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詩です。
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砂金➖詩

 私の好きな物書きが言った
「しあわせは、川の底に輝く
 砂金のようなもの」
 愛も似たようなもので
 鮮烈さなど要らなかったと知った

 さんざめき蕩けるような川の底
 目を移ろわせれば反射して輝く砂金
 一粒ずつ拾ってください

 人を愛せたことは
 同時に大きな悲しみが
 確約されたようなものだ

 だけどその砂金の輝きを見つめていると
 見つめていると

鋒を君に突き立て流れ出るは生命

小鳥➖詩

 

 いつから
 僕は籠の中にいたのだろう
 
 抗菌室にも似たそこは
 あなたはここでしか生きられないと
 教えるひとだけが居る
 
 籠の中には
 海も空もなくて
 この電車が
 どこへ行こうと構わなかった
 
 こうなっても僕は
 まだあの時の夢をみる
 
 僕が鳥だった頃に
 
 僕が何も知らなかった頃に
 何かを知るために飛び出したとき
 
 あるいは
 ただ一瞬正気に戻ったとき
 

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羊水➖詩

 羊水の
 懐かしいにおいを思い出している時間
 空はもう
 寝なければならない色をしている
 
 暖かな陽だまりのにおい
 まだ僕たちがなにも知らなかったころ
 
 君は何を求めているの
 あの頃は
 あの頃も
 
 本当はなんにもいらなかった
 暖かな匂いの中で漂っていたい
 
 もし僕が
 人間の姿をしていたのなら
 あなたは僕を温もりで包んだだろうか
 
 ゆらめくような午前四時の
 きら

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ここは終点➖詩

暁の空の色が溶けた海を見ていた
さざなみは私をまた一人にした

もう行く先はない

滅びゆく体 腐りゆく体液

寂しさにほんの少しミルクを注いだような波の音
ゆらめいて消える ゆらめいている

私は 本当にここに来たかったのだろうか

みんなどこに向かっているの?

燃えるような朝日も
芯から凍えた私を置き去りにする
指先はぎこちなく

ここは終点、行く先はない。

この広い浜辺に閉じ込められてい

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