球ゆらぎ

子供のころから詩が好きでした。いつからか、気に入った詩句をノートに書き写すことを始めま…

球ゆらぎ

子供のころから詩が好きでした。いつからか、気に入った詩句をノートに書き写すことを始めました。そのノートは数十冊になりました。その雑然としたノートを整理し、詩の断片をnoteに保管したいと思いつきました。この場で同好の皆さんにも見ていただけると幸いです。

最近の記事

七色のポエジー(書きとめておきたい古今東西の詩句)

第311回 墓碑銘(ヴィーラント)  Liebe und Freundschaft umschlang die verwandten Seelen im Leben, Und ihr Sterbliches deckt dieser gemeinsame Stein. (愛と友情は、この世で相似た魂を結びつけた。そして、彼らの儚い命はここに合わさった墓石の下に眠る)  ドイツ叙事詩の父、クリストフ・ヴィーラント(Christoph Wieland, 1733~1813)

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      第310回 森の生活(ソロー)  If we do not get our sleepers, and forge rails, and devote days and nights to the work, but go to tinkering upon our lives to improve them, who will build railroads ? (もしも私たちが枕木を並べたり、鉄のレールを延ばしたりすることを止めたらどうなるか。線路の敷設工事に日夜励む代

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        第309回 フランスからの別れ(メアリー・ステュアート) Je vais là-bas, là-bas ! Adieu, mon beau pays de France, tu fus pour moi l’asile sûr, où s’ écoulaient mes jeunes ans ! (私はここから去って行く。さらば、わが歓びのフランスよ。わが最愛の古里は、幼年時代の乳母だった)  悲劇のイギリス女王、メアリー・スチュアート(Mary Stuart, 154

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          第308回 生のよろこび 生のかなしみ(田村隆一) 生のよろこび 生のかなしみ 死のかなしみ 死のよろこび ぼくらはその世界で漂流している 神あらば 大爆笑になるだろう  戦後を体現した詩人、田村隆一(たむら りゅういち、1923~1998)の「生きる歓び」の冒頭。飼っていた猫と尾長鳥を追悼する。死が生を生み、死を通って生がよみがえる。  田村は東京府巣鴨村で生まれた。生家は祖父の代から鳥料理店を経営していた。中学時代から詩作を始める。商業学校から明治大学文芸科に進学。

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          第307回 知恵を得るために(ホラティウス) sapere aude. (知恵を得るために勇気を持て)  古代ローマの詩人、ホラティウス(Horatius, BC65~BC8)の『書簡集』から。<正しい生活を生きる時間を先延ばししてはいけない、今すぐに学問に心を向けよ>という文脈のなかで述べている。  この語句は2千年を超えて生き延びた。カントは1784年に発表した『啓蒙とは何か』で引用している。カントは、<すべての人が自らの理性を尊重するならば、世界はより良いものにな

          七色のポエジー(書きとめておきたい古今東西の詩句)

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          第306回 世界の秘密(ホーフマンスタール) Der tiefe Brunnen weiß es wohl, Einst waren alle tief und stumm, Und alle wußten drum. (深い泉はよく知っている。かつては誰もが深く押し黙り、  皆がそれを知っていた)  ドイツの詩人、ホーフマンスタール(Hugo von Hofmannsthal, 1874~1929)の「世界の秘密(Weltgeheimnis)」の第1連。かつて人々の間

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          第305回 人生れておのおの志有り(王仲宣) 人生各有志 終不為此移 同知埋身劇 心亦有所施 (人生れて各(おのおの)志有り 終(つひ)に此が為に移らず  同じく知る身を埋むるの劇(はなはだ)しきを 心も亦た施す所有らん)  魏の王粲(おうさん、字は仲宣、177~217)の「詠史詩(史を詠ぜし詩)」から。昔、秦の穆公(ぼくこう)が良臣を殉死させたことを非難している。なおやり遂げたいことがありながら、自ら身を埋めることになった三人の忠臣の無念を深く悲しむ。  王粲は曹操が

          七色のポエジー(書きとめておきたい古今東西の詩句)

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          第304回 昨日、今日、明日(バルタス) Hier, demain, ce jourd’hui, Toujours présents, ne sont qu’un seul temps. (昨日、明日、今日は、常に現在にして唯一の時間でしかない)  フランスの宗教詩人、デュ・バルタス(Du Bartas, 1544~1590)の『続聖週間』から。時間が消滅した世界を描く。 南仏ガスコーニュ出身のバルタスは宗教的には熱心な改革派新教徒で、国王アンリ4世に軍人外交官として仕

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          第303回 藤の花ぶさ(正岡子規) 瓶(かめ)にさす藤の花ぶさみじかければたたみの上にとどかざりけり  明治の文人、正岡子規(本名は常規、1867~1902)が死の前年に作った一首。『墨汁一滴』に掲載された10首の冒頭歌。病床にあった子規の視線は、花房の先端が畳に届いていないのを捉える。このありのままを写生した歌が人の心を打つのは、<とどかざりけり>という表現が、死期を暗示して何とも切ないからだろう。  正岡は愛媛県の松山藩士の長男に生まれた。1883年、松山中学を退学

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          第302回 心の社会(ミンスキー) The minds as a society of tiny components that are themselves mindless (心は心を持たない小さな部品が集まってできた社会)  認知科学者、マーヴィン・ミンスキー(Marvin Minsky、1927~2016)の『心の社会(The society of mind)』に書かれた心の概念。ミンスキーのいう小さな部品とは、神経細胞ニューロンが結合した無数のニューラル・ネッ

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          第301回 洛に赴く(陸機) 清露墜素輝 明月一何朗 撫枕不能寝 振衣独長想 (清露には素輝の墜ち 明月は一に何ぞ朗かなる  枕を撫して寝(い)ぬる能わず 衣を振いて独り長く想ふ) ※ 素輝は白い光  六朝時代の詩人、陸機(りくき、字は士衡、261~303)の「赴洛(洛に赴(おもむ)く)道中作二首」の最後の4句。陸は江南出身、晋の武帝の時代に仕官して洛陽に入った。長い道中の間、眠れない夜は遠ざかる郷里に思いを馳せる。  陸は父や兄とともに呉に仕えていた。280年、西晋が

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          第300回 太陽を見つめる(ペトラルカ) Son animali al mondo de si altera vista che ‘contra ‘l sol pur si difende; altri, pero che ‘l gran lume gli offende, non escon fuor se non verso la sera; (この世には眼光鋭く太陽を見つめる生き物もいれば、  強い日射しに耐えられず、日没後だけ外に出るものもいる)  中世イタリア

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          第299回 束縛があるから、私は飛べる(ガンジー) Because there is restraint, I can fly Because there is sadness, I can soar highly Because there are adverse circumstances, I can run Because there is a tear, I can move forward (束縛があるから、私は飛べる。悲しみがあるから、高く舞い上がる。  逆境

          七色のポエジー(書きとめておきたい古今東西の詩句)

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          第298回 春の祝祭(クロプシュトック) Ach, schon rauscht, schon rauscht Himmel, und Erde vom gnädigen Regen ! Nun ist, wie dürstete sie ! die Erd’erquickt, Und der Himmel der Segensfüll’ entlastet ! (ああ、早くも激しく音を立てて、天と地に恵みの雨が降る。 地は渇きを癒されてよみがえり、天は満ち満ちていた祝福の重

          七色のポエジー(書きとめておきたい古今東西の詩句)

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          第297回 のちのおもひに(立原道造) 夢はいつもかへつて行つた 山の麓のさびしい村へ 水引草に風が立ち 草ひばりのうたひやまない しづまりかへつた午さがりの林道を  立原道造(たちはら みちぞう、1914~1939)のソネット形式の詩「のちのおもひに」の第1連。1937(昭和12)年に発表した詩集『萱草(わすれぐさ)に寄す』に収録される。  立原は東京の日本橋で平家の流れを汲む家系に生まれた。幼時から文学に親しみ、13歳で歌集を作った。第一高等学校では短歌クラブに所属

          七色のポエジー(書きとめておきたい古今東西の詩句)

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          第296回 時間とは何か(アウグスティヌス) quid est ergo tempus? Si nemo ex me quaerat, scio; si quaerenti explicare velim, nescio. (では、時間とは何か? 誰も私に問わなければ、私は知っている。だが、誰か問う者に説明しようとすると、私は知らない)   古代ローマ帝国末期の神学者、アウグスティヌス(Aurelius Augustinus, 354~430)の『告白(Confessi

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