってきたところを迎撃してバックパスやリサイクルをした時に前に出て行くという感じでした。あまり無理はしていません。

プレッシングのスイッチはIHなのですが、左右どちらでもということではなくて前に出て行く選手は決まっていたように見えます。IHの2枚は片方が前に出て行く選手(トップ下タイプ)、もう片方が中盤ラインに残る選手(CHタイプ)という棲み分けがあって、前に出て行くIHがいる方のサイドのSHはプレッシングでは前に出ない、逆側は前に出るという違いもありました。

4-1-4-1の2列目の4枚は全員が前に出るのではなく、出るIH+出ないWG、出ないIH+出るWGといった具合で、この辺りはプレッシングが得意な選手も不得意な選手も使えるようになっていて良いなと思いました。これは保持でも出る、出ないの傾向があったので選手のキャラクターに合わせた采配なのかもしれません。

もう少し言うと、出ないWGの方は早めに外レーンで下がっていって、隣のIHとは距離が空きやすいのですが、そのゲートはSBが見ているので、縦パスは刺されにくい構造になっていたと思います。出る方のWGにしても撤退時は外レーンを下りていくのでWGは基本的に外レーンでの上下動が主なタスクなのだろうと思います。

また、CFは撤退守備は基本的に免除されていたように見えます。その分、中央前目にいるのでポジトラの時にはボールの預け先になれるような振る舞いが求められていたと思います。これは下りてきてポストになっても良いですし、裏に抜けて行っても良いという感じだったように見えます。プレッシングでも基本的には相手の方向付けがメインで自分から矢印を出していくことは少ないので非保持での負荷は軽そうです。保持で頑張る体力はきちんと残してあげているのだろうと思います。


非保持で2023シーズンまで通して気になったのはDFーMFのライン間をボールが横切ることが多かった点です。プレッシングも含めて縦方向へボールに対するアプローチは出来ているものの、チーム全体で相手を片側に限定するような動き方はあまり無かったと思います。

2023シーズンはそれまでに比べればWG、IH、SBが外向きに壁を作って侵入させないような並び方をすることはあったので出来るだけライン間にボールが入って来ることは防ぎたいと思いつつも、WGが外レーンを下りてくることで中央に人数がいて簡単にはライン間を横切られてもそこから崩されるということは少なく、前に行かれなければヨシという意識の方が強かったのかもしれません。


2シーズン半をかいつまんで観た感想としては、保持も非保持も4-3-3をベースにしていて、ポジション入替や保持と非保持での配置差が少ないのでトランジションの安定性は高いと思いました。高い位置でのネガトラについては、個人の対応の軽さから簡単に外されてしまう場面はあったものの、トランジション直後に誰もそこにいないといった状況はあまり無かったと思います。

また、保持では手前から繋ぐことも相手の背後や外に張ったWGまで飛ばすこともどちらもやっていたり、サイドからの突破の時はWGのカットインもSBとのコンビネーションも、IHのハーフレーン突撃の利用も準備されているので、明確にタスクを渡して選択肢は用意するからそこで最適なものをピッチ内で選んでね、というのがヘグモさんのスタンスなのだろうと思いました。ピッチ脇からあれこれ指示を出し続けているようなことも無かったと思います。

非保持はそもそも4-3-3(4-1-4-1)という並び方の特徴でもありますが、横方向より縦方向の矢印を出させる印象が強いです。2023シーズンの試合でCFが前半のうちに退場した時に、前半は4-4-1で対処したものの、後半から5-3-1に変更し、CF+2IHという4-1-4-1の時と似ている並びにすることでIHがCF脇を前向きに見られるようにしていて、外レーンもWBが上下動するのはWGに求めていたアクションに近づくようになっていました。

非保持で横方向に圧縮することが少ない分、ポジトラの時にはCFは勿論ですが、WGも大外から前に出て行こうとするのでボールの出し先が選びやすくなるようにしていたのかもしれません。

采配は観た試合の中では選手交代で盤面を変えたり、試合のポイントとなるエリアをずらしたりするようなことは無かった印象です。ただ、相手も突飛な戦術をしてくるチームが無く、オーソドックスな相手ばかりだったので試合展開を大きく動かすことをしなくても問題なかったこともあったと思います。


チーム全体としてはシーズンの頭から指揮をした2022年と2023年は大きな原則の違いはなく、個人のスキルによってチームに変化が出たような印象でした。ただ、非保持で2021年の就任当初に不明瞭だった撤退守備での動き方がシーズン終盤には修正されていたり、プレッシングの再現性が高くなっていたりと、「攻撃的」という触れ込みの監督ではありますが、ボールを保持するために相手からボールを取り上げるための設定はきちんと準備しているので、針が振り切れたような人ではないと思います。

保持、非保持の配置差が少ないので「攻守に切れ目のない」チームだったと思いますし、個人の能力だけでなくチームとして相手ゴール前に人数をかけて仕掛けていくスタンスなので全体的に「前向き、積極的」という姿勢も感じます。浦和のフットボール本部が定めたコンセプトに近いフットボールが展開されていたと言えるでしょう。

また、各ポジションのタスクは明確ですが、動きをパターン化している訳ではなく、相手に応じたアクション、選択をしているような印象を受けました。パターンではなく原則、優先順位の中から選ぶというのはフットボール本部体制初年度を率いた大槻監督からクラブが継続してきたことでもあります。

そういった点から、ヘグモさんが浦和のフットボール本部のスカウティングに引っかかったことは納得できますし、クラブとして継続性を持った編成をしていると評価して良いと思います。


ということで、ここまで見てきた2021年途中から2023年のヘッケンの印象を見てきました。文章だけではイメージしきれないところもあったと思いますので最後に図で整理しておきます。

ヘッケン(2021-2023)の保持の大枠
ヘッケン(2021-2023)の非保持の大枠


2.ヘッケンと浦和の比較

今季はチームの始動から浦和の選手たちのコメントのほとんどがクラブ公式も含めて有料媒体でしかまとまったものが公開されていない状態です。そのためコメントを直接引用はしませんが、ある程度のコメントの要約という形で整理していこうと思います。


まずは1月14日の新体制発表会見で監督自ら「4-3-3で攻撃的にプレーしたい」「ボールを保持しながらゲームをコントロールしたい」「相手が整っていない状態でいかに仕掛けられるかが大事」という全体像の話だけでなく、各ポジションに求めることを話しています。ここはチーム作りの前提になる部分なので整理しておきましょう。

この場でヘグモさんから語られたのは主に保持でのタスクが中心でした。なので、保持に関する選手たちのコメントから拾っていきます。真っ先に強調されていたのは「WGが高い位置で外の張った状態から勝負する」「中盤は簡単に下りない」という2点だったと思います。

前者については岩尾が「最終局面はウイングと1トップのところで、仕事をしてもらう形。できるだけそこもストレスフリーで、有利な状態で仕掛けてほしい」と話していたり、興梠も「中央で崩すっていうよりは、両ウイングが上がって高い位置を取っているので、そこから崩すのがやりたいサッカーだと思う」ということをキャンプ早々に話しています。これはヘッケンを見ていても明確にやっていたことなので、そのまま浦和にも持ち込んでいる形なのでしょう。

そして、後者についてはアンカーもIHもまずは下りないということがベースにあって、IHはライン間にいて手前に人を増やす過ぎないこと、アンカーも簡単に下りたり後列に近づいたりしないことが求められたということがコメントとして出てきています。

ヘッケンではアンカーやIHにはもっと流動性があったので相違点になる可能性はありますが、小泉の「チームの形を作る段階で、そういうの(下りる動きや可変)を禁止している可能性も全然あって、そこでそれをやっちゃうと、計画というか、チームとしての回りが崩れちゃう所はあるとは思う」というコメントや、関根の「キャンプの始めで我慢していたけど、今となっては土台ができたから行っていいよって言ってくれるんで、最初に全部バーって言わないだけで、小出しにしながら積み上げてきてる感じ」というコメントからすると、チームとしてのタスク習熟のためにベースを固めて、そこから1つずつやれることを増やしていきましょうという算段なのだろうと考えると、ゆくゆくはヘッケンでも見られたような3MFの流動性が出てくるのかもしれません。


キャンプ途中のヘグモ監督への囲み取材の内容はクラブ公式でも無料公開されており、その中でもこれに関連する話題があったので引用しておきます。

(現状は、ビルドアップの形でアンカーが落ちないとか、インサイドハーフが落ちないとか、ある程度しっかり立ち位置を守ってプレーをさせているが、このままシーズンを通してそのクオリティーを上げていくのか、それともセカンドステップとして、自由度や応用度が増していく、形を変えたりすることもあるのか?)
「中盤の選手はできるだけ高い位置でプレーをしてもらいたいですけど、状況によっては間に落ちてくることもあると思います。そしてインサイドハーフが上がっていって、トップ下のようなポジションを取ることもあります。そのためには前の3人がしっかりと高い位置で張っていることが必要になります。そうすることによってスペースが生まれます。あとはサイドバックの位置も重要です。良い角度で、下がって受けるのか、上がっていくのか、そういった高さの調節も必要です。相手がプレスをかけてきたら、(西川)周作からの背後へのボールもあります。もちろん、中盤を経由しながら行くこともできますけれど、ダイレクトなプレーもできるようにしたいと思います。先ほども言いましたが、選手間の関係性を築く時間も重要だと思います。シーズン中もそれを続けて発展させていくところです。成長できるところはさせながら。このサッカーをプレーするためにはスキルが必要なんですけれど、それがここ浦和レッズにはあると思います」

2024/2/5 監督会見より抜粋

ここではSBにも触れていますが、酒井や宇賀神も「行けると思った時に行ける」「オーバーラップのタイミングとかが重要」と話しており、保持のスタートから高い位置を取るわけではなく、手前に引いたり前に出たりとボールの状況に合わせてポジションを取ることが求められているのだろうと思います。そして、これもまたヘッケンで観た印象と同じことが求められているということになります。現時点で提示されている保持の原則はヘッケンと概ね同じなのかもしれません。


次に非保持についてですが、こちらもヘッケンと同様に4-1-4-1が基本配置になるようです。そして、プレッシングのスイッチになるのがIHという点も共通しています。ただ、そもそも4-1-4-1という配置で立つ時点でIHがプレッシングに行くのが自然なので、ここは変える方が違和感があるかなと思います。

少し話がズレますが、非保持の特にプレッシングのフェーズについて考えるときに、「縦型システム」「横型システム」という考え方を参照すると4-1-4-1ではIHが前に出るのが自然ということが分かりやすいのではないかと思います。「縦型システム」「横型システム」については以下の動画の41分からの約10分間で説明されているので言葉でピンとこない方は是非ご覧ください。


動画の中で倉本さんも話していたようにあくまでもその配置における傾向という程度ですが、2020年以来、浦和は4-4-2という「横型」を採用しており、昨年は4-2-3-1で「縦型」の風味もつけようとしていたと思います。プレッシングの軸となるピッチ中央の4人のグループで切り取ってみます。

まず4-4-2はこのような感じ。

2トップが中を締めて2FW+2CHの中にはボールを入れさせないようにして、ボールを外側へ誘導するところがスタートになります。なので「最初から行け」にはなりません。

次にこの2トップが縦並びになった4-2-3-1はこのような感じ。

勿論、4-4-1-1のような形であれば4-4-2のようにまずはステイから始めることもあると思いますが、4-2-3-1でCF+トップ下+2SHが中央を担うこのような形かであれば、CFの脇に入ってこようとする相手に対してSHの縦スライドで防ぐことが必要になります。なのでこの配置の場合は「最初から行け」になります。

そして、4-1-4-1はこのような感じ。

4-2-3-1と同様にCFの脇が空いているのでそこから侵入しようとする相手に対しては縦スライドして対応できるようにする必要があります。なのでこれも「最初から行け」になります。そしてCFの脇を出て行く場所にいるのはIHなので、プレッシングのスイッチを担うのがIHになるのは自然な形と言えるという訳です。


話を今季の浦和に戻してIH以外のポジションについて見て行くと、WGについてはプレッシングのスイッチではないものの、そこはそこで前に出て行く必要がある場面も出てくるよねというのがキャンプ中に確認できたことが窺えます。ここはNunberの記事に出ていた部分なので引用しておきましょう。

一方、インサイドハーフとしてチームの潤滑油となるだけでなく、ゴールも記録した小泉が手応えとして真っ先に振り返ったのは守備面だ。

「ミドルブロック、ローブロックのところで、ゾーンで守っているので内側を締めるのは当然ですが、それだけじゃなく、ウイングを外の高い位置に配置して、相手のセンターバックから相手のウイングにグラウンダーでパスを通させないようにしようと話していた。そういう修正は比較的できたと思います」

実は、4日前の名古屋戦ではまさに内側を締めすぎて外側にパスを通され、左サイドバックの渡邊凌磨の守備の負担が増えていたのだ。

小泉の言葉からは、出てきた課題を一つひとつ潰していることが窺える。

Nunber Webでの飯尾篤史さんの記事 より抜粋

試合を観ていないので想像でしかありませんが下図のようなイメージでしょうか。

ヘッケンではWGが前に出るのは基本的にリサイクルのタイミングで、「最初から行け」というものではありませんでした。この図のように4-3-3のWGによる外切りのようなイメージであれば、プレッシングの部分はヘッケンではあまり見られなかったものもやろうとしているのかもしれません。

ただ、名古屋とのトレーニングマッチに向けて相手を意識したトレーニングをしていたとのことで、4-1-4-1のベースはありつつ相手に応じて色々な方法をやっていくということなのかもしれませんし、このパターンはヘッケンではやる必要が無かったり、僕が観ていない試合ではやっていたりしたのかもしれません。


また、ヘッケンでは2シーズン半通して物足りなく見えていたDFーMFのライン間をボールが横切りやすい傾向に対して、浦和でのトレーニングではそれをさせないように意識づけているようなコメントも出てきています。

小泉が「逆サイドの所で、よりボールサイドに寄って閉じ込める所は練習でもあったので、そこをかなり意識してやりました。」と話していたり、岩尾も「追い込んでからは逃がさない」「チームがどれくらい連動してコンパクトに保ったまま、ブロックとして、ユニットとして動くかは言われているので、それは前後もそうですし左右でも同じことが言える」と話していただけでなく、浦レポでの轡田さんによるトレーニングレビューでマリオコーチから「Lock inside!!(中央を封鎖しろ)」という声が掛かっていたとのレポートがあったことからも窺えます。

昨季までの浦和の非保持の長所として、相手を外回りにさせた時に逆サイドのSHの絞りも含めてチーム全体で相手の横幅を圧縮してボールサイドに閉じ込めていくアクションがありましたが、ここについては継続していきそう、ヘッケンとは違いそうだと言えそうです。


現時点での情報だけで整理すると、保持はヘッケンで見られた原則とあまり変わらず、非保持はプレッシングの1stプランはヘッケンと共通しているものの、プレッシングのオプションや、最初に矢印を出した後のアクションについては違いがありそうに見えます。

保持で共通点は多そうだと言っても、選手たちに提示されているのはパターンではなく原則であるということから、実際に起こる現象自体は選手のキャラクターや相手に依存するので見た目には違うことが起こるとは思いますが。

本当はコメントを拾えば割とヘッケンと違うよねという部分が出てくるのかと思っていたのですが、あまりそういう感じではなかったようです。なので、ヘッケンの時と同じような原則が浦和の選手、サポーターと合わさった時にどのような形で表現されるのかを見て行った方が良いということなのでしょう。


3.今シーズン期待すること

僕は大槻さんやリカルドといったチームとしての枠組みを明確にしてくれる指導者のおかげで選手たちの個人戦術で足りていない部分が見えにくくなっていて、そこに対する過信があったのだろうと思います。

個人戦術がチーム戦術に内包されていたことで、結果的に必要なアクションを要求され続けていて出来たことが、チーム戦術の枠組みが変わるとフットボールの原理原則として必要なことであっても、明確に求められなくなるとそれが必要ではないように思ってしまった、あるいは他のことへ意識が向いて忘れてしまった、そういったことが起きていたのではないかと想像します。

なので、仮にヘグモさんが4-1-2-3での保持、非保持というチーム戦術でのアプローチを多めにする人だとしても、フットボールの原理原則である個人戦術の部分もきちんとトレーニング出来る、意識づけし続けてあげられるコーチやスタッフもいる状態にしてもらいたいなと思います。

これは2023シーズンの総括の中で書いたことの抜粋になります。2023シーズンは過密日程、負傷者、色々な事情でチーム戦術のトレーニングをする時間が足りず、チームとしての枠組みが薄い分だけ個人戦術が晒されたという振り返りをしたわけですが、今季ヘグモさんが連れてきたモルテンコーチ、マリオコーチはいずれもこの個人戦術の部分について丁寧に声掛けをしているように聞こえてきてます。

自分がフリーでボールを受けた時に相手に向かって運ぶ、その相手に近い選手は相手の背後から斜めに顔を出してボールを受けられるようなアクションを起こす、自分がボールを受けた時に使いたいスペースは空けておいてから向かっていく、そうしたこと指導されているようです。保持でのチームとしての原則の習熟というだけでなく、こうした部分についてアプローチされていることはとても良いことだと思います。

ヘグモさんは就任する前に西野さんからコンタクトがあった際に「プレースタイルだけではなくて、学習行動のある文化を作りたい」という話があったことを明かしています。ジョアンコーチの就任以来、浦和のキーパーチームが学ぶ姿勢、学ぶ文化を築いていったことで個人戦術が飛躍的に向上しているように、フィールドプレーヤーも同じように向上していけるチームになれるのではないかという期待感があります。

また、スコルジャさんが退任の前に話していた「日本の選手たちはより細かい指導を求める傾向にある」という点について、ヘグモさんはここまで見てきたように明確にポジションごとのタスクを選手たちへ渡しているように見えていて、クラブとして昨年上手くいかなかった課題への対策を取ろうとしていると受け取って良いのではないかと思います。


僕はずっと指導者の選手に対する「決める」と「委ねる」のバランスに主眼を置いてあれこれ書いてきました。昨年は「委ねる」の比重が大きすぎてしまった、個人で出来ることが思っていたよりも少なかったので「委ねる」にしてもプレー選択の幅が少なくなってしまったところがありました。

チームとしての原則があって、誰でもそういうことが出来るように、としたときに「誰でも良い」ということが自分以外の誰かがやってくれる、自分よりもそれが得意な別の人がやってくれる、そういった意識になってしまうことがあったのではないかと思っています。

そうした中で、改めてポジションごとにタスクを明確に渡すことで「これは自分でやらないといけない」という意識づけをして、その次のステップとして隣のポジションの人と状況によってポジション、タスクを入れ替えても良いというやり方をしようとしているように見えるので、今季の中で少しずつ「委ねる」の割合が増えていくことや、それを上手く選手たちが扱えるようになることを期待しています。


今季はチームとしてのトレーニングの時間はしっかり取ることが出来ます。ただ、時間が取れるからと言って質の高いトレーニングが出来るとは限りません。試合よりも普段のトレーニングでの積み上げが必要になるということは、トレーニングでの相手役を担うサブ組に属する選手たちの質と意欲が大切になります。

日常の相手が弱ければ日常で成長することは難しいですし、日常の相手が強ければそれを打倒するために成長することが求められます。優勝しているチームは2006年の浦和も含めて公式戦より紅白戦の方が厳しいと言う選手が多いです。今季の浦和はまさに2チーム分の編成をすること自体は出来ていると思います。となると、この2チームがしっかり機能するだけのマネジメントを年間通して行えるのかというところが課題になっていきます。

そのマネジメントは指導者側だけでやることは難しいです。指導者がどんな声掛けをしても試合に出られない選手は自分の状況に不満を持つでしょうし、それをトレーニングへの情熱へ昇華させるのか、違う方向で発散されてしまうのかは選手自身のセルフマネジメントによる部分が大きいと思います。

そうした時に歯止めになるのは同じ境遇の人がどれだけ頑張っているかなのかなと。人は良くも悪くも周りに影響を受けます。周りがだらけている中でも自分を律していられる人は少数派だと思っています。今季は積極的に実力者を補強しており、そもそも浦和は選手を育てるよりも実績のある選手を連れてくる比率の方が高いクラブです。そういった選手が試合に出られない時にどれだけ強く振舞うことが出来るのかは未知数です。

大抵の人は自分と違う立場の人よりも同じような立場の人のことを気にすると思うので、サブ組になってしまう選手の中で出来るだけ落伍者を出さないように、サブ組の選手の中にも成長する意欲、学ぶ姿勢を貫ける選手が必要です。今季はキャンプから序列が明確につけられているので、試合に出られない焦りや不安があっても尚、成長している実感や充実感を持つことが出来るのかという点でもヘグモさんの言う「強い、学ぶ文化」がどれだけチームに作れらるかは楽しみにしたいと思います。


また、最初から最後まで結果を出し続けられれば良いですが、例えば非保持については昨季までと今季で基準が変わることが想像されるので、その中で上手くいかなかった時には「昨季のやり方が良かった」「昨季のやり方に戻した方が良いのではないか」という声はチームの内外から出てくることが考えられます。そうなった時に監督、コーチ、選手、フロントそれぞれがどう振舞うのでしょうか。

非保持だけであれば、4-1-4-1からの変化形として片側のIHを最初から前に出して4-4-2のようにすることもあるかもしれません。ただ、配置だけ4-4-2のようになったとしても矢印の向け方が縦のままであれば昨季のやり方とは違いますし、そもそも選手が少なからず変わっていますし指導者も違うので全く同じやり方に戻ることはありません。そう考えると、上手くいかない時には「元に戻す」のではなく「今の方向性の中でバランスを取る」という方法にするしかないのだろうと思いますし、それが出来ないと判断した時には指導者を変えるしかないのだろうと思います。

スコルジャさんと同様にヘグモさんもリーグ戦で優勝経験のある指導者ですので、そうした戦況の読みやチームのバランスが取れるマネジメントを期待しての招聘だと思うので、これは取り越し苦労であって欲しいですけどね。


この比較が必要なのかは分からないですが、前にやっていたチーム同士の比較で言うとスコルジャさんよりもヘグモさんの方が静的な印象を持っています。それはトランジションの回転数やそれを起こすためのアクションの強さという点から感じています。そう考えると、昨季の開幕2試合の前輪駆動が空回りしたようなことは起こりにくいのではないかと思っています。

ただ、タスクが明確な分、それをこなそうとしてかえって相手が見えなくなって固くなりすぎる可能性もあります。ヘグモさんが求めているのは手前にも奥にも人を置いているので、相手の状況に応じて適切な方を選ぼうというものだと思います。

「状況に応じて」の中でどれだけ判断基準や優先順位が設定され、そこを見るためのポジショニングが取れるか、見るべき場所を理解しているかが大切です。一朝一夕で身につくものではないからこそ、キャンプでは情報を小出しにしていると思うので、その小出しの中でどれだけ序盤から相手に対応できるのかが問われます。

キャンプ中の岩尾や関根のコメントからするとそういったものへの理解度が高い選手からAチームに入っているということが窺えますし、序列を固定しているからこそ理解度の高い選手同士での関係性構築は捗りやすいと思うので、開幕から高いレベルでそれが表現されてくれると良いですね。


2025のCWCに向けて今一度クラブのスケールを大きくするためのシーズンが始まります。僕のおもいは「とにかく勝ちたい」「勝って欲しい」「優勝したい」それしかありません。さあ、やってやりましょう。


今回はこの辺で。お付き合いいただきありがとうございました。

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