見出し画像

あぶら火の光に見ゆるわがかづらさ百合の花の笑まはしきかも 大伴家持

油火に照らされて見える私のかづらの、
その百合の花の、思わず笑みをこぼしてしまうような美しさよ。

万葉集

大伴家持は746年から5年間、越中に赴任していた。
初夏のある日、国司の役人石竹(いわたけ)が、同じ役人たちを邸に招いて開いた宴会に、家持も呼ばれていた。石竹は百合の花でかづら(髪飾り)を三つ作り、高坏に据えて賓客に捧げたという。家持はこの時に歌を詠んでいる。

都から離れた、いわば出張先での歓待の席。そこへさらなる心配りで、宴に花を添えてくれる岩竹。家持はそのやさしさを大切に受け取り、かづらをほのかで暖かい油火の光とともに歌にしまいこんだ。嬉しさから自然とこぼれてしまった、自らの微笑みを添えて。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?