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暴力教師の誕生


1.強烈なトラウマ

まだ母親のお腹の胎児の時、夫婦の会話が聞こえてきた。
母「おろそうか?」父「駄目だよ絶対!」
その時の死の恐怖はしみついてしまった。

やがて幼稚園児のころ母親の手につながれ町を歩いている。
黙って手をつながれている。妙におとなしい子。甘えるということができない。

しかし外では結構荒れていた。よくケンカした。付き合う友達も悪く、ある時何人かで近所の乾物屋で店主がいないのを見はらかって、数本ソーセージをかすめて逃げ、広場で3人で食べた。

それをその日の丸テーブルを囲んでの夕飯の時、なんの悪気もない私はついペロっとしゃべってしまった。瞬間、母の顔が急変し何か叫んだなり、いきなり手にした箸がすっ飛ぶほど激しく何度も叩かれた。

私はただワンワン泣いた。

2.繰り返される悲劇

それまで優しかった母親が急変し激しく叩かれた恐怖はトラウマとなって、その後も何度も違う形で現実化した。

ある時、高校生で顔がニキビだらけの兄貴に向かい、漫画で読んだ記事から「月面怪獣!」とからかった。

瞬間、兄貴の顔が豹変し、いきなりバシバシと殴られた。
私はただ悲しくて泣いた。

高校生の頃には、英語の授業で差されて答えられず、ぐずぐずしていると、いきなり先生が「何やってるんだ!」と怒鳴った。

生徒の前で怒られた恥ずかしさでとても悲しかった。

長じて、学校の先生になり夏休み中の自動車の運転免許を取る合宿中のこと。

何気なく運転していている時、いきなり隣席の教官が「何やってんだ!」と怒鳴った。いまだに何で怒られたのか判然としない。

内にため込んだ恐怖心は何度も外側の現実として現れ、その恐怖心を癒してあげなければ何度でも再生されることを後に知った。

3.父の一言で先生に

表向きはのんびりした穏やかそうな子供だった私は、父の一言「お前は先生に向いている。」でそうなることに。

後で知ったことだが、父は自分が先生になりたくてなれずに結局サラリーマンとなり、口癖が「サラリーマンはつまらない」だった。

それで大学受験の時は教育学部を選び、本当は国語や英語の教師になりたかったが、国立は文系でも理科が受験科目にあり、理科が苦手な自分は仕方なく理科の代わりに実技で補える保険体育科を受けることになった。

幸い運動神経はよく、中二の時の担任の体育の先生が憧れだったこともあった。

運よく合格して大学生活が始まったが、長期合宿が当たり前のボート部に入った。体を鍛え寝食を共にした友達とは未だに付き合っている。

ボート部の先輩の女子にラブレターを送り失恋の経験もした。

当時はやった原理運動という宗教にもはまり6年かかってやっと大学を卒業できた。

4.内に恐怖心を抱えたまま暴力教師に

初めて赴任した中学校は駅を降りて、田んぼ道を歩き、林を一つ越えた田舎の風情のある木造校舎だった。

初めての体育の授業。校庭に向かうと生徒たちはガヤガヤとうるさく騒ぐ烏合の集だった。目の前に先生が来ても大して関心も向けられず相変わらずうるさい。

『なんだこいつらは!小学校でよほど躾られずやりたい放題だったんだな。』と思いながらも、何とかしなければ。「静かに!」と叫んでも私は元来、声が小さい。『教室から他の先生や校長が見ているかも。』とお思うとだんだん焦ってきた。

思わず近くの生徒の一人の胸倉をつかみ「静かにしろ!」というが早いが、見事に場が静まり、「座れ!」というと、これもその効果にうっとりするほど生徒達はすぐに全員ぱっと座った。

自己紹介もそこそこに、すぐに立たせて背の順に並ばせ、二列横隊の体育授業の基本体形を覚えさせた。何とか授業を終わらせた。

数日後、教員の着替え室に行くと、生徒の一人が正座させられ、そこに体育主任の先生がいる。と見るなり、いきなり座っているい生徒を殴る蹴るの凄惨な修羅場と化した。後で聞くとその生徒は手の付けられない悪ガキでこうするより他ないという。

やがて新任体育教師の私も生徒になめられてはいけないと自然と暴力教師になった。

だんだんエスカレートして部活の柔道部の子には手抜き練習とみたらビンタ10発とか公言して、口だけと思われてはなめられると思い、それらしい子を見つけては生徒達の目の前で本当にビンタを10発やり、生徒が鼻血を流したことも。

一学年3クラスの小さい学校だったので、免許外で英語と数学も教えていた。

ある時は宿題を忘れる生徒がなくならないので、思わず「宿題忘れたらビンタ10発」と言ってしまった。これで忘れる生徒はいなくなるだろうと思ったのは甘かった。一人忘れてきた者がいた。

そのまま「あれは冗談だよ。」というほど余裕のない私は、実行しないとなめられると思い込み、その生徒を目の前に呼び出し、みんながシーンとなって注視するなか、胸倉をつかみ約束通り10発のビンタをした。

鼻血は出なかったが、その時へこたれるどころか、その生徒は逆に睨み返してきた。その子の目は今だに忘れない。


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