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役に立たない語学のはなし。『その他の外国語』黒田龍之助


大好きな黒田先生のエッセイ。仕事で疲れた頭をリハビリするために読みました。コーヒーを飲みながら、自分も東欧やらヨーロッパやらを歩いている気分になれて楽しいし、いろんな言葉にまつわるエピソードも楽しい。例えば、海外で見る漢字が全然あさっての方向で使われている驚きとか、その国独特の言葉とか、文字とか。

黒田先生は複数言語に優れていらっしゃるので、どれも外国語も同じくらい勉強して楽しいことを教えてくれます。どの言葉がいいとか、どの言語じゃないとかダメとか、そういうのがありません。知らないことを勉強するのは楽しいし、どんな外国語でも楽しいって貴重です。

ただ、世の中の変化は激しくて、黒田先生とか私たちの世代の常識もだんだん通じなくなっていきます。昔のやり方が通じなくなってくるので、黒田先生たちも試行錯誤の連続。

ところが、もう少し(大学生を)観察してみる。するとリスニングが弱いのは、外国語だけではないことに気がついた。日本語でもそうなのである。つまり、人の話を音声で捉えて理解するのが、だいぶ困難なようなのだ。これは新しい傾向かもしれない。…こちらはしゃべってしゃべって、分かってもらおうとする。その音声が届かないのである。

黒田先生は、ロシア語の先生だし、東欧の言葉もできるし、ドイツ語やフランス語も勉強されています。でも、お勤めの大学では英語の授業がメインになっているようす。ソ連崩壊後、ロシア語はあまり人気がないらしい記述がちらほら。大学だけじゃなくて、世の中全体が「英語だけできればいい」「無駄は省け」の雰囲気の模様。

そんなわけで、これまでの黒田先生の本と違って、楽しいエッセイの合間に、黒田先生の微妙なしんどさというか、学生さんたちが多文化に興味を持ってくれないじれったさというか、世の中が効率ばかり求めてくる悲しさが混じっていたりします。

思い返せば、この本が出た頃は、大学で第二外国語が無くなって、英語だけの授業になったりと、いろんな変化がありました。インターネットが発達したのに、若い人たちは逆に、外国にあんまり興味をもたなくなったと言われだしたのもこの頃だった気がします。

大学ってそれぞれいろんなカラーがあるので、学部ごとの雰囲気とか、学生さんのタイプとか、全然違います。もしかすると、黒田先生は新しい大学があまり肌に合わなかったのかなと思っていたら、その後、大学を辞められたとのこと。なんとなく、納得したのを覚えています。



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