自宅環境での録音(宅録)で問題になる反響の種類・その対処法
こんにちは、じーゆうです。
僕は普段音楽のレコーディングやミックスをしています。
今回は「歌ってみた」等、ボーカルを自宅で録音する際に問題になる反響の種類、その影響、そして対処法を解説していきます。
「録り方」にフォーカスを当てた後編はこちら
残響
これは皆さまわかりやすいかと思います。
お風呂とかトンネルの中のような「響く音」ですね。リバーブとかエコーとか。
音が壁や天井などに反射し続ける(やがて減衰する)ことによって起こります。
部屋にも短い残響が存在します。
残響は周波数によって異なるのですが、一般的なお部屋だとだいたい0.5~0.7秒くらいでしょうか。
レコーディングスタジオ(ブース)では、0.3秒以下が求められます。
ちなみにコンサートホールでは1.5秒~2秒ほどの残響時間があります。
ミックスにおける問題
残響が入っていては、残響が入った音にしかなりません。
『Waves Clarity Vx DeReverb』や『iZotope RX 10』のようなツール(ソフトウェア)で残響を低減することはできますが、少なからず原音にも影響があります。
一般的な部屋の短い残響でも、音が前に出てきづらくなって(奥まって)しまうため、ミックスの自由度が下がります。
残響への対処法
対策は、吸音材を壁や天井に貼ります。
音のエネルギーが吸音材で減衰し反射が減ります。
ただよくあるウレタンの吸音材とかだと、薄いため中高音域以上しか吸音しません。
低域の反響が残ることでブーミーな(ぼわぼわした)響きになってしまいます。
低域の吸音は基本的には分厚い吸音材を設置することでしか対処できません。
そのため、中高音域以上を吸音しすぎず、自然な響きを残した方がいいとされる場合もあります。
フラッターエコー
こちらは壁や床が平行して向かい合ってる場合に、中音域以上の反射が繰り返されることで起こる反響です。「鳴き龍」もそれです。
音としては「ビィィイン」という感じ。全く音楽的でない響き。
一般的なお部屋(例えば引っ越したてのなにもない部屋とか)では残響よりも気になるかも。
ミックスにおける問題
フラッターエコーもまた後処理で低減させることは難しいです。
さらに残響と違い音楽に馴染まない響きですので、絶対に避けてください。
フラッターエコーへの対処法
対策としては、面が平行に向かい合わなければ良いので、コンサートホール等だと壁や天井が斜めに設計されています。
しかし、一般的なお部屋ではすでに壁が平行で建築されていると思いますので、今更斜めにするのも難しいでしょう。
録音時、歌う方向を壁と平行で面に向かってではなく、斜めにすることも効果があります。
ですが、残響の対策もしなければならないため吸音材で対処することが望ましいです。
フラッターエコーも音の反射によるものなので、吸音材で低減できます。
この現象は中音域以上の反射によるものなので、5cm程度のウレタンの吸音材で十分対処可能です。
定在波による影響
定在波は一般的な部屋では必ず存在します。
これによる影響は、部屋の広さによって一部の周波数が強調されたりキャンセル(減衰)されることです。通常低域のみで気にします。
スピーカーでスイープ信号を流すと、特定の周波数で音量が上がったり下がったりして聴こえることがわかります。
日本の一般的な天井の高さは2.4mで、140Hz前後の定在波が問題になりやすいです。
つまり、部屋の場所によって140Hz前後の周波数がかなり強調されます。
定在波への対処法
こちらは低域の反射によるものなので、基本的には低域を吸音するしかありません。(※特殊な低域の吸音装置も存在しますが、高価であったり設計が難しかったりしますので割愛)
10cm以上のグラスウール等の吸音材を問題となる面に貼る必要があります。
ただ、ボーカルの録音ではマイクと口をかなり近めで録りますので、定在波による影響はそこまで考えなくてもよいです。(反射した音よりマイクに入る声の音の方が大きいため)
さらに、低域が多少残響として残りますが、その強調される周波数をミックスのときにEQ(イコライザー)で下げればある程度対処可能です。
そのため、宅録でよほど問題になるということはありません。
どちらかといえばオーディオのリスニングで気になることの方が多いでしょう。
初期反射によるコムフィルタリング
こちらは壁に当たり反射した音が、少し遅れて原音(今回の場合だと声)と重なることによって起こる音が滲む現象です。コムフィルター効果ともいいます。
原理は今回は詳しく説明しませんが、音が滲んでミックスではわりとどうしようもなくなるため絶対に避けましょう。
カラオケなど狭くて硬い壁の部屋で録音すると影響が顕著です。
コムフィルタリングへの対処法
こちらもまた音が反射することによる現象のため、吸音材で対処可能です。
低域で問題になることはそれほどありませんので、5cm程度のウレタンの吸音材で十分対処可能です。
それから、壁の近くで録音することはできるだけ避けましょう。
1m離れていればだいたい問題ないかと思います。
家具の共鳴・共振
こちらは意外と盲点かもしれません。
反響とは少し違いますが一応頭に入れておくとよいです。
例えば、メタルラックや金属製のデスクランプなどが、高い声と共鳴して「キーン」という音を出すことがあります。
他にもステンレスタンブラーとかも鳴りますね。
対策としては、共鳴している物体にタオルを被せれば抑えられます。
よくレコーディングスタジオで譜面台にタオルを被せているのはこれも理由の一つです(もう一つの理由は単純に反射を防いでいます)。
じゃあ具体的なにから始めればいい?
まずはこういった適当なウレタンの吸音材をすべての壁に貼りまくってください。
だいたい壁の面積の半分くらい貼れると十分かと思います。
できれば天井にも貼りましょう。
両面テープはこちらがよいです。
剥がすことも考える場合は、マスキングテープを壁に貼ってからその上に両面テープを貼るとよいと思います。(糊残り等自己責任で。)
さらには、ボーカルのレコーディングのとき、自分の身体の後ろに毛布やブランケットを(物干し竿とかで)吊るすとよいです。
後ろの壁の反射を防げます。
最後に
以上が宅録で問題になる反響についての解説でした。
すべて音が反射して起こる現象なので、反射を抑えれば解決できます。
反響の少ない音は「デッドな音」と表現されることが多々ありますので覚えておくとよいと思います。
デッドな音であれば、ミックス時にリバーブ(残響)を足して残響のある音にすることもできます。つまり自由度が高い。
ちなみに、雪の積もった周りになにもない田舎などでは、反射するものがないため無響室と似た音響空間になります。(建物があると音が跳ね返ってきちゃうよ)
宅録のクオリティを上げるには、マイクやオーディオインターフェイスのグレードアップなどもありますが、一番大事なのは録音する部屋の環境です。(本当に一番大事なのは「歌」ですが…。)
これがダメだとどんなにいい機材を使っていても台無しになってしまいます。
気にするのは反響以外にも、エアコンなどの室内のノイズ音や外から入ってくる騒音もありますね。
他にはマイキングでも変わりますが、ポップガードをつけて、ダイヤフラムから10cm程度のオンマイクで歌えば問題ないと思います。
この記事が宅録環境をよくしたいと考えている方に届いていたら嬉しいです。
以下の後編では、機材の選び方からマイキング、ゲインステージングなどの「録り方」まで解説してますのでもし「よりいい音で録りたい」と考えられている方はぜひお読みください。
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