鬼(詩)

僕は今自分の中にいる鬼と対峙している


暗闇の中、二本の松明だけが鬼と自分を照らしてる


この鬼の名は「許すまじ」
自分の存在が自由であろうとすると
出てくる化け物だ


本来僕らは何者にも縛られることはなく、好きな道を好きなように存在することを許されている


誰に?
誰にも。


なのに、僕の前に現れるこいつが
いつも立ちはだかって邪魔をしてくる
僕はいつもここで諦めていた


そして今日
また自分の前にこの鬼がやってきた


6月の湿気た空気に
松明がパチリと音を立てて爆ぜる


今日こそ僕はこの鬼と真剣に向き合い、こいつを倒さなくてはいけない
僕は前に進みたいのだ


僕はじわりとした汗を背中に滲ませて 
鬼に向かって宣言した


「僕は自由だ
自分が何者であることも許す!
僕は前に進みたいのだ!!!」


自分が思った以上に大きな声が出て
そんな自分に驚いた


しかし、鬼はもっと驚いた顔をしていた
そして何故か少し嬉しそうだった


風で松明が大きく揺れ
松明の朱色と鬼の赤い顔が瞬間重なった

バチバチと火は大きく広がり
黒い煙が鬼の体を包込み覆い隠すように
僕の視界を塞いだ


再び大きな風が吹き煙がかき消されるとそこに鬼の姿はなかった


僕は自由の身になったのだろうか


鬼は消えたように見えたが
僕が存在するように鬼もまたどこかに存在するだろう


いつかまた対峙するその時まで

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